パリの外国ごはん

「ゆで」だけで12種類! “おばあちゃんの餃子”「Les raviolis de grand mère」

  • 文・写真 川村明子 イラスト 室田万央里
  • 2017年11月21日

  

  

  

 前回ご紹介したウズベキスタン料理のお店へ行くことになった日。Google Mapを見たら、同じ通りにLes raviolis de grand mère(おばあちゃんの餃子《ぎょうざ》)という、なんとも魅力的な店名が目についた。これは気になる!とメニューをチェックするべくお店の前まで行くと、おばちゃんが店頭で餃子を包んでいるではないか。

  

 餃子の皮は、きれいな丸ではなくて、縁が少しビヨビヨしている。正面から見ているとよくわからないのだけれど、ひだを折っていく包み方ではなく、始めは両手で閉じていき、最後は片手で持って、ぎゅっと締めるようだ。片手で包み終えるのかぁ……と凝視していたらおばちゃんと目があった。写真を撮ってもいい? と、窓ガラス越しに目で合図を送り、すかさず1枚。しばし作業を見つめてから、またガラス越しにお礼を伝えて、テンションが上がったまま小走りで、ウズベキスタン料理店へ向かったのだった。

 そんなわけで1週間後、私たちは、“おばあちゃんの餃子”屋さんにいた。でもおばあちゃんではなくて、前述のおばちゃんがこの日も店頭で、生地をちぎり、伸ばした皮で具を包んでいる。具が入っているのは、ステンレスのボウルではなく、懐かしさを覚えるような絵柄が描かれた器。そういういちいちに、いいなぁとひかれながら、ゆで餃子だけでも12種類と結構な数のあるメニューから、どれにしようか考えた。メニューには、漢字とフランス語で料理名が表記されているけれど、漢字の方がメインで大きく、その下にフランス語が添えてある。いくつかの料理はカラー写真も載っていた。

牛肉+セロリ、羊+大根も気になる!

 まず“素餃子”と書かれた野菜の餃子を頼むことが決定。でも、そこからがなかなか決まらない。オーソドックスな豚肉とニラの餃子は押さえておきたい気もするし、フランス語訳で中国版シュークルートとある“酸菜”と豚肉が具というのも食べてみたい。牛肉+セロリ、羊+大根も気になる。焼き餃子も食べたい。

 そこで、万央里ちゃんに言ってみた。「今日は餃子パーティーにしない?」。メニューには麺類も一品料理もたくさんあるのだけれど、ともかく餃子はおばちゃんが店頭で包んでいて手作り。それは確かだ。前回のウズベキスタン料理からの流れで、手作りの生地をまた味わいたい。

 「うん、いいよ。そうしよう。ただ、私これ食べたい」と彼女が指したのは、“ウナギのキノコ”とフランス語訳された、おそらくひょろっと長いのだろうキノコと、キクラゲにピーナツ、中華麩(ふ)の前菜。この料理は写真が載っていて、その中にウナギキノコと思われるかんぴょうとメンマの間のような茶色いものが見てとれた。このウナギキノコなんだろうねぇ、と言いながら、サイドメニューはそれを注文することに。最終的に餃子は、羊肉と大根のゆで餃子と、鶏肉と野菜の焼き餃子、そして最初から決めていた野菜のゆで餃子の3品をオーダーした。

  

 待ち時間もそこそこに、前菜が運ばれてくる。なんだかお麩がごっつい。取り皿によそおうとして、あれ? これ本当にお麩なの? と思った。中国の硬めの木綿豆腐を乾燥させて戻したらこんなふうになるんじゃないかしら? でも食べてみたら、それはやっぱりお豆腐なんかじゃなかった。食感が面白い。かんだときの印象は、むぎゅっじゅわっ。甘じょうゆの味がにじみ出る。そして八角の香りがぷーんと。この連鎖、あとを引く。

 山菜のようにも見える例のキノコを食べた万央里ちゃんが「これって、キンシンサイじゃない? 金針菜だと思う!」と少し前のめりになって言った。おそらくキンシンサイなるものにキクラゲ、ゆでたピーナツ、そしてかなり弾力のあるお麩と食感のコントラストが楽しいお料理だ。味が濃いので、このまま平打ちの卵麺とあえても、ごはんにのせてもよさそうだった。

こちらが、もちっとした皮に包まれた羊肉と大根入りの餃子  

 悠長に前菜を食べている間に、次々と餃子も運ばれてきて、あっという間にテーブルの上は餃子大会の様相を呈した。まずはいちばん味が優しいであろう、野菜の餃子に手を伸ばす。具はキャベツが大部分で、そこにニンジンとしいたけがほんの少し。キャベツの甘みでいっぱいなのだけど、シャキシャキと歯ごたえが残る程度のゆで加減で、だから軽やかさがある。具にしっかり味がついていて、おしょうゆもお酢もつけないほうが私は好きだった。

さながら餃子パーティとなった卓。手前が羊肉+大根、右が野菜入り、右奥が鶏肉入り焼き餃子

 二番手は、鶏肉入り焼き餃子を。これはとてもスタンダードな餃子に感じた。入っている野菜はニラだけだろうか。でもメニューの漢字表記を見たら、芥子菜(からしな)に似た字があって、ニラではなかった。タネをよく練っているのか、パサパサでもギシっとしているわけでもなくジューシーだ。これだけ他の餃子と皮が違って、もちっとしておらず、薄い。ひと口餃子のごとく、あっという間に食べられそうだった。

 そして最後に羊肉と大根入りも食べてみる。大根の存在をほとんど感じない。けれど、羊肉独特の匂いもない。ということは、意外に大根が効いているのかな。これまた意外にわりとさっぱり。

  

 思いのほかすいすいと食べられてしまい、麺も食べようか、ということになった。手打ちかどうか店員さんに聞いてみたけれど、あまりよくフランス語がわかっていないようで、焼きそば自体が自家製だ、と思える返事がきた。それでも、手打ちじゃないかもねぇと言いながら、海老入りの焼きそばを注文。結果、やっぱり手打ちじゃなかったのだけれど、中国しょうゆがベースの味付けで、卵も入っていて、ほっとするおいしさだった。

 帰りにテイクアウト用のメニューをもらいメトロの中で見てみたら、冷凍餃子、という欄があった。100個での値段が書いてある。これって、プロに売ってるってことかしら? おばちゃんの包み方、とってもゆったりだったけど、こんなに作っているのかぁ。あの、きれいな丸をしていない皮で包まれた餃子を、また食べに行こう。

  

    ◇

Les raviolis de grand mère
25, rue de Trevise 75009 Paris
01 48 01 07 16
11時30分~15時、18時~23時
土曜昼、日曜昼休み

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PROFILE

川村明子(かわむら・あきこ) 食ジャーナリスト

写真

東京生まれ。大学卒業後、1998年よりフランス在住。ル・コルドン・ブルー・パリにて製菓・料理課程を修了後、フランスおよびパリの食にまつわる活動を開始。現在は執筆のほか、パリで活躍する日本人シェフのドキュメンタリー番組『お皿にのっていない時間』を手掛けている。著書に『パリのビストロ手帖』『パリのパン屋さん』(新潮社)、『パリ発 サラダでごはん』(ポプラ社)
日々の活動は、Instagram: @mlleakiko、朝ごはんブログ「mes petits-déjeuners」で随時更新中。

室田万央里(むろた・まおり) 料理人

写真

無類の食べ物好きの両親の元、東京に生まれる。
17歳でNYに移り住んだ後、インドネシア、再び東京を経て14年前に渡仏。
モード界で働いた後に“食べてもらう事の喜び”への興味が押さえきれずケータリング業に転身。
イベントでのケータリングの他、料理教室、出張料理等をパリで行う。
野菜中心の家庭料理に妄想気味のアジアンテイストが加わった料理を提供。理想の料理は母の握り飯。未だその味に到達できず。
Instagram @maorimurota

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