東京ではたらく

<14>米山菜津子さん(36歳)/グラフィックデザイナー

  • 文 小林百合子 写真 野川かさね
  • 2017年11月9日

  

職業:グラフィックデザイナー
勤務地:渋谷区の個人事務所
勤続:14年目
勤務時間:仕事の状況によってさまざま
休日:仕事の状況によってさまざま
この仕事の面白いところ:チームワークがうまくいくと、想像よりはるかにすてきなものができること。その現場に最初に立ち会えること。
この仕事の大変なところ:チームワークがうまくいかないときの心労。

    ◇

 都内に個人事務所を構えて、グラフィックデザイナー・エディトリアルデザイナーとして働いています。「グラフィックデザイナー」と聞いてピンとこない人もいるかもしれませんが、雑誌や本、ポスター、カタログなど、主に紙にまつわる平面的なデザインをする仕事です。

 生まれも育ちも東京の大田区。父は信用金庫勤務、母は小学校教諭という、なかなか堅実な家庭で、さらに長女ということもあってか、比較的厳しく育てられたと思います。

「ごはんを食べるときはテーブルとおなかの間に拳ひとつを入れて、背筋を正して食べなさい」とか、中学に上がるまでは買い食いも禁止。当時子どもたちに人気だったお笑い番組もあまり見せてもらえなかったですね。

 その代わり本は欲しがれば買ってくれて、5歳下の妹が生まれるまでは、ひとりで熱心に本を読んでいたように記憶しています。物心ついたときから今に至るまで、とにかく本が好きで、本や雑誌など、紙にまつわる仕事につきたいと思ったのは、そこに原点があるのかもしれません。

少女時代からずっとコレクションしている豆本。海外に旅するときは必ず本屋に出かけて豆本ハントにいそしむ。海外の古い本のデザインがインスピレーションを与えてくれることもおおいにある

 中学と高校は六本木にある女子校に通いました。単純に「制服と校舎がすてき!」という理由で選んでしまったのですが、そこがなかなかのお嬢様学校で……。同級生はお金持ちでかわいくて、キラキラした女の子ばかり。

「平民(私)がお嬢様の中に紛れてしまった!」みたいな感じで(笑)。人の中にいることは好きなのですが、自分を前に出すのが苦手だったということもあって、教室ではなんとなく皆の輪にいつつ、登下校で読む本が親友、みたいな時期もありました。

 高校に上がると雑誌を読むのが好きになって、当時一世を風靡(ふうび)していた『オリーブ』や『ロッキング・オン』『スタジオボイス』なんかをひたすら読んでいました。記事の内容はもちろん、写真と文章のバランスやデザインがかっこよくて。読者が発売日に本屋にかけつけるのはあたりまえで、雑誌が本当に熱をもっていた時代だったと思います。

 とにかくそういうものに強い憧れを持っていて、この世界に自分も入りたい! と思っていました。でも、人見知りの自分は人にインタビューして記事を書くこともできないし、写真だって緊張して撮れないだろうし……。あ、でもデザインだったらできるのではなかろうかと。まさかの消去法ですね(笑)。

編集者やクライアントとの打ち合わせは何より大切。「デザイナーは作り手と、それを受け取る人の橋渡し役。作り手のやりたいことを紙に定着させて目に見える形にする、その過程が腕の見せどころであり、面白いところ」

 あと、小さい頃から絵を描くのが好きで、そこにはひそかに自信を持っていたので、高校2年生くらいの頃には美術大学に進学して、デザインの勉強をしようと思うようになっていました。

 美術大学の受験にはデッサンなどの実技が必要ということで、高2から美大専門の予備校に通い始めました。授業はデッサンや、粘土で立体を作るといった基礎的なことなのですが、毎日毎日、繰り返しそれをやっていると、自分のものの見方や癖みたいなものがわかってくるんです。

 同時にほかの子は同じものを描いても自分よりずっと力強い絵になっていたり、みんなそれぞれ捉え方が違うんですね。じゃあ自分のいいところはなんだろう? そんな自問自答を繰り返しながら、ものの見方や自分なりの表現の仕方を学んでいくんです。

 受験対策というより、ものづくりをするうえで大切なことを教えるというスタンスの予備校で、それはそれは刺激的で、面白かったですね。学校の授業では絶対に教えてくれないことばかりだったので。

デスクのチェアはハーマンミラー社のもの。「初めて就職したデザイン事務所で使っていたもので、長時間座っていても疲れないうえにデザインもかっこいい。独立するときに一念発起して買いました」

 晴れて美大に合格してデザイン科に進学したのですが、同じ科にはグラフィック志望の子もいれば、絵画、映像、立体などあらゆる分野のデザイナーを志す生徒がいました。だから今日はテンペラ画を描いてみましょうとか、次は陶芸をやりましょうとか、とにかく授業の幅がものすごく広いんです。

 グラフィックの専門学校を卒業してデザイナーになった人なんかは新人の頃からばんばんコンピューターを使いこなせたりするんです。でも私の場合は七宝焼とか石膏像作りとか、その他ヘンテコなことなんかもいろいろやっていて(笑)、雑誌デザインの授業なんてまったくなかったんです。だから大学を卒業した直後はデザイン用のパソコンソフトなんてほとんど使えませんでした。

 それでも日々ユニークな美術の世界に触れられることは楽しくて、中でも熱中したのはアナログ印刷。大学の地下の隅っこに「版画工房」というアトリエがあって、手回しの印刷機や銅版のプレス機が使えたんです。

 自分でいちから印刷作業ができる(しかも手動で!)という夢のような空間で、2年生くらいからはずっとそこに入り浸って、体中油とインクまみれにしながら印刷に没頭していました。いわゆるキャンパスライフとは程遠いですが、私にとっては好きなものに囲まれた、面白い学生生活でした。

 

[PR]

この記事を気に入ったら
「いいね!」しよう

PROFILE

小林百合子(こばやし・ゆりこ)編集者

写真

1980年兵庫県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、アラスカ大学フェアバンクス校で野生動物学を学ぶ。出版社勤務を経てフリーランスに。山岳・自然をテーマに雑誌や書籍の編集を手がける。2010年に女性向け登山雑誌『Hutte』(山と溪谷社)を立ち上げ、独自の視点で登山や自然の楽しみ方を提案した。著書に『山と山小屋』(野川かさねと共著、平凡社)、『山登りのいろはーたのしい登山のヒント集』『一生ものの、山道具』(ともにホシガラス山岳会著、パイ・インターナショナル)など。

野川かさね(のがわ・かさね) 写真家

写真

1977年生まれ。神奈川県出身。雑誌、書籍で活動するかたわら、ライフワークとして山を撮り続ける写真家。著書に『山と写真』(実業之日本社)、『山と山小屋』(小林百合子と共著、平凡社)、『山登りのいろはーたのしい登山のヒント集』『一生ものの、山道具』(ともにホシガラス山岳会著、パイ・インターナショナル)など。

今、あなたにオススメ

Pickup!