東京ではたらく

<12>力石(ちからいし)彩さん(37歳)/看護師

  • 文 小林百合子 写真 野川かさね
  • 2017年10月12日

  

職業:看護師
勤務地:東京都大田区 大森赤十字病院
勤続:15年
勤務時間:8時30分~17時(日勤)、16時~翌9時(夜勤)
休日:週2日
この仕事の面白いところ:看護には正解がないこと
この仕事の大変なところ:看護師である限り勉強し続けなければいけないこと

    ◇

 看護師として働き始めて16年目です。東京の看護学校を卒業してからずっと今の病院に勤務しています。

 現在の担当はHCU(高度治療室)といって、ICU(集中治療室)と一般病棟の間に位置する病棟。ICUよりもやや重症度が低い患者さんや、手術直後の患者さんを治療するところです。

 HCUにはベッドが12床あり、それらを日中は4~6人ほど、夜勤は3人の看護師で担当しています。そのうち8床のベッドは、意識レベルが低かったり、のどにチューブが入っていてお話しができないようなより重症度の高い患者さん用。何か異変があってもすぐに対応できるよう、ナースステーションのすぐ前に配置しています。

 HCUの看護師は全部で20人ほどいて、ひとりの看護師は一度に最高でも4人の患者さんしか担当できないという決まりがあります。一般病棟では看護師一人につき7人まで患者さんを担当できますから、それだけ注意深い看護が必要ということです。

HCUのナースステーションは患者さんのベッドに向いて設置されている。声を発せない患者さんの小さな動きを見逃さないよう、常に気を配りながら事務仕事もこなす

 看護師になって初めて配属されたのは一般病棟の消化器内科でした。看護学生時代からホスピス(緩和ケア)に興味を持っていたので、希望が通った形だったのですが、4年ほど働くうち、少しずつ心が病むというか……。ちょっとしんどくなってしまって。

 がんという病気は経過が長くて、何度も入退院を繰り返しながらだんだん悪くなっていく場合が多いんです。長く付き合って仲良くなった患者さんが亡くなることもあって、それはつらかったですね。ダメだと思ってもつい感情移入してしまって、感情をうまくコントロールできないこともありました。

 その後、循環器内科の病棟に異動になったのですが、そこは前の病棟とは正反対で、とにかく救命第一! という場所。循環器内科で多いのは心筋梗塞(こうそく)や狭心症など心臓の疾患なので、とにかく積極的に治療して命を救うぞというスタンスでした。

患者さんの出入りが激しいHCUでは、入った翌日に一般病棟に移る患者さんも。めまぐるしい毎日の中でも、「できるだけ患者さんの名前や顔を忘れないようにしたいと思っています」と力石さん

 もちろん前の病棟のように、がん患者さんの痛みを和らげたり、苦しくないように予後を過ごさせてあげたりするのも大事だし、勉強になったのですが、当時の私にとっては、「生きるためにできることを一生懸命やる」という現場が魅力的で、ちょっと語弊があるかもしれませんが、面白いと感じられました。

 何より、担当した患者さんの多くが、最後は元気になって退院していくというのが、うれしかったんだと思います。

 循環器内科に4年勤務したあと、たしか30歳くらいの頃に、それまでなかったICUが設置されることになったのですが、より高いレベルで救命ができる現場に携わりたいという気持ちから、志願して異動しました。

 でも、現実は想像以上に大変で、最初は何もうまくできなくて落ち込みました。ICUに入る前は、「自分は循環器内科で重症な患者さんをたくさん看(み)てきたんだ」っていう変な自信みたいなものを持っていて(笑)。

 でも、ICUには病院内のいろいろな科から重症の患者さんが集まってくるので、たとえば脳の疾患とか、自分が勉強したことのない症例の患者さんもたくさんいるわけです。

担当患者さんの点滴や薬の準備をするのも看護師の大切な仕事。基本的にコンピューターで管理されているが、それでも取り違えなどがないように、看護師同士で何度もチェックを繰り返す

 治療用の機械の数も以前よりずっと種類が増えて、わからないことだらけ。てんぐになっていた鼻がポキンと折れるみたいな感じでした。

 それでも一般病棟に戻りたいとは思いませんでした。とにかくやるしかないという気持ちで、先生方に勉強会を開いてもらったり、自主的に学会に参加したりもしていたのですが、それでも追いつけないくらいICUのスピードは速くて……。

 患者さんが来たと思ったら翌日にはいなくなってしまうなんていうこともあって、自分が理解する前に物事が動いていく。だからどれだけ頑張ろうと思っても、毎日ちょっとずつできないことが増えていくんです(笑)。

 当時は経験的にも年齢的にも中堅だったので、本当は後輩にいろいろ教えなきゃいけないのですが、それもできない。でも変なプライドだけはあって、先輩になんでもかんでも聞くというのもできない……。

 そんなジレンマがあって、ああ、これはちょっとキツイなと。それで、そんな状況をなんとか打破しようということで、いったん休職して認定看護師の資格取得を目指すことにしたんです。

[PR]

この記事を気に入ったら
「いいね!」しよう

PROFILE

小林百合子(こばやし・ゆりこ)編集者

写真

1980年兵庫県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、アラスカ大学フェアバンクス校で野生動物学を学ぶ。出版社勤務を経てフリーランスに。山岳・自然をテーマに雑誌や書籍の編集を手がける。2010年に女性向け登山雑誌『Hutte』(山と溪谷社)を立ち上げ、独自の視点で登山や自然の楽しみ方を提案した。著書に『山と山小屋』(野川かさねと共著、平凡社)、『山登りのいろはーたのしい登山のヒント集』『一生ものの、山道具』(ともにホシガラス山岳会著、パイ・インターナショナル)など。

野川かさね(のがわ・かさね) 写真家

写真

1977年生まれ。神奈川県出身。雑誌、書籍で活動するかたわら、ライフワークとして山を撮り続ける写真家。著書に『山と写真』(実業之日本社)、『山と山小屋』(小林百合子と共著、平凡社)、『山登りのいろはーたのしい登山のヒント集』『一生ものの、山道具』(ともにホシガラス山岳会著、パイ・インターナショナル)など。

今、あなたにオススメ(PR)

Pickup!