ワインとごはんの方程式

角田光代さん×杉山明日香さん対談1「 魚卵に合うワインって……?」

  • 写真 興村憲彦
  • 2017年10月12日

  

 5年ほど前に共通の知人から紹介され仲良しになったというお二人。もともと赤ワインとお肉が大好きという角田さんでしたが、どうやら最近は好みが変わってきたようで……。メドックマラソンの思い出から、魚卵とワインの合わせ方、最近おすすめの“箱ワイン”の話まで……ほろよい対談は爆笑の連続でした。

    ◇

杉山明日香 じゃあ、まずは乾杯から……!

角田光代 はい、乾杯!

明日香 今日一杯目にご用意したのは、私の大好きなシャルドネ100%のシャンパーニュ、“Pernet & Pernet”です。角田さんが私のお店(西麻布・ゴブリン)に来てくださったときは、だいたいいつもこれを最初にお出ししています。

角田 ああ、そうなんですね。(ゴクッ……)今日もおいしい!

明日香 おいしいですね! さて……まずはやっぱりメドックマラソンのお話からお聞きしたいなと。去年、参加していらっしゃいましたよね。

角田 そうです! たまたま行きの飛行機が一緒だったんですよね。

明日香 私は取材でワイン生産者を訪ねるためフランスへ向かっていたところでした。メドックマラソンは給水所でワインが出てくるとか、毎年テーマに沿った仮装をして走るとか色々楽しそうなんですが、角田さんはありえない強行スケジュールでマラソンに参加されていましたよね? たしか、2泊4日とか……。

角田 そうそうそう。東京を夜出て朝パリに着き、そのまま国内線に乗り換えてボルドーへ行き、次の日に走って、その翌日の朝イチで帰りました。

明日香 信じられない……! 私はあのとき初めてメドックマラソンを見ましたが、端で見ていて本当に街を挙げてのお祭りなんだなあと感じました。すごく盛り上がっていましたよね。前日も遅くまでワーワー騒いで飲んでいるし。おまけにその年のマラソンの仮装のテーマが……なんでしたっけ?

角田 “正装”でした。

明日香 そうそう! もう角田さんの格好がすごくて……忘れられません。

角田 ハゲのカツラと法被(はっぴ)でした。できるだけ軽い服装にしたくて。

  

メドックマラソン、走り始めて2kmでカヌレが

明日香 あははは……! 角田さんがちょんまげに法被だなんて。誰も角田光代だとは知らず、ガンガン写真撮られていましたよね(笑)。メドックマラソンは途中で料理がたくさん出てきますが、あのときのスタートは何でしたっけ?

角田 走り始めて2kmで朝食のカヌレ(ボルドーで有名な焼菓子)が出ました。そこからずっと走り続けて38kmくらいでスターターのカキと白ワインが出て、次がメインのステーキ。みんな立ち止まってガーッと食べ、また走り出していましたね。そして最後はデザートのアイスクリーム。すごいのは、あのエリアのシャトーが全部オープンになることですよね。

明日香 そうそう、かなり有名なシャトーも開放されていてびっくりしました。メドックの格付けって1級から5級まであるんですが、普段はなかなか入れない格付けシャトーもコースに入っていて。レースのときはシャトー内に入ってワインを提供してもらえるんですよね。

角田 シャトーが給水所のような感じになっていて。

明日香 すごいですよねえ。あの辺はブドウ畑の間に湖が見えたり、風景もすてきですし。あ、たしかお手洗いもブドウ畑の中でしたっけ?

角田 そうそう! 簡易トイレがあるわけでもなく、ブドウ畑の中で勝手にするという感じなんです。肥料になるから。女性もけっこう中に入ってしゃがんでやっていましたよ。あれ以来、ボルドーワインを飲むと、いろいろ頭に浮かんじゃって(笑)。ああ、みんなの汗と尿の結晶が……って。

明日香 でも、もともと土には牛などのふん尿が混ざっていますから(笑)! それに、収穫するときはたくさんの人に来てもらって一気にブドウを摘むんですが、そのときもみなさん畑の中で用を済ませたりも。マラソンのときはちょっと量が多いのかもしれませんけど(笑)……。それはさておき、そういえば、あのときはレース後にボルドーの街で一緒に赤ワインとお肉を食べましたね。

