上間常正 @モード

ジェンダーレスファッションと〝ジェンダーレス男子〟

  • 上間常正
  • 2017年11月27日

 グッチ(いずれも2018年春夏コレクションより、撮影・大原広和)

 ちょっと見た目では男だか女だか分からない。そんな装いが最近は「ジェンダーレスファッション」と呼ばれるようになって、注目されている。男女の性差の垣根を越える装い方の試みは、20世紀の後半にも繰り返し見られたが、ファッションの流れを変えるほどの大きなインパクトはなかった。世紀が変わってから再び現れた今回の現象には、これまでとは違う面もあるようでなかなか興味深い。

 ジェンダーレスファッションが少しずつ目につき始めたのは、2010年代になってからだった。01年の米同時多発テロ事件、08年のリーマン・ショックなどの後で続いた世界的な社会・金融不安への反動なのか、ファッションは逆におとなしめでフェミニンな傾向が強まった。そんな中で、シンプルで中性的な印象のスタイルが新鮮に映った。

 こうしたスタイルは、これまでの「トランスジェンダー」や「アンドロジーニアス」と呼ばれた時と同じで、女性ファッションでの動きだった。しかし15年ごろからは、レディースとメンズの新作を一つのショーで同時に発表するブランドが増えてきた。こんなことは今までほとんどなかったといえるだろう。ショーで登場する男性のモデルは、レディースを着た女性モデルと同じように中性的に映るのだ。

 サンローラン

 2018年春夏向けミラノやパリ・コレクションの最新作でも、そんな傾向が目立つ。たとえばグッチはレディース63体、メンズ44体の計107体という大規模なショーで、男性モデルはシンプルだがフェミニンな装飾性もある装い。パリのサンローランでは、黒いレースやカラフルなチョウ模様のトップスを着た男性モデル。いま人気急上昇中の若手ブランド、コシェも、一見カジュアルだが細部には女性的な刺繡(ししゅう)の手業を駆使した男性モデルが登場した。

 日本では同じ15年ごろから、〝ジェンダーレス男子〟というのがファッション誌やテレビなどで話題になっている。ちょっと目には男女不明の装いをしたやせ形のおしゃれな若者のことで、写真などを見るとマンガの主人公のように美しく魅力的に見える。その代表として人気を博したタレントの「こんどうようぢ」や「とまん」には、女性のファンも多いという。

 サンローラン

 彼らの特徴は、服やアクセサリーを選ぶ時にメンズとレディースの枠にこだわらないこと。基準は自分に似合うかどうかで、別にあえて中性的な装いを狙っているのでもなく、女性装をしようと意識しているわけでもないらしい。そのためか、レディース物でもあまりフェミニンな感覚のものは避け、目立つようなメーキャップもしていない。

 ミラノやパリのショーの男性モデル、そして日本の〝ジェンダーレス男子〟に共通しているのは、倒錯的な怪しげな感じがしないことだ。というのは、よく見れば男性だと分かるからだ。というより、女性的な装いをすればするほど、逆に男性としての特性がよりあらわに浮き立ってくる。このことは、男性的な装いをした女性がより女性的に見えるのと同じことだろう。

 こうした意味では、装い・ファッションでの男女の垣根が無くなってしまうことは決してないのかもしれない。人間という生き物は、生物学的な差異は実際には揺らぐ境界があっても一般的には男と女の双方で成り立っていて、それぞれの特質や魅力があっていい。だから、垣根はあって当たり前だといってもいいのだとも思う。

 コシェ

 とはいえ、近・現代ファッションは男性優位のジェンダーの違いを過剰に押し続けてきたことも事実だ。今回のジェンダーレスファッションでも、〝ジェンダーレス男子〟がことさら注目されて、〝ジェンダーレス女子〟という表現を耳にすることがないのもその証拠の一つといえるだろう。そうした規範の垣根は可能な限り低くなった方がよい。

 〝ジェンダーレス男子〟というのは、垣根の意味を限りなく浮遊させる新たな現象なのだと思える。この浮遊感は、いま世界中で政治から経済、カルチャーまで、多くのことの意味に金属疲労が起きて揺らいできていることの現れの一つで、だからこそ気になるのだ。

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PROFILE

上間常正(うえま・つねまさ)

写真

1972年、東京大学文学部社会学科卒業後、朝日新聞社入社。88年からは学芸部(現・文化部)でファッションを主に担当し、海外のコレクションなどを取材。07年から文化学園大学・大学院特任教授としてメディア論、表象文化論などを講義。ジャーナリストとしての活動も続けている。

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