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アジア生活を楽しむ達人と、困窮する人はどこが違うのか?『日本を捨てた男たち』ほか

  • 文・重野 功
  • 2017年11月13日

撮影/猪俣博史

  • 『だから、居場所が欲しかった。』(2017年)水谷竹秀 著 集英社刊 1728円(税込み)

  • 『脱出老人』(2015年)水谷竹秀 著 小学館刊 1728円(税込み)

  • 『日本を捨てた男たち』(2011年 開高健ノンフィクション賞)水谷竹秀 著 集英社文庫 648円(税込み)

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 旅行に携わる立場からは、夢のある旅行本をお薦めするべきでしょうが、今回のおススメ本は海外での老後人生設計の現実と、苦い海外放浪人生の観察、いずれもちょっと考えさせられるノンフィクションです。

 アジアを中心に現地駐在員として観光コースの開発・ガイドの養成・ツアー受け入れ、日本での現地事情の説明、ツアーの企画・販売、そしてツアーのトラブルを回避しながらお客様を引率して国々を訪れる添乗などの観光業をなりわいとして幾十年も過ごしていると、観光など訪問者として短期で見聞きする気楽さと、その地に赴任などで長期に滞在して仕事や生活をする現実とは天と地ほどの違いがあるのをいやというほど実感させられるのです。

言葉でつまずき、お付き合いに頭を悩ませ……

 もちろん現地の邦人にもピンキリ待遇があります。大手の進出企業、外交官などの方々はメイドを何人も雇い、その国のハイソサエティーなお付き合いの中で過ごし、趣味と仕事をバリバリこなす。そんな理想のエリートがいる一方で、小さな企業や現地契約で来た駐在員の大方は、スタッフともども働いて現地社会に溶け込むべく仕事に付き合いに日々走り回り、その国の生活に同化するようになじんでしまう。そして、「日本に戻ったらリハビリなしでは復帰できないなあー」と悩むのです。

 「日本でバリバリ働き、退職したら物価が安く、気候も温暖で、人々のほほえみが迎えてくれる東南アジアにて、優雅なロングステイで人生を楽しんで過ごしましょう!」と数々の出版物が夢をかき立ててくれています。 

 しかし、現実はなかなか理想通りにはいかないもの。

 言葉でつまずき、現地ルールに翻弄(ほんろう)され、近隣とのお付き合いに頭を悩ませて、お金や自分を守るのにも必死に知恵を絞り、折り合いを付けながら、日本で暮らす以上にわずらわしい日々を迎えると、「日本を離れてよかったのか?」と自問自答する心のささやきが波のように繰り返し、将来の不安が脳裏に浮かびます。 

 思ってもみなかった成り行きに戸惑い、それでも「新しい世界を開くのが楽しい」と悟って異国の生活を楽しめる達人と、ずるずると生活に流される困窮者の違いはどこにあるのだろうか? そんな指針を与えてくれそうなのが、マニラを拠点としてアジアにジャーナリズムの場をひろげている水谷竹秀氏渾身(こんしん)の3作、フィリピンが舞台の『日本を捨てた男たち』(「開高健ノンフィクション賞」受賞)、2作目の『脱出老人』、そしてタイを取材した最新刊『だから、居場所が欲しかった』です。

 ただし、海外移住、長期滞在を頭に浮かべる方にはシビアな人生体験の事例かもしれませんが、現地で楽しく新生活や余生を過ごされている方も身近に大勢見受けられますので、あくまで登場する人々の生きざまとしてお読みください。そして自分なりの海外生活、滞在先選び、日本と違う楽しみ方を見つけていただける一助になることを願っております。

 私も海外で優雅に暮らしたい……。

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PROFILE

重野 功(しげの・いさお)

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2014年12月オープン時より、湘南蔦屋書店に旅行コンシェルジュとしてに勤務。旅の企画・販売、海外駐在、添乗員、海外ホテルの窓口、在日政府観光局、JICAシニアボランティアなど観光を支える「作る側」を経ると共に、アジア・南太平洋を中心に40カ国以上「旅する側」を実践する旅大好き人間。

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