角田 おいしかったですねえ。明日香さんに連れて行ってもらったお店は、夜10時過ぎまで行列ができていてびっくりしました。

明日香 あれはボルドーの中心街にある名店なんです。私はボルドーに行くたびに必ず立ち寄ります。

  

おいしいことには理由があるのだなあ

角田 明日香さんと一緒に飲むと、どうしてこの料理にこのワインが合うのか、理論的に説明してくれるので、「おいしいことには理由があるのだなあ」とわかって楽しいです。

明日香 私、ついつい語りたくなっちゃうんですよね。こことここが合うからおいしいね、って。

角田 明日香さんは話が面白いから好きです。逆に嫌なときもあるじゃないですか。料理を運んでくれたタイミングで延々ワインの説明がはじまって、「お願いだから早く食べさせてくれ!」みたいな(笑)。

明日香 あははは!

角田 明日香さんの話はついつい聞いちゃうんです。おあずけ状態での説明はせず、食べはじめてから話してくれるのでなるほどーって思いますもん。ボルドーのそのお店でも、なぜボルドーのお肉とボルドーワインが合うのかって説明してくれて。その話がすごく面白かったです。

明日香 あのお店には、お肉に合わせて黒コショウを使ったソースがあるんですが、ボルドーのカベルネ・ソーヴィニョンにもスパイシーな香りが入っているので、“スパイシー×スパイシー”の相乗効果でワインも料理もグイグイ進んじゃうんですよ。私、あの組み合わせが大好きで。ちなみに、角田さんは、普段どういう風にワインを買われていますか?

  

あのプランタンの店員さんはどこへ……?

角田 うーん、まずは値段ですね。だいたい2000円台から3000円台のものを10本くらいまとめて買っています。

明日香 ネットではなくショップで?

角田 そうですね。

明日香 私もワインショップで買うのがすごく好きで。本もそうだと思いますが、実物を見てジャケ買いしたり、ボトルを持ったときの感じ、ワインの色などを見て選ぶのが好きなんです。

角田 実物を見た方がワクワクしますよね。あと、今はなくなってしまいましたが、銀座のプランタンの地下のワインショップに名物店員さんがいたんです。一見ふつうの年配の女性店員さんなんですが、すごくワインに詳しくて。「これはギョウザに合うよ」とか、日常の食べ物とのマリアージュを教えてくれるんです。プランタンなき後、あの店員さんが今どこにいるのかすごく気になっています。

明日香 へえ、そうなんですか! 最近はどこのお店で買っていますか?

角田 伊勢丹の地下に行くことが多いんですが、あそこにはワインに表がついていて……。

明日香 酸味とか果実味とかが示されている、味わいのバランスシートのようなものですよね。

角田 そうそう! それで自分の好きなワインがバランスシートのどのあたりにポイントされているか覚えておくんです。毎回それに近いものを買っています。

明日香 なるほど~! 

角田 自分の好みの位置にポイントがあれば、「あ、好きなやつだ」ってわかるんです。私、地名とか品種とか全然覚えられなくて……。

  

とんかつも、塩かソースかでワインが変わる?

明日香 その方法は新鮮ですね。そういえば、赤ワインと納豆を合わせることもあるとか?

角田 はい、納豆は発酵させているので、同じ発酵食品同士合うと聞いて。

明日香 そうなんです。ワインって基本的に乳酸発酵しているので、実は合うんですよね。私もぬか漬けとこのシャンパーニュを合わせるのが大好きで。マグロ納豆にした場合は、軽めの赤でもよく合いますよ。

角田 そういえば、明日香さんが書いていた『おいしいワインの選び方』はすごく面白かったです。どれも日常の料理だから身近で。

明日香 ありがとうございます。日常の料理とワインをどう合わせたらいいのかはよく聞かれることなんです。ギョウザ、肉じゃが、とんかつといった普通の家庭料理にワインをどう合わせるのかはみなさん知りたいんですよね。たとえば、とんかつを塩でいただくなら、たるの効いたシャルドネがおすすめです。なぜかというと、トンカツは白系のお肉なのでそこまで味が濃いわけじゃないけれど、衣をつけて揚げるので香ばしさがあります。だから、たるの香ばしさのあるシャルドネとは“香ばしさ”つながりでよく合うんです。一方、ソースをかけていただくなら、ピノ・ノワールもいけます。

角田 面白い。そういうのって明日香さんの頭の中で数式みたいのがあって、料理を見た瞬間にカチカチカチ……って合わさるんですか?

