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<76>なりゆき任せで変幻自在、真っ白な「秘密の部屋」

  • 文 吉川明子 写真 山本倫子
  • 2017年11月2日

 JR中央線の三鷹駅北口から歩くこと約5分。日本茶専門店の横に、真っ赤な看板が立っている。そこに描かれているのはレトロなナース姿の少女のイラストと、「BOOKS & GALLERY cafe TENTEKIDO」という文字。看板の横にあるのは急な階段。この階段は、実は見た目以上に急勾配。まるでハシゴで屋根裏部屋に向かっているような気分だ。2階のガラス扉を開けると、“秘密の部屋”へとたどり着く。

 真っ白な空間には本がぎっしりと詰まった本棚に、宝物のような雑貨の数々。白いカーテンがかかった窓際にはシンプルなテーブルセット。窓からは柔らかな光が降り注いでいる。

「真っ白な空間のお店は落ち着かないのでよくないという意見もあるようですが、逆に白いキャンバスのような空間にして、あとからいろんな人に色をつけていってもらえればいいかな、と思ったんです」

 店主の稲村光男さんはそう話す。5年前に稲村さんが三鷹に引っ越してきた時、この地の環境の良さに魅了された。

「昔は隣の吉祥寺が好きだったのですが、すっかり変わってしまいました。むしろ三鷹の方が武蔵野の良さが感じられ、緑が豊かなところも気に入っています」

 かつて神保町の中古レコード店を手伝ったり、本やギャラリーに関する仕事をしたりと、いろんな経験を重ねてきたという稲村さん。自身が本好きで、「コーヒーをゆっくり飲みながら本が選べる場所があればいい」という気持ちからこの店を作ろうと思ったと振り返る。

「この場所との出合いもなりゆき。こんな急な階段で、店舗の物件としては考えづらい場所でした。でも、あの特徴的な階段がいいと思ったんです」

 何もかもなりゆき任せで2013年3月に店をオープンさせたという稲村さんだが、「コーヒー」「本」「ギャラリー」の三つはどれも片手間にしたくないと考えている。

 「コーヒー」は、自分が気に入った豆を探し、オーダーが入るごとに豆をひいてネルドリップで丁寧にいれる。

 「本」については同店では古書を扱っており、すべて販売している。特にジャンルや作家は限定せず、本が売れないというこの時代でも、あえて「これは家に連れて帰りたい」と思ってもらえるものを揃(そろ)えるようにしている。

 竹久夢二、大島弓子、萩尾望都、四谷シモン、寺山修司、泉鏡花といった独特の存在感を放つ書き手の本が充実している一方で、星や植物の本、絵本、パリのエッセーなども。どの本にも稲村さんのセンスの良さが宿っている。

 そして「ギャラリー」では、店内の壁一面をフリースペースとして確保し、自分がすてきだと思うハンドメイド作家やイラストレーターなどに声をかけて、独自に企画。訪れた時に開催していたのは「アリスのティーパーティ part.1」。「不思議の国のアリス」の世界観を彷彿(ほうふつ)とさせる多彩な雑貨が展示販売されていた。

 「お店を始める時、人に『3年やればわかるようになるよ』と言われたのですが、やってみてわかったのは『フタを開けてみないとわからない』ということ。いつどんなお客さんが来るのか、どんな展示をするのかはなりゆき任せ。でもそこが面白いんです」

■おすすめの3冊

『大正イマジュリィの世界―デザインとイラストレーションのモダーンズ』(山田俊幸/ 監修)
数多くのモダンな美人画を残した竹久夢二や、西欧のアールヌーヴォーに影響を受けた橋口五葉など、大正期の日本のデザインやイラストレーションに大きな影響を与えた作家13人の仕事を紹介。「竹久夢二に代表されるような大正ロマン漂う叙情画が好きなのですが、この一冊にはすべてが詰まっています」

『香りの百花譜』(熊井明子/著)
ポプリ研究者がつづった、花と香りをめぐるエッセー集。「春夏秋冬の花やローズとハーブなど香りにまつわるエッセーがとてもすてきです。巻頭にあるボタニカルアートの数々も美しいんです」

『ロストハウス』(大島弓子/著)
アパートの隣のお兄さんが忘れられない少女。毎日、部屋の鍵をかけずに出かけていくその彼は自分に解放区を与えてくれた……。「うちの店でも大島弓子さんの漫画はファンが多いですね。この漫画に出てくる部屋がこのお店みたいっていわれたことがあります」

    ◇

「古本カフェ & ギャラリー 点滴堂」
東京都武蔵野市中町1-10-3 2F
https://twitter.com/timeandlove
11/12(日)まで、企画展「白い図書室」を開催中。さまざまな作家が手掛けた絵画、アクセサリー、服飾雑貨、文具、陶器などを展示販売。月・火曜休み
写真特集はこちら

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