東京ではたらく

<16>佐藤奈美子さん(37歳)/航空会社グランドスタッフ

  • 文 小林百合子 写真 野川かさね
  • 2017年12月7日

職業:グランドスタッフ
勤務地:羽田空港
勤続:12年
勤務時間:シフトによってさまざま
休日:週休2日(シフトによって曜日は変動)
この仕事の面白いところ:お客様に楽しい旅をしていただけたときはうれしいです。あと同僚はみんな旅好きなので、一緒に旅行すること。
この仕事の大変なところ:早番のシフトのときは朝が早いこと。

    ◇

 日本航空のグランドスタッフとして勤務して12年目になります。グランドスタッフとは航空会社の地上係員のことで、主にチェックインカウンターで搭乗手続きをしたり、搭乗口の出発ゲートでご出発のお手伝いをしたりします。

 その他にも、お体が不自由な方やお子さま連れの方をサポートさせていただくなど、お客さまが日本航空の飛行機で空港を出発されるまでのさまざまな手続きやお手伝いをするのが仕事です。

 私は入社以来ずっと羽田空港勤務で、国内線を担当していますが、日本全国の空港の国内・国際線でたくさんのグランドスタッフが勤務しています。

 グランドスタッフの仕事に就くきっかけになったのは、大学時代に所属していたスキー部の先輩の言葉でした。大学卒業後、新卒採用で証券会社に入社し、営業職として1年ほど働いていたときのこと。

羽田空港の国内線ターミナル。「新人時代はフロアに出て乗り遅れそうなお客さまをお手伝いしたり、ご搭乗予定のお客さまを探して走り回ったり。なかなか体力のいる仕事です、じつは」

 毎日夜遅くまで働き、土曜日も出勤することの多かった私に、「仕事ばっかりしてたら、後で振り返ったときにつまらないぞ」と声をかけてくださって。その方はずいぶん年上の先輩だったのですが、日本航空に勤めておられて、「うちのグランドスタッフの採用試験を受けてみたら」と。

 もともと人とコミュニケーションを取ることが好きで、営業職を選んだのも、オフィスで一日中パソコンに向かっているより、外