明日香 あははは(笑)。そうですね、いつも勝手に“脳内マリアージュ”しているので、公式みたいなのはあるかもしれません。合うポイントがいくつかあって、その中でこの料理とこのワインはここが合うな、っていうのがわかります。逆にまったく合わない法則もありますよね。たとえば私、魚卵系がすごく好きなので、魚卵といろんなワインを合わせたりもするんですが……。

角田 はい!(目が真剣に)

  

数の子に合うワインって、ありますか?

明日香 キャビアや数の子にシャンパーニュはすごく合うんですが、赤ワインにしたとたん、びっくりするぐらい生臭くなるんです。

角田 ああ……!! 数の子は……。(顔をしかめる)

明日香 イクラだとまだ軽めの赤ならいけるんです。でも、数の子にしたとたん、生臭さがすごい。

角田 それ、ものすごくわかります!

明日香 でも、合わないものもあえてやって楽しんだりして。こんなに合わなかったわ、やっぱりって(笑)。苦手なタイプの人でもあえて会ってみたいとかあるじゃないですか。

角田 じゃあ、逆に数の子に合うワインって、あります?

明日香 酸味が効いたさっぱりとした白ワインなら合うと思います。ただ、たるがしっかり効いたワインには合いにくいですね。たるって生臭さを助長させるひとつの要因なんです。たとえば、青魚でもあぶったものは香ばしさがあるからたるの香ばしさとなんとか合うんですが、そのままで合わせると結構生臭いと感じたりも。だから、今飲んでいるシャルドネ100%のシャンパーニュとか本当に合うと思いますね。角田さん、数の子お好きなんですか。

角田 はい! 実は長年の私のテーマなんです。

明日香 テーマ?

角田 数の子と赤ワインって本当にまずいので。こんなにワインと合わないものはないと思っているんです。

明日香 なるほど~。じゃあ、ブラン・ド・ブランのシャンパーニュなら合うので、ぜひ今度試してください。

角田 はい、ぜひやってみます!

(対談2に続く~10月19日更新予定です)

(構成・宇佐美里圭)

■角田光代(かくた・みつよ)
作家。1967年神奈川県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。1990年「幸福な遊戯」で海燕新人文学賞を受賞し、デビュー。1996年『まどろむ夜のUFO』で野間文芸新人賞、2003年『空中庭園』で婦人公論文芸賞、2005年『対岸の彼女』で直木賞、2006年『ロック母』で川端康成文学賞、2007年『八日目の蝉』で中央公論文芸賞、2011年『ツリーハウス』で伊藤整文学賞、2012年『紙の月』で柴田錬三郎賞、『かなたの子』で泉鏡花文学賞、2014年『私のなかの彼女』で河合隼雄物語賞を受賞。著書に『真昼の花』『三月の招待状』『森に眠る魚』『くまちゃん』『空の拳』『平凡』『坂の途中の家』『拳の先』など多数。

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PROFILE

杉山明日香(すぎやま・あすか)理論物理学博士・ソムリエ

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東京生まれ 唐津育ち。理論物理学博士・ソムリエ
有名進学予備校の数学講師として、主に東大進学クラスや医学部進学クラスを担当するかたわら、ワインスクール「ASUKA L'ecole du Vin」ではソムリエ資格試験対策講座を主宰する。またインポーターとしてシャンパーニュ・ワインの輸入業や、西麻布のワインバー&レストラン「ゴブリン」、パリの和食店「ENYAA」のプロデュースなど、ワイン関連の仕事も精力的に行っている。
著書に『ワインの授業 フランス編』(イースト・プレス)、『受験のプロに教わる ソムリエ試験対策講座』(リトルモア)、『おいしいワインの選び方』(イースト・プレス)
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■撮影協力:ゴブリン

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