パリの外国ごはん

ウズベキスタン料理なのに、なぜか懐かしい味「Boukhara Trévise」

  • 文・写真 川村明子 イラスト 室田万央里
  • 2017年11月7日

  

  

 ある日突然に、インスタグラムのメッセージ機能で、万央里ちゃんから写真が送られてきた。いつもはiPhoneのsmsでやり取りをしているので、なんだろう? と思ったら、インスタグラムの投稿で見つけたらしいおいしそうな写真に“ウズベキスタン! 超行きたい!”と添えられている。パリのウズベキスタン料理店で撮られたもののようだ。そこには、昨年の夏にバカンスでウズベキスタンに行った友人の写真で見たのと同じお皿に、クリームソースのかかったラビオリらしきものが盛られて、写っていた。

 慌ただしかった日々が過ぎ、やっと2人ともスケジュールが落ち着いて一緒にごはんを食べに行く約束をしたら、今度はおうどんにしか見えない太麺の写真が送られてきて“私明日これ食べたい”と書いてあった。

メニューはトルコっぽいものから手延べ麺まで

 かくして翌日、ウズベキスタン料理のお店へランチに向かった。メニューを見ると、ナスやフェタチーズっぽいもの、トマトソースもたくさんで、なんとなくトルコっぽい感じもするけれど、ラビオリも、例の太麺もあって粉モノ類もいくつもあった。自家製麺入りチキンスープとか、発酵乳の冷たいスープゆで卵入りなんてのもある。迷いに迷った末、前菜にはmantiという名の、饅頭(中国の“まんとう”)と語源が同じではなかろうかと思う蒸し物と、牛肉とナスにマリネしたニンジンを合わせたサラダを頼むことにした。そして、蒸して仕上げるらしいウズベキスタン風ラザニアと、万央里ちゃんは予定通り手延べ麺をメインとしてチョイス。

 料理を待ちながら、厨房(ちゅうぼう)の方に目を向ける。サーブする料理が出される台の向こうに、たまに金髪の女性が通るのが見えた。ほかにスタッフはいなさそうで、どうやらその女性一人で作っているようだ。ということは、家庭料理の味が楽しめるのかな、と期待が高まる。

  

 前菜のmantiは「一皿につき二つ」とあって、どのくらいの大きさなんだろうなぁと思っていたら、直径10cmくらいありそうな丸々としたものが出てきた。サラダの方は、ナスと牛肉にしっかり味付けがされていそうだ。湯気のたつmantiをまずひと口。具は、牛ひき肉、ホウレン草、かぼちゃの中から、ホウレン草入りを選んでいた。

 本当に、ホウレン草だけの入った優しい味で、あぁ具合悪いときに食べたくなる味だなぁと、こんなホウレン草入りのラビオリを子供の頃、それも病気のときに食べたことはないのに、そんな懐かしさを覚えた。皮が分厚くはないのにもちもちしている感じがするのは、蒸しているからだろう。卵の入っていない生地は、するする身体になじんでいった。

 添えてあった白いソースは、ヨーグルトとクレーム・フレッシュを混ぜたものなのか、なめらかで酸味も柔らかい。少しつけて食べるとコクが出て別のおいしさになる。昔、ランチをセットで頼むと必ずついてきたようなキュウリとレタスのサラダは、見た目だけでなく味も、昭和の喫茶店のそれで、お皿全体がノスタルジーでいっぱいだった。

 「なんかさ、このサラダ、すんごいよく知ってる味なんだけど」と万央里ちゃんに言うと「うん、昭和の味だよね。こっちのサラダも、おしょうゆ入ってますよね? ってかんじだよ」とどうも同じようなことを感じていた様子。

 それで食べてみると、何なんでしょう? これは一体? と頭の中がハテナでいっぱいになった。それほどになじみのある味付けだったのだ。ナスは半ば揚げてあるような、よーく炒められたもので、牛肉も、ニンジンのマリネも、味の絡められ方が和食に通じるものがあるのだろうか、ともかく、知ってる味だった。

  

 続いてやってきたラザニアもこれまた結構なボリュームだった。付け合わせのサラダはどうやらさっきと同じものだ。目を引いたのが、端に盛られたピラフのようなごはん。気になって、ラザニアより先に食べてみると、なんと甘かった。

 中身を探ると、レーズンが。そのレーズンは甘みが全くなかったから、すでに全部周りの具に溶け出していたのだと思う。ニンジンは少し縮れていて、火を通して味付けしたものをごはんに混ぜ込んでいる感じで、ピラフというより炊き込みごはん、という方がぴったりだ。

 ラザニアは、先に食べたmantiと同じ白い生地に、牛ひき肉とつぶしたジャガイモが挟んであり、トマト、ピーマン、玉ねぎで作ったソースがかかっていた。お肉は牛だけど、市販のケチャップを使わずに作ったナポリタンっぽいんだよなぁ。

  

 万央里ちゃんが心待ちにしていた自家製麺は、まさに、このナポリタンっぽいソースをかけた焼きうどん。ただ、麺の作り方は、生地を伸ばして薄くしてから切っているのではなく、両手で捻(よ)りながら長くしたものに思われた。太さは讃岐うどんくらい。「私、昔、焼きうどんが大好きで、高校の頃よく作って、お弁当に持って行ったわ~」なんて思い出してつぶやいてしまうくらいに、これもまた懐かしさがこみ上げるものだった。

  

 最後にスパイスをミックスしたお茶を試してみることにした。カルダモン、八角、丁子、シナモン、オレガノ、ミント入りで、厨房の仕事を終えたシェフがこのお茶をいれたときに、甘い香りが漂ってきていたのだ。お砂糖要らずの、鼻に香る甘みのあるお茶は、異国の味ながら、やっぱり身体にやさしく溶け込む味だった。

 帰り際、どうしても気になって、サラダのドレッシングは何を入れているのかと聞いてみた。すごく日本の味に近いものがあるように思ったのだけど、と前置きして。答えは、ただオリーブオイルにヴィネガーだという。うーん……あの懐かしさは何だったのだろうなぁ。

  

    ◇

Boukhara Trévise
37, rue Trevise 75009 Paris
01 48 24 17 42
11時45分~15時、18時45分~23時45分
休み 土・昼、日

 

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PROFILE

川村明子(かわむら・あきこ) 食ジャーナリスト

写真

東京生まれ。大学卒業後、1998年よりフランス在住。ル・コルドン・ブルー・パリにて製菓・料理課程を修了後、フランスおよびパリの食にまつわる活動を開始。現在は執筆のほか、パリで活躍する日本人シェフのドキュメンタリー番組『お皿にのっていない時間』を手掛けている。著書に『パリのビストロ手帖』『パリのパン屋さん』(新潮社)、『パリ発 サラダでごはん』(ポプラ社)
日々の活動は、Instagram: @mlleakiko、朝ごはんブログ「mes petits-déjeuners」で随時更新中。

室田万央里(むろた・まおり) 料理人

写真

無類の食べ物好きの両親の元、東京に生まれる。
17歳でNYに移り住んだ後、インドネシア、再び東京を経て14年前に渡仏。
モード界で働いた後に“食べてもらう事の喜び”への興味が押さえきれずケータリング業に転身。
イベントでのケータリングの他、料理教室、出張料理等をパリで行う。
野菜中心の家庭料理に妄想気味のアジアンテイストが加わった料理を提供。理想の料理は母の握り飯。未だその味に到達できず。
Instagram @maorimurota

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