このパンがすごい!

新麦のみずみずしさ、おいしさの決め手は口溶け/パニフィカシオンユー【新麦シリーズ(3)】

  • 文・写真 池田浩明
  • 2017年11月14日

■パニフィカシオンユー(栃木)

 朝、店に入りきれない人たちが列をなしていた。夕方再び訪れるとパンはすでになく売り場はもぬけの殻。宇都宮での猛烈な人気ぶりがわかる。

 断面が水玉模様に見えるほど大粒のマスカットレーズンがたっぷり入った「マスカットレーズン」。レーズンが劇的にジューシー。果汁がちょちょぎれたかと思うと、ドイツの白ワインを思わせる甘さが華やかに広がる。

 爽快な食べ口。バターの熟成香はブリオッシュのように濃密なのに、食べればさっぱり。ふわふわ生地は極めてスムーズにとろけるので、レーズンの芳醇(ほうじゅん)さも手伝ってむしゃむしゃいける。あとに残るのは、もうなくなったのかというため息とブリオッシュの残像。

 折しも、10月20日に解禁した北海道産新麦。このパンは、水をたくさん吸う新麦キタノカオリのみずみずしさを活(い)かすのにうってつけだ。

「吸水を多くして、ものすごく口溶けよくしています。」と氏家由二シェフ。彼の信条はこういうものだ。「どのパンも食感、歯切れ、口溶けを大切に。最終的には口溶けがパンのおいしさを決める」。

あんバター

 十勝の農家・前田さんの新麦はるきらりを使ったあんバターもかつてないものだった。バゲットが、触感も味わいもとにかく軽やかなのだ。ふがしでも噛(か)むみたいに、ひと噛みで薄い皮も軽い中身もがしっと一気にへしゃげる爽快感。そして、またもすみやかな口溶け。だから、注文後にはさんでくれる切りたてのバター、あんこと絶妙にシンクロする。

 フォカッチャもすごい口溶けだった。ふにふにと弾んで、とろり。そして、一気に液体に変わってじゅるりとなる。とろけるたびにオリーブオイルの風味が噴出。ときどき、表面にふられた塩に触れるや、旨味(うまみ)が爆発した。

 氏家さんは、キャリアをフレンチの料理人からはじめて、やがてパンに傾倒した人。だから、素材の組み合わせのアイデアが豊富、アドリブも思いのまま。朝仕入れた野菜を元にサンドイッチを作るなど、店頭に季節感があふれる。

栗とカシスのカンパーニュ断面

 黒々とした焼き色が、店の中でいぶし銀の存在感をはなっていた、栗とカシスのカンパーニュ。カシスのピュレによって見事パープルに染まった中身。そのフローラルな風味は、栗のこっくりとした甘さの中の華やかさを広げている。ときどき噛むアーモンドにかりかりがアクセント。そして、利いているのは皮のおいしさ。芋の皮のような風味が秋を連想させ、栗とベストマッチ。

「生地にはレーズン種とルヴァンリキッドを入れています。焼き方はこんなふうに高温でがっつりと焼くのが好きなんです」

 熟した自家培養発酵種の生地をよく焼き込んだときに現れる芋風味。それを計算して具材と合わせる構成力はまさに料理の経験が活かされている。なお、大人気につき、いつも予約でいっぱい。土日分は予約もできないのでゲットは至難なのでご注意を。

きまぐれキッシュ 鴨スモーク・カボチャ・きのこ

 「きまぐれキッシュ 鴨スモーク・カボチャ・きのこ」。タルト生地の濃厚な色合いに惹(ひ)かれ手に取ったキッシュが大当たり。あまりに芳醇な鴨肉の突進を横綱相撲で受け止めるかぼちゃとパイ。キノコのダシ感が秋の色で染め上げる。

「アパレイユ(卵の生地)は具だくさんに、濃厚に作っています。具を食らうキッシュです」

 具だくさんなのにアパレイユもうるおいに満ちている。並び立たない2つの要求を針の穴に糸を通すように可能にしている。決め手は、タルト生地。ここにも抜群の口溶けがあった。

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■パニフィカシオンユー
栃木県宇都宮市双葉2-9-35 ニュー双葉マンション1号棟 1F
028-658-7120
10:00~18:00
日・月 休み
https://ameblo.jp/ujiujinopan/

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PROFILE

池田浩明(いけだ・ひろあき)ライター

池田浩明

佐賀県出身。ライター、パンの研究所「パンラボ」主宰
日本中のパンを食べまくり、パンについて書きまくるブレッドギーク(パンおたく)。編著書に『パン欲』(世界文化社)、『サッカロマイセスセレビシエ』『パンの雑誌』『食パンをもっとおいしくする99の魔法』(ガイドワークス)、『人生で一度は食べたいサンドイッチ』(PHP研究所)など。国産小麦のおいしさを伝える「新麦コレクション」でも活動中。最新刊は『パンラボ&comics 漫画で巡るパンとテロワールな世界』(ガイドワークス)

BOOK

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