野村友里×UA 暮らしの音

ヒトにとって「時間」ってなんだろう

  • 文・写真 UA
  • 2017年11月2日

この夏ライブを行った日比谷野外音楽堂の裏側で

 東京・原宿のレストラン「eatrip」を主宰する野村友里さんと、歌手のUAさんが手紙を交換し合う連載。今回は、日本でのツアーを終え、現在暮らしているカナダの島に戻ったUAさんからのお便りです。

  ◇

>>野村さんのお手紙からつづく

友里

 お返事ありがとう。

 四季を腑に落としながら、味に彩りを与えていくのがあなたのライフワークだものね。例えば、内臓にそれぞれ名があっても、それらは分かれているわけでなく、五臓六腑はすべて繋がっていて生命が巡っているように、四季もまたその狭間に日本人の情緒が育まれる所以とも言えるような、奇跡的な色合いを見せてくれるよね。

 私はちょうど島に戻ってきたところ。とにかく日本は雨だったね~。秋の長雨といえども、あんなに雨の多い秋には覚えがないほどね。4週間前には長野の主人の実家で稲刈りを手伝ったのだけど、もう神無月も終わるというのに、大阪の実家のそばにある田んぼの稲なんてまだ刈られてないんだから!

長野の稲刈り寸前

 秋雨、秋霖、すすき梅雨(これ可愛い)なんて、秋の長雨にも色んな呼び名があるようだけど、神無月にしたって、出雲や諏訪あたりでは神在月と呼ばれるそうだし、そんな四季の移ろいを表す言葉を追っていくだけでも、しみじみとした感性をもって日本語を学んでいけるはずよね。うん、うちの子供たちにも実践してみよう。しかし日本ほど多彩に季節にまつわる言葉を楽しむ文化も、なかなかないのじゃないかしらね。

カナダで島暮らししている理由

 根室かあ、私のいる島と緯度が近い。せっかくこの広い銀河の中でも、とびきりスペシャルな地球人としてこの世にやって来たのだから、やっぱり、まるで神の手業としか思えないような自然のダイナミズムに触れていたいよね。

 私が、ここカナダでの島暮らしをしている理由の一つには、人間にばかりフォーカスしてしまいがちな自分のためでもあるの。もっと楽に、いつも周りにある自然にフォーカスしていられたら良いのだけど、日本にいるとどうもそれが上手く行かない。ふと氣づくと、人、人、人!のことで頭が一杯。決して人嫌いなわけじゃないんだけどさ。(そんなの知ってるよね?)

 それにこちらでは、だーれも私のキャリアを知らず、私が長年歌を歌ってきたと話したところで、多分、半信半疑。だって自称ミュージシャンだらけの島だしね。じゃ、何か歌ってみてよと言われたら、うーんと悩んだ末に、母の故郷、奄美の加計呂麻島の神歌を歌ったりして。いかんせん楽器が弾けないもんだから、日本でヒットした曲などは、とてもアカペラで披露する氣にはなれない。

 その神歌はね、母の育った村の隣村出身の唄者、朝崎郁恵師匠から習ったもので、まだ数曲覚えただけだけど、古いものだと800年も前からあったと言われていてね。それを自分の身体を通して音にするときは、他のどんな歌とも比べられない感覚になるの。

 しかし、800年という歴史的歳月、まるで実感できない長さ。私にできることと言ったら、その800歳の御歌を、ただイマに鳴らすだけ。けれど、確かに感じるその他とは違う感触というところに、時間の秘密があるのだろうな。

 太陽の光は地表に降り注ぎ、なお地球のコアにまで届いて、そして反射してまた地表に遡り、それを私達は植物のごとく足裏から吸い込むことができているのだそう。でもその時に、人が自分の過去を愛していないと、その循環が上手くいかないらしい。

結局、私たちはイマにしか生きられない

 大友良英さんがディレクションする、アンサンブルズ東京というイベントに、友里も大好きな稲葉俊郎医師とコラボ出演したのだけど、その前日に行った、“声と身体と意識” をテーマにしたワークショップに参加してくれた20名程の皆んなと輪になって、「太陽ぬ落てぃまぐれ節(ティダぬうてぃまぐれぶし)」という神歌を歌うことになったの。その日も朝から土砂降りで、とほほな氣分が拭いきれないままのリハーサルを終えたあと、もう考えるのは止めにして流れに乗ることにしたの。

 本番前のサウンドチェックになって、そうだ! いっそのこと舞台を降りようと。PAも無くして肉声だけで、観客の皆さんも巻き込めるように、東京タワー下の広場の真ん中で輪になって身体を緩めてから、ゆっくり声を出し始めた。するとまあ、雨はすっかり止んで、美術担当のプロジェクトFUKUSHIMA!が震災以降、ずっと縫い合わせ続けている大風呂敷が描く巨大タペストリーの上に立って、またとないようなシアワセな時間を共鳴することができたのだよ。

 歴史や科学の分野では、躍起になって答えや事実を解明しようとするけれど、ほんとはさ、過去や未来の愛し方、もっともっと感謝する方法を勉強するべきなんじゃないかって思う。皆んな、愛について、愛があまりに不確かに感じることが多すぎて、もがいてる。私達人間の過去をすっかり愛して許せるのなら、きっと未来も愛の喜びに満ち溢れていくはず。結局、当然だけど、私達はイマにしか生きられない。だから皆んなドラえもんが大好きで、子供の時は全く夢のように思ってたテレビ電話はすっかり当たり前になったのに、タイムマシンときたら別次元すぎて、いくら過去や未来の答えを調べてみたところで誰も真実を知ることはない。

 昨日からようやく寝床にと発展した(がトイレはない)トレイラーハウスの窓から、今ちょうどオリオン座が現れて、ゆらゆら笑いかけてくれてるようで涙が出るよ。

「人間はヒトとなるときがもうとっくに来ている」

 ツアーの合間に偶然訪ねた山口の萩焼の窯元でね、つかの間に言葉を交わさせていただいた、そちらの奥様がこうおっしゃっていたの。

 「人間の時代は終わったんです。人間は人(ヒト)となるときがもうとっくに来てるんですよ」

 すごく感覚的な言葉だけど、それは私が一番聞きたかったことだったから物凄く響いた。生と死の狭間に在る人間は、死を怖れる余り、生にしがみついて、物質世界にのめり込んでしまったけれど、もしも、愛についてと同じように、死とは何かを真摯に学んでいられたら、これほど怖れることもなくなるだろうにね。けれど現代人のほとんどは、死を忌み嫌っては、蓋をして、汚物や死体をせっせと消毒ばかりしている。

萩の窯元さんの外塀が薪で組まれていた

 意識を持つことのできた私達ヒトは、死に臨みながらイマを生きる。過去や未来に想いを馳せて、時間を生み出している。もしも肉体が永遠なら、時間など無いものとなるに違いないよね。だから私達は、死が起きるまでにしかありえない可能性そのものなんだってこと。時間が先にあるのではなくて、存在するということが時間的なわけで、、、

 ここまで書いてふと氣付いたんだけど、シアワセってさ、実は、ヒトが死に真剣に向き合うときに、例えば、与えられた命を全うするように努めるとか、最期の日をどのように過ごしてたいかとか、あるいは、死を喜びを持って迎えられるようにとか、看取る家族に何を伝えて逝きたいのか、肉体を離れて宇宙のリアリティに触れられる至上の時間として門出のように受け止められたトキ、または永遠の意味を知るトキ、そんなようなことを日々意識しながら人生を、もっと自然に、死と向き合いながら歩んでいけるときに、「死合わせ」っていう裏の意味があるのじゃないかってね。裏か表かは問題じゃないけれど。

 これまで長い間、時計の音が氣になって眠れなくなっちゃうほうでさ。時が刻まれていくのを目で見たいとは思わなかったんだけど、今年から急に、部屋にも腕にも時計をつけたくなったんだよね。多分、根下ろしをすると決めたことで転じたんだろうね。

「人間には時間を感じとるために心というものがある」

 書き出すと、つい氣愛が入っちゃって。また長くなっちゃったね、笑。

 じゃ最後にね、大好きなミヒャエル・エンデのモモからの一節を書かせてもらっていい? 今こそ、全ての大人たちに、もう一度読んでほしい本だから。

 「光を見るために目があり、音を聞くためには耳があるのと同じに、人間には時間を感じとるために心というものがある。そして、その心が時間を感じとらないようなときは、その時間はないも同じだ」
 あなたの愛弟くんが言うところの「氣持ち」って、このことよね。

 それにしても、友里の言う「熟成させる塩梅」って、本当に素敵な日本語。巷には不自然に甘い梅干しが多くて参っちゃうね。

 旅の移動で疲れたお腹には、やっぱりお塩だけの、極力少ない塩加減の梅干し。実はまだやんばる時代に漬けた梅干しがあってさ、しゃぶりながら書いてるの。

 年忘れのおもてなし企画、食と音の交歓会!飛んで行けることになったからさ、友里の梅干し、期待してるで~。

うーこ

追伸

 リトクリ拓次くんは、うーこの初ツアーからギターかき鳴らしてくれたのだ。初のライブ盤では、オープニングのリフから彼の音で始まってるの。
 有里枝ちゃんは、2000年に、Hawaiiで一緒に波乗りしちゃったんよ。お互いもう必死のパッチで、笑。でもボードに立てたのは、ほんの数回だけだったけど、てへ。
 同世代、かなり熟してきてるってわけね。あたい達も、熟女(死語?)な塩梅来てるかね!?

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PROFILE

UA(うーあ)歌手

UA

1972年大阪生まれ。母方の故郷は奄美大島。1995年デビュー。1996年発表のシングル「情熱」が大ヒット。2000年、ブランキー・ジェット・シティを解散した浅井健一とAJICOを結成。同年、初主演映画「水の女」(テサロニキ国際映画祭グランプリ受賞作品)公開。2003年から放送されたNHK教育テレビ番組「ドレミノテレビ」に、歌のおねえさん「ううあ」としてレギュラー出演。2004年、数々の童謡・愛唱歌を集めた、ううあ名義アルバム「うたううあ」をリリース。2006年、菊地成孔とスタンダードジャズアルバム「cure jazz」をリリース。2010年、デビュー15周年企画カバーアルバム「KABA」をリリース。2016年、7年ぶりとなるオリジナルアルバム「JaPo(ヤポ)」をリリースした。また、2005年より都会を離れ、田舎で農的暮らしを実践中。現在はカナダに居住。4人の母でもある。
UAオフィシャルサイト:http://www.uauaua.jp/

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