MUSIC TALK

「ひよっこ」宗男おじさん、武道館へ 銀杏BOYZ 峯田和伸(後編)

  • 2017年10月10日

撮影/松嶋 愛

 ミュージシャンとしてはもちろん、映像の世界、特に朝ドラ「ひよっこ」での個性的な演技が注目された銀杏BOYZの峯田和伸さん。ビートルズに憧れ、ビートルズに影響を受けた音楽を始めた一人の男が、この秋、ビートルズと同じ場所に立つ。(文・中津海麻子)

    ◇

(前編から続く)

映画の世界が与えてくれた気づき

――バンド「ゴーイング・ステディ」を解散し、役者として初めて芝居をしたその年、「銀杏BOYZ」が始動しました。

 ゴーイング・ステディの後半に、僕の声にはこういう曲が合ってるとか、こういうライブが得意だとか、自分の特徴みたいなものがようやくわかってきた。次はそれを生かしたバンドをやりたい、もうちょっと音楽に特化したいと思ったんです。でもそのためにはバンドが必要だし、でも友だちいねぇし。で、ゴイステのベースとドラムに声をかけました。「俺ともう1回やんない?」って(笑)。

――音楽以外の世界を見て音楽に影響は?

 ありました。バンドって、レコーディングにしてもライブにしても、プロデューサーは自分たち。メンバー以外は誰も入れない世界の中で作っていく。ところが映画は、たくさんの大の大人がものすごい汗をかきながら必死に一つの作品に向き合っていた。そういう世界を初めて体験したんです。

 音楽も同じで、独りよがりじゃダメだな、ものを作るっていうことをもっと真剣に考えないと……。その気づきとともに銀杏BOYZがスタートしました。今まで本気じゃなかったわけじゃないけど、もっともっと本気でやんねぇと。浮かれてらんない、という気持ちになりましたね。

――ゴイステ時代も銀杏BOYZも、ライブパフォーマンスが激しいことで知られています。

 お客さんを楽しませたいだけなんです。自分の声を聞かせたいとか、俺を見てくれとかいうよりは、目の前のお客さんをどんだけ楽しませられるか。僕にとってライブはそういう場。だから、求められることは全部やってやろうみたいなところが自分の中にある。それがたまに制御しきれなくなって、「過激だ」とか言われたりもするんだけど。そうでもしないとお客さんに飲まれるっていう恐怖がある。お客さんの目つきとか怒号とか、今思い出しても震えます。あれに対峙(たいじ)するには、素ではできない。特にワンマンのライブは熱量がすごいんですよね。

ビートルズを聴いていたら、曲が作りやすくなった

――最近は役者の活動も増え、今年は朝ドラ「ひよっこ」に出演して話題になりました。実感は?

 すごく楽しかったです。でも、演じていて正解がわからない部分もあった。そしたら、休憩時間に宮本信子さんが俺の手をグッと握って「いいぞ、もっとやれ。もっとやれ」って言うんですよ(笑)。そうか、よし、この感じで間違ってないんだなって。監督(岡田惠和さん)、みね子(有村架純さん)など、周りの人たちが「宗男ってこういう人」というのを作ってくれた。

――峯田さんが演じた「宗男おじさん」は、壮絶な戦争体験をし、ビートルズに出会うことで再生していくという役柄でした。演じる上で改めてビートルズを聴いたりは?

 去年の10月ぐらいから、朝起きたらまずビートルズのレコードに針を落として。CDで聴くのもいいんだけど、ドラマの舞台の60年代に生きている人がやっていたような環境で聴きたかったんです。毎日毎日、1日中ずっとビートルズを聴きながらセリフを覚えた。ビートルズのすばらしさを改めて確認しました。それまでもファンだったけど、聴き続けたら自分が好きなポイントがクリアになってきた。今までは「ビートルズのどこが好き?」と聞かれてもうまく答えられなかったんだけど、それが見えた気がして。自分が作る曲にもヒントをもらえました。

 僕は、友だちみたいな曲を作りたいんです。さびしいときに「ちょっと会ってくんない?」って電話して、夜のベンチに二人で座り「こんなことがあってさ」って話をして。銀杏BOYZはそんなふうに寄り添えるような曲を作りたい。それが、ビートルズを聴いていたらすごく作りやすくなった。よかったなぁ、と思います。

  

今の銀杏BOYZのかたち

――2013年、峯田さん以外のメンバーが銀杏BOYZを脱退。オリジナルメンバーとして残ったのは峯田さんだけになりました。峯田さんにとって「バンド」とは?

 バンドって、音を超えたところで見えてくるバックグラウンドが強いですよね。たとえば4人がステージの上にいたとして、全員がバンドメンバーの場合と、アーティストとバッキングの場合とでは、絵が違う。絵のパワーが全然違う。多少音は荒くても、この4人から生まれる音だったらそれが真理、というのが伝わってくる。それがバンドだと思うんです。

――が故の難しさもある?

 そうですね。メンバーの間で一つのイメージを共有できたときに、それがお客さんに伝わる。共有できているときはいいけど、それぞれの生活から生じるズレとかが出てくると、どうしても共有できなくなる。そこが難しい。でも、共有できる一瞬があるから刹那(せつな)的で、だからバンドっていいなと思う。

――今はサポートメンバーとのバンド体制で活動しています。

 今のメンバーはすごく寄り添ってきてくれるので、すごく楽だし、居心地がいいですね。僕がやりたいのはバンドで、サポートメンバーとはいえ銀杏BOYZとしてやっているときは銀杏BOYZでいてほしい。みんな自分のバンドがある中でやっているし、それぞれの美学があると思うから、難しいかもしれないけど。

 昔の曲をやるにしても、バンド時代に奏でていたのと同じ音、同じ表情を今のサポートメンバーで作れるかというと、それは違う。でもその変化は全然いいと思う。正直でいたい。今のメンバーから出る表情を尊重したい。それでいけそうだなと思えたら、昔の曲もどんどんやろうかな、と思っています。これはできない、今は無理っていう曲ももちろんあるけど、でも、それもできる日が来るかもしれない。

 サポートメンバーからすると、昔の曲って結婚相手の連れ子みたいなものですもんね。前の人との子をかわいいと思えるかどうか。僕からするとその子を捨てることはできないし、もちろんかわいいし、でも再婚相手とも子どもを作り新しい家庭を作っていきたいと願う。なんかそういうのにすごく似ている気がします。

7~9月の3カ月連続でリリースされたシングル。(左から)「エンジェルベイビー」「骨」「恋は永遠」

武道館の前にリリースした、3カ月連続シングル

――7月から3カ月連続でシングルをリリースされました。経緯は?

 マネージャーから突然「武道館が決まりました」って報告されたんです。「は?」ですよ。僕、ひとこともやりたいなんて言ってないのに(笑)。でもまぁ、武道館やるならその前になんかリリースできたらいいね、3カ月連続とかどうかな?……って言っちゃった。そしたらレコード会社の人がその気になって。言わなきゃよかった(笑)。

 というのも、実は「ひよっこ」で僕が演じる宗男がメインの週が2週間あったんですが、その収録とレコーディングや曲作りがバッティングしちゃったんです。CDには2曲ずつ収録するのに、まだ半分も曲ができてなかった。曲を作る時間もないし、メンバーも自分のバンドがあるからそろって練習できる時間も限られているし、セリフも覚えなきゃいけないし、その上フェスにも出なきゃいけないし……。正直きつかった。ビートルズに会いたくて武道館に向かう宗男を演じながら、武道館ライブのための曲を書かなきゃって焦ってて、ホントにあの時期は頭の中にずーっと武道館がありましたね(笑)。

――宗男が、そして峯田さん自身も憧れたビートルズが踏んだ武道館のステージ。意気込みは?

 ビートルズと同じ場所に立てるっていうのは、すっごいうれしいです! ただ、武道館だからこうしてやろう、とかはない。銀杏BOYZがこれまでやってきたことを、武道館でも変わらない感じでやりたい。何より、アルバムがなかなか出なくてもずっと待っていてくれたお客さんたちに、「銀杏BOYZを好きでいてよかった」「これからの銀杏も楽しみ」と思ってもらえるような、そんな一日にしたいですね。

――ミュージシャンとして、そして役者として、これからの夢は?

 そうですね……。ずっとこのままでいたいです。音楽やったり、たまにお芝居したり、このまんまの俺でお客さんに「いいね」と言ってもらえるようになりたいし、このままでいられるように努力したい。

――今後の予定は?

 とりあえず武道館ライブが終わったら、1週間休みます。完全オフ! スマホの電源も切って、私を探さないでください(笑)。で、最近曲は作れているので、来年アルバムを出せたら理想ですね。それを引っさげてツアーもやりたいと思っています。

    ◇

峯田和伸(みねた・かずのぶ)

1977年生まれ、山形県出身。1996年、「ゴーイング・ステディ」を結成、2003年に解散。同年、ゴーイング・ステディのメンバーだった安孫子真哉(ベース)と村井守(ドラム)、新メンバーにチン中村(ギター)を迎え、「銀杏BOYZ」を結成。2013年11月、安孫子真哉、チン中村が脱退。同年12月、村井守が脱退。現在はサポートメンバーを交えて活動している。
2017年までにオリジナルアルバム3枚とライブリミックスアルバム1枚を発表。10月13日にバンド初の日本武道館公演となる「日本の銀杏好きの集まり」を開催。それにむけて7月から3カ月連続でシングルを発表した。
バンド活動の傍ら、映画や舞台に出演するなど活動の幅を広げ、NHK朝の連続テレビ小説「ひよっこ」でヒロインの叔父、小祝宗男役で出演。

銀杏BOYZ公式サイト:http://www.hatsukoi.biz/

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