このパンがすごい!

十勝の小麦に出会い生まれた感動の味/komorebi【新麦シリーズ(2)】

  • 文・写真 池田浩明
  • 2017年11月7日

■komorebi(東京)

 10月20日に解禁された北海道新麦。それを祝って、新麦を使ったおいしいパンを焼く店を紹介する。

 店内にてるてる坊主が下がっていた。小麦にとっていちばん大事な収穫期に雨がふらないことを祈ってのもの。昨年の、北海道産小麦の未曽有の不作から1年。てるてる坊主の願いはかなって、無事新麦は届いた。

 店頭にはお祝いに「新麦春よ恋のパン」が出されていた。新麦のおいしさをわかりやすく味わえるよう焼きは白い。ふにーんという食感はまるでおもち。ごはんのように清らかな甘さは、溶けていくごとにミルキーさを発揮。いかにも日本の麦という味わいが、この国に小麦が育つことの感動を伝えてくれた。

新麦春よ恋のパン

 「新麦のせいか、グルテンの質はいつもよりしなやかで、味わいはすっきりな気がします」と斉木俊雄シェフ。夏には毎年北海道を訪れ、小麦の産地を巡る。新麦春よ恋が生み出される、北海道斜里の風景も知っている。

 「空気がからっとしていて、夏も気温が上がりすぎない。ゆっくりと育ってくれるから、(春よ恋のような)春まき小麦には適してるんじゃないでしょうか」

 名物の「komorebi食パン」もいまは新麦春よ恋バージョン。よく焼けた耳の満ち足りた甘さは焦がしバターのよう。発酵の香りはとても澄んでいる。歯を受け入れつつやさしく沈み、ふにっとちぎれる。ぐにゅーんと溶けて、熟成した小麦の風味とミルキーな風味がとてつもなく気持ちいい。

新麦「春よ恋」小麦のkomorebi食パン。無調整で脂肪分4.0を実現したプレミアムな牛乳、タカナシ「北海道4.0牛乳」を使用

 「冷たいかちかちのバターを、ダイス状に切ってミキサーに入れます(溶かすと風味が悪くなる)。低速でまわして、あとは時間をかけてゆっくりグルテンをつないでいきます。風味を殺したら、いい素材を使う意味がない。もともとの素材感をお客さんに伝えたい」

 同じ生地から作られる「まるパン」も、むちーっとなるやわらかな食感と春よ恋の清らかな味わいとミルキーさを、食べきりサイズで味わえる。

 去年の新麦の時期に食べて忘れられず、今年もまた買ったバゲット。十勝産小麦「ホクシン」特有のしょうゆを焦がしたような香りが鼻腔(びこう)をくすぐり病みつきにさせる。強い火と小麦が出会って生まれるかりかり感とおこげ感。手ごわい皮に包まれるのは、ぷよぷよな中身。味わいの濃度に舌がじんじんする。

 バゲットは斉木さんにとって原点。オープン前、材料問屋の倉庫で出会った十勝産の小麦粉「スムレラ」(アグリシステム)で最初にバゲットを試作したとき、komorebiの味が決定づけられたのだという。

 「いちばんはじめに作ったパンを一口食べたときの感動が忘れられず、いまもそのイメージを追ってパンを作っています」

 「土蔵農場のキタホナミとオーガニックマスカットとくるみのパン」。中身がふるふるとして、ねっとりと溶ける。おかゆのように。キタホナミのたおやかな甘さがじわじわやってきて、汁気たっぷりのレーズンと、やさしく滋味深いクルミを噛(か)む。あまりにもすいすい喉(のど)を通って、止まらなくなった。

土蔵農場(十勝本別町)のキタホナミとオーガニックマスカットとくるみのパン

 このパンは、十勝本別町の土蔵農場を訪れたときに生まれた。

 「ちょうどそのとき、はるこまベーカリー(帯広)の栗原民也さんが、土蔵さんの小麦を石臼挽きした粉で焼いたパンを持ってきていた。それを食べたとき、思いついたのがこのパン。単体より他の材料と合わせたほうがおいしい。くるみはえぐみが出ないように薄皮をとっています。スタッフにはさせられないので毎日自分で。土蔵さんの小麦をおいしくしたいという使命感ですね」

 小麦に出会うことによって誕生するkomorebiの味。小麦とその作り手にこれほどまで敬意を払うのはそのためだ。

 「こうやってうちのパンができているのはぜんぶ小麦のおかげです。国産小麦があって本当によかった」

>>続きはこちら

■komorebi
東京都杉並区永福3-56-29
03-6379-1351
9:00~19:00
月曜休(祝日の場合は火曜)

>>「このパンがすごい!」でご紹介した店舗マップはこちら

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PROFILE

池田浩明(いけだ・ひろあき)ライター

池田浩明

佐賀県出身。ライター、パンの研究所「パンラボ」主宰
日本中のパンを食べまくり、パンについて書きまくるブレッドギーク(パンおたく)。編著書に『パン欲』(世界文化社)、『サッカロマイセスセレビシエ』『パンの雑誌』『食パンをもっとおいしくする99の魔法』(ガイドワークス)、『人生で一度は食べたいサンドイッチ』(PHP研究所)など。国産小麦のおいしさを伝える「新麦コレクション」でも活動中。最新刊は『パンラボ&comics 漫画で巡るパンとテロワールな世界』(ガイドワークス)

BOOK

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