突然の心筋梗塞で逝ってしまった婚約者へ
- 花 東信、写真 椎木俊介
- 2017年12月7日
〈依頼人プロフィール〉
前原ひろみさん 30歳 女性
大阪府在住 会社員
◇
私と彼は2年間の同棲(どうせい)を経て、今年の春には籍を入れる予定でした。しかし、残念ながらそれがかなうことはありませんでした。
彼は自営業の不動産屋で、バリバリのビジネスマン。いつも明るく、どこへ行ってもムードメーカー。堂々としていて包容力があって、やんちゃで根が優しくて、みんなから人気があり、そんな彼を私も心から誇りに思っていました。
彼の体調に変化が訪れたのは亡くなる半年ほど前のことです。食事の後に吐くようになり、逆流性食道炎に症状が似ていたので、知人の紹介で消化器内科に通って治療をしていました。でも、実際は他の場所が悲鳴をあげていたようで……。
2016年10月18日、大阪から東京へ日帰りで出張に行き、「今日は早く帰れるようにするから、一緒に晩ご飯、食べような」という言葉を最後に、そのまま私のもとに帰ってくることはありませんでした。
その日、いつも通り彼を送り出した5、6時間後に、彼の友人や仕事仲間から次々と、慌ただしく連絡が入りました。「心肺停止で運ばれた!」と聞いた後、あれよあれよという間に「あいつ亡くなった……」と友人からの電話。まだ33歳、突然の心筋梗塞(こうそく)でした。
いま思えば、その日は朝から体調が優れず、めずらしく新幹線から電話がありました。「もうすぐ東京に着くけど、しんどいわ。胸に突き刺さるような痛みが走る」とメールもありました。取引先まではなんとか着いたものの、席に着いたとたん、倒れたようでした。
あまりに急なことだったので、今も事実をちゃんと受けとめることができません。彼が亡くなった後、私はすぐに仕事を始め、夜も別の仕事を入れ、この1年間はなるべく考える時間を作らないようにしてきました。幸い友達や仕事仲間に恵まれ、それなりに楽しく日々過ごしていますが、彼の死に向き合うのがやはり怖いのです。
でも、彼はどんなときも前向きに過ごし、前へ進んでいました。そんな彼を私は心から尊敬していました。だからきっとこれは、私だけが苦しいわけじゃない、前向きにならないとだめだよ、と彼が教えてくれているのかな……、最近はそんな風に思えるようになりました。
あれからはや1年。改めて、大好きだった彼に頑張った体をゆっくり休めてね、という気持ちを込めて花を贈りたいです。
彼は音楽が大好きで、昔はDJをしていました。仕事が落ち着いたら、DJを楽しめるスペースを造るのが夢でした。グリーン系の観葉植物が好きだったので、かっこいいグリーン系のアレンジをお願いできますでしょうか。もし可能なら、私からの花束という意味を込めて、私の好きなランやダリアも加えてもらえたらうれしいです。

PROFILE
- 東信(あずま・まこと)フラワーアーティスト
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1976年生まれ。
2002年より花屋を営み続け、現在は東京・南青山にてオートクチュールの花屋「JARDINS des FLEURS」を構える。2005年よりフラワーアーティストとして、ニューヨーク、パリ、ドイツ、ブラジル等、国内外で精力的な活動を展開。独自の視点から花や植物の美を表現し続けている。
作品集に「ピエール・エルメ サティーヌ」「ENCYCLOPEDIA OF FLOWERSII 植物図鑑」(ともに青幻舎)など。http://azumamakoto.com