このパンがすごい!

みんな大好きバインミー 女性2人がつくる夢のスタンド/スタンドバインミー

  • 文・写真 池田浩明
  • 2017年12月5日

■スタンドバインミー(東京)

 ベトナムのサンドイッチ「バインミー」をアテにワインを飲むスタンド。ずっと夢見た店が東京に爆誕した。いや、私はワイン通でもないし、そんな食べ方を夢想できるほどおしゃれでもないので、こう言い直すべきだろう。きっと誰かの夢の中に入り込んでしまったんだ、と。

 その現実離れした体験は、こんなふうにはじまる。学芸大学駅近くの路上を歩いていると、パリの横丁さながらの店が出現する。フレンチスタイルのワインバーかと思って中に入ると、エキゾチックな空間。壁は水色に塗られ、パクチーやミントなど南方のハーブが並んで、ピンクや青に彩色された食器が積まれている。

 私はメニューの中から「プレミアムバインミー」を選びだす。コッペパンのような形のパンに、ハーブ、レバーペースト、紅白なますがはさまった、ベーシックな構成。これは正しい選択だった。プラス200円でグレードアップされたプレミアムなパンが、私のバインミー史を揺るがす衝撃だったからだ。

ベトナムのカゴの中にパン

 山梨の小麦農家・富岡さんの無農薬全粒粉を使用。形はひらべったくなっているけれど、食べにくくはない。かりかりとした表面に歯を立てると、全粒粉の粒が皮を割るのを手伝ってくれて、ほろほろと崩れていく。微妙なゆらぎとともに放たれる小麦の味わい、黒糖のような甘さが、懐深く具材をまとめあげる。レバーペーストは甘めで快く、なますの軽い酸味は色気を与えている。定番のパクチーとともに入れられたミントとディルがここではないどこかへ、香りの旅をさせてくれる。

 後口にフランスのナチュラルワインを流し込む。ブドウの香りをたたえたしずくは、なんの違和感もなく滑りこんできて、舌を甘くうるおしていき、レバーやハーブの残り香と楽しげに合唱しはじめた。

 ベトナムでも、フランスでもあり、と同時にそのどちらでもないという不思議さ。ここは、白井瑛里さんと笹原智美さんの夢を結実させた場所。もともとヴァンナチュールで名高いビストロで勤めていた白井さん。ワインを大好きなバインミーに合わせる店を出すのは自然な流れだった。

「友人もみんなバインミーが好き。映画『スタンドバイミー』をもじって『スタンドバインミー』でいいんじゃない?って話で盛りあがった後、自然にパン屋さんに向かって歩きだしていました(笑)」

 パンを依頼しようと向かったのは中目黒のTAVERN。プレミアムと通常タイプの秀逸なる2種類を作りあげた。3カ月にわたって毎日試作を繰り返し、山梨の小麦畑にも足を運んだ。本場のバインミーがふわふわなのと異なり、甘めで、かりっとして歯切れがよく、それでいてもっちりとして麦の素材感があり、具材に自然と寄り添うのだ。

牛ほほ肉のバインミー

 極力オーガニック素材を使う。やさしい味わいはナチュラルワインと好相性。「鯖(サバ)のバインミー」は、いわゆる鯖サンドのような焼き鯖を予期したら、ほろほろとやわらかく崩れていくトマト煮。「牛ほほ肉のバインミー」は、料理用のではなく、飲む用として提供できるようなおいしい赤ワインを使用。どおりで、派手派手しい味わいではなく、滋味深い。

 昼はバインミー。夜はワインとおつまみ。フォーのスープは、「鶏の骨をばきばき折るところからはじめて」10時間かけて煮込んだもの。日本のダシを想起させるやさしい味につるつる米麺。バインミーで飲んで締めにフォーと、一食で麦米二大穀物を制覇すれば満足感はこのうえない。

紅茶はベトナムの茶器で提供

 笹原さんが「これ、いいでしょう?」と示した自慢のベトナム製茶器。カップとポットが2段で一体となって、うつくしい模様が描かれている。あれもこれも、店で使用されるかわいい雑貨はベトナム製。2人がベトナムで見つけたかわいいもの、おもしろいものを集めて、スタンドバインミーという夢はできあがっているのだ。

>>続きはこちら

■スタンドバインミー
東京都目黒区鷹番3-15-18パレス104
03-6451-0827
昼)11:00~14:30、夜)18:00~23:00(土は11:00~23:00、日は11:00~22:00)
火曜休み
http://standbanhmi.com

>>「このパンがすごい!」でご紹介した店舗マップはこちら

[PR]

この記事を気に入ったら
「いいね!」しよう

PROFILE

池田浩明(いけだ・ひろあき)ライター

池田浩明

佐賀県出身。ライター、パンの研究所「パンラボ」主宰
日本中のパンを食べまくり、パンについて書きまくるブレッドギーク(パンおたく)。編著書に『パン欲』(世界文化社)、『サッカロマイセスセレビシエ』『パンの雑誌』『食パンをもっとおいしくする99の魔法』(ガイドワークス)、『人生で一度は食べたいサンドイッチ』(PHP研究所)など。国産小麦のおいしさを伝える「新麦コレクション」でも活動中。最新刊は『パンラボ&comics 漫画で巡るパンとテロワールな世界』(ガイドワークス)

BOOK

『日本全国 このパンがすごい!』(発行・朝日新聞出版) 池田浩明 著

写真

連載をまとめた「日本全国このパンがすごい!」(朝日新聞出版)が待望の書籍化!北海道から沖縄まで全国の「すごいパン屋!」を紹介。ディレクターズカットを断行、エッセンスを凝縮し、パンへの思いもより熱々で味わっていただけます。
税込1,296円

今、あなたにオススメ

Pickup!