パリの外国ごはん

ポルトガルで食べるよりおいしい本場の味。「Saudade」

  • 文・写真 川村明子 イラスト 室田万央里
  • 2017年10月10日

  

  

  

 バカンスでスリランカに行き、パリに戻ってすぐに万央里ちゃんに連絡をした。

 お互いにかなりスケジュールが立て込んでいて、わずかな隙にごはんを食べに行く予定を立てる。日程が決まったところで「シャトレに、ポルトガル料理のお店あるじゃん。あそこどうかな?」と提案してみた。

 スリランカで家庭料理を味わって、現地でしか食べられないものを楽しんだ旅のあとに思い浮かんだのは、少しひなびた印象のあるポルトガルの味。「前にも言ってたところね」「そう」。ということで、人通りも交通量も多いリヴォリ通りから、脇に入った小道にあるポルトガル料理店Saudadeで待ち合わせをした。

タコのサラダに、干しダラのコロッケ、ザル貝の白ワイン蒸し……

 その店の中に入ると、ずっと変わらずに時を刻んでいる空気があった。白いテーブルクロスがピシッとかかり、壁にはところどころにブルーのアズレージョ(タイル)が貼られた店内はクラシックで、リュスティックなビストロではなく、レストランの趣だ。先に着いた万央里ちゃんが頼んでいたガス入りのお水は、見覚えのあるボトルで、そうだそうだリスボンではこれだった、と思い出した。

 メニューを開くと、いちばん上に“Caldo Verde(グリーンのスープ)”があった。ポルトガルでは定番のキャベツとポテトのスープ。それを見た途端に、ポルトガルで食べた味が口の中によみがえる。

 タコのサラダに、干しダラのコロッケ、ザル貝の白ワイン蒸しもある。ザル貝の前菜は、20年近く前、もう表紙が擦り切れるほどに見返していたパリのレストラン本に掲載されていたものだ。あぁあのお皿は健在なんだなぁと、食べる前にもかかわらず、すでに感慨深い。ただ、この日は2人そろって、体が少し疲れ気味だった。それで前菜は、「お酢の味が食べたいね」とサーディンのエスカベッシュ(南蛮漬けのようなもの)をシェアすることに。

  

 続くメインは、すぐに決まった。リスボンに行ったときにいちばん食べたかった料理、豚肉とアサリのアレンテージョ風。アレンテージョはポルトガルの中南部に位置する地方で、リスボンはそこに属さないのだが、伝統料理を出すレストランでは大抵メニューにあった。本場ではないかもしれないけれど、豚肉とアサリの組み合わせにひかれて、食べてみたのだが……一皿食べきれるものには出会えなかった。ともかくしょっぱかったのだ。ただ、あれこそがポルトガルの味かもしれないなぁという気もしていた。それを確かめたい思いもあって、そして豚肉とアサリの組み合わせにはやっぱりひかれて、この日も頼むことにした。

 メニューには、魚介、肉料理がそれぞれ6品ずつあり、それとは別に“バカリャウ(塩漬け干しダラ)”だけが6品並んでいた。ポルトガル料理といえば、やっぱりバカリャウは気になるところ。万央里ちゃんは、その中からトマト、たまねぎ、じゃがいもと一緒にオーブンで焼いたものを選んだ。

  

 シェアしたい、とお願いしたエスカベッシュは、あらかじめ小皿に分けて運んできてくれた。フレンチではなかなかない。さっそくいただく。とても優しい味だった。お酢の酸味も塩味も、全体がまろやか。サーディンもほろっと身がほぐれる揚げ具合で、油っこさは全くなく、マリネ液のつかり加減もちょうどよかった。あぁこういう柔らかな酸味のものを最近食べていなかったし、体は欲していたんだなぁと感じた。

 もしかしたら、元気なときに食べたら、もうちょっとキリッとお酢が効いていたらよかったなと思ったかもしれない。でも、このちょっとぼやっとした味こそがポルトガルで食べた味だ。そして、付け合わせのお豆がいい存在感を出していた。エスカベッシュもしくは南蛮漬けにお豆の組み合わせは初めて食べた気がする。これはうれしい発見。今度自分でも作りたい。

 ほっとする味に疲れが少し癒えたところで、ほかのテーブルに運ばれるメインのお皿を目にし、そうだった……と新たに思い出した。ポルトガル料理は、ボリュームがすごいのだ。お皿自体も大きいし、盛り方もダイナミックで、さらに全体の半分かそれ以上の割合でジャガイモが付いてくる。若干、戦いにでも挑むような気持ちが芽生えてきたところで、私たちのところにも大きな2皿がやってきた。

  

 量にはやっぱり少しひるんだけれど、それを消し去るくらいに、目の前に置かれたお皿は食欲をそそる匂いを放っていた。これはイケるかも?! とがぜんポジティブになる。香ばしく焼かれた豚肉からひと口。身が適度に引き締まってジューシーだ。アサリを続いて食べると甘味を感じた。ということはお肉の方がしょっぱいってことか、と思いながらソースを絡めてジャガイモを食べたところで気づく。このパンチのある塩気はソースだ……。

 考えている私に、万央里ちゃんが「この豚肉、塩漬けにしてるかもね」と言った。そう、まさにそういう塩気だ。そう考えるとリスボンで食べた味にも納得できた。そのお肉の焼き汁にワインを注いで作ったと思われるソースは、そりゃぁパンチが効いたものになるだろう。なるほどなぁ。

 でもこの味は、本当に現地で食したものをまざまざと思い出させた。干しダラを味見させてもらうと、こちらは、本場よりもおいしかった。私は、どうしても途中で飽きてしまうので、干しダラを使ったものは、コロッケなどの前菜で注文してもメインで取ることは諦めてしまう。でもこのお皿は、タラが身も味もふっくらしていて、おいしいお鍋を食べているような印象だった。これはまた食べに来たいな。小食の万央里ちゃんが珍しく、ほぼ完食していた。

  

 おなかがいっぱいでカフェさえも飲めず、お会計をして出口に向かったところで、デザートに目を奪われた。パステル・デ・ナタ。エッグタルトとかカスタードタルトと訳されるお菓子。リスボンでは毎日食べた。ここのはきっとおいしいに違いない。次回は万全の体調で訪れて、デザートまで食べよう。

  

Saudade
34, rue des Bourdonnais 75001 Paris
01 42 36 03 65
12時~14時、19時~22時30分
休み:日

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PROFILE

川村明子(かわむら・あきこ) 食ジャーナリスト

写真

東京生まれ。大学卒業後、1998年よりフランス在住。ル・コルドン・ブルー・パリにて製菓・料理課程を修了後、フランスおよびパリの食にまつわる活動を開始。現在は執筆のほか、パリで活躍する日本人シェフのドキュメンタリー番組『お皿にのっていない時間』を手掛けている。著書に『パリのビストロ手帖』『パリのパン屋さん』(新潮社)、『パリ発 サラダでごはん』(ポプラ社)
日々の活動は、Instagram: @mlleakiko、朝ごはんブログ「mes petits-déjeuners」で随時更新中。

室田万央里(むろた・まおり) 料理人

写真

無類の食べ物好きの両親の元、東京に生まれる。
17歳でNYに移り住んだ後、インドネシア、再び東京を経て14年前に渡仏。
モード界で働いた後に“食べてもらう事の喜び”への興味が押さえきれずケータリング業に転身。
イベントでのケータリングの他、料理教室、出張料理等をパリで行う。
野菜中心の家庭料理に妄想気味のアジアンテイストが加わった料理を提供。理想の料理は母の握り飯。未だその味に到達できず。
Instagram @maorimurota

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