パリの外国ごはん

主食インジェラの酸味が最高、エチオピア料理『Habesha』

  • 文・写真 川村明子 イラスト 室田万央里
  • 2017年12月5日

  

  

  

 「ちょっと前回と趣の違うところにしようか」。次は何料理を食べに行くかを決めようとしていたときに、万央里ちゃんが発した言葉。まるで旅先でも考えるかのようだなぁと思った。この連載、もともと考えていたタイトルは「パリで旅する、外国ごはん」というものだったのだ。

 炭水化物の割合が高くないものがいい、野菜が食べたい、などのお互いの希望も一致して、エチオピア料理に決まった。2人ともが行ったことのないお店にしようと検索し、テーブルや椅子にかけられた布に惹(ひ)かれた、15区にあるHabeshaに行ってみることにした。

イネ科の穀物粉で作る主食、インジェラ

 お店の前に着くと、ひなびた感じがなんだかパリではないようなたたずまいで、気持ちが盛り上がる。メニューをチェックしつつ、窓から中をのぞくと、外の印象とはうらはらに、にぎわっていた。

 ネットで見て惹かれていたテーブルは、最後のひとつが空いていて、そこに座ることができた。隣のテーブルはすでに食事の真っ最中で、5人が大きな円盤のお皿を囲み、みんな手で食べている。何度か食べたことはあるけれど、そんなになじみのあるものではないので、肉料理と野菜料理の盛り合わせを頼むことにした。万央里ちゃんは、野菜料理だけの盛り合わせにするという。

  

 注文をしてから、他のテーブルも見まわすと、どうやらお客さんの誰もが、フォークもナイフも使わず、手で食べている。あの独特の酸味のある、インジェラで包みながら。インジェラとはクレープのようなもので、イネ科のテフという穀物の粉で作る、エチオピアの主食だ。

 しばらくして、店中に面白い匂いが充満してきた。煙い。どうもお香をたいているみたいだ。煙のもとが、すでに食事の終わった隣のテーブルに、コーヒーのポットと一緒に運ばれてきた。コーヒーをサーブしている間も、そのお香のようなものはテーブルに置かず、結局そのまま下げていく。あれはただ煙を運んでくるだけで、テーブルには置かないものなのかなぁ? と不思議に思っていたところに、私たちの料理が運ばれてきた。

 テーブルは上が平らじゃなくて、くぼんでいる。そこに料理を盛り付けたプレートをはめ込むとちょうど収まる仕組みだ。プレートには、全面にインジェラが敷かれ、その上におかずが盛られている。まずは、少しちぎってインジェラだけを食べてみた。記憶の中にあった、独特の酸味が途端によみがえる。でも前に食べたお店のものよりも、ここの方が生地がふわっとしていた。発酵時間が長いのかもしれない。

  

 次いで、お料理にとりかかる。味のわかるレンズ豆から手をつけた。レンズ豆はレンズ豆なのだけれど、味付けは何が主体なのかさっぱりわからない。いろんなスパイスが入っていることだけはわかる。その隣にある、色の異なるレンズ豆を食べると少し味付けが違って若干辛みがあった。

 牛ひき肉は、三色弁当に入っているそぼろのような親しみのある味。面白いなぁと思いながら隣の牛肉のラグーを食べてみると、今度はこれが結構スパイシーだ。だけど、相変わらず軸となる味も、何のスパイスなのかもわからない。コリアンダーとかパプリカが入っていそうな気はするけれど。お肉と豆類に比べると、野菜はシンプルな味だった。

  

 くたっと火を通したホウレン草やインゲンが、インジェラとよく合う。野菜と合わせて食べながら、インジェラってキムチと合いそうだなぁと思った。酸味に通ずるものがある。味をしっかりつけた甘味のあるポテトと、スパイスの絡めてあるビーツも、インジェラと好相性でおいしかった。

 最後に、真ん中にあった鶏肉と卵のラグーを。カレーではないけれど、玉ねぎ、にんじん、ほかにもいろんな野菜がみじん切りで入っていそうだった。スパイスもたくさん。バスマティ米にも合いそうな煮込み。だけどはっきりつかめる味がない。知らないものがたくさん入っているってことなのだろうな。

  

 おなかがいっぱいになり、コーヒーを頼む。食事の前に漂ってきていた、煙もくもくがまた始まった。そしてコーヒーと一緒に運ばれてきた。先ほどの疑問を万央里ちゃんが聞くと、「テーブルには置いておいても良いのだけど、煙くて嫌なひとも多いから下げてるだけ、嫌じゃなければ置いておくけど?」というので、置いておいてもらうことにした。これがエチオピアのスタイルなのだそうだ。首の長い、つぼのようなコーヒーポットから注がれたコーヒーは、まろやかでおいしかった。

 ひとりでサービスを担当していた女性に、帰り際、インジェラのことを聞くと、テフ粉だけだとうまくまとまらないし膨らまないから、小麦粉を合わせていると言う。なるほど、それでふわっとしていたのかも。

  

 1週間後、また一人で食べに行った。この日は前回と別の男性の店員さんだった。ラグーの中にはどんなスパイスが入っているのか聞いてみると、エチオピアにしかないスパイスがたくさんあって、それらを多用しているらしい。コリアンダーは結構入ってる? と聞くと、違うと言われた。辛みは、バルバレという名の赤唐辛子だそうだ。

 スパイスがたくさん入っているのはわかるのだけれど、おかず類はどれも塩味がとても控えめだ。だからいくら食べても優しい印象。塩味の代わりに、インジェラの酸味が味の決め手のひとつになっているような。そういえば前回、お皿の上のインジェラがなくなると、お代わりを持ってきてくれたな、と思った。インジェラありきのごはんってことなのかな、ととりあえず自分を納得させた。

  

Habesha
19, rue Copreau 75015 Paris
01 43 06 09 42
12時~14時30分、19時~23時
月昼 休み

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PROFILE

川村明子(かわむら・あきこ) 食ジャーナリスト

写真

東京生まれ。大学卒業後、1998年よりフランス在住。ル・コルドン・ブルー・パリにて製菓・料理課程を修了後、フランスおよびパリの食にまつわる活動を開始。現在は執筆のほか、パリで活躍する日本人シェフのドキュメンタリー番組『お皿にのっていない時間』を手掛けている。著書に『パリのビストロ手帖』『パリのパン屋さん』(新潮社)、『パリ発 サラダでごはん』(ポプラ社)
日々の活動は、Instagram: @mlleakiko、朝ごはんブログ「mes petits-déjeuners」で随時更新中。

室田万央里(むろた・まおり) 料理人

写真

無類の食べ物好きの両親の元、東京に生まれる。
17歳でNYに移り住んだ後、インドネシア、再び東京を経て14年前に渡仏。
モード界で働いた後に“食べてもらう事の喜び”への興味が押さえきれずケータリング業に転身。
イベントでのケータリングの他、料理教室、出張料理等をパリで行う。
野菜中心の家庭料理に妄想気味のアジアンテイストが加わった料理を提供。理想の料理は母の握り飯。未だその味に到達できず。
Instagram @maorimurota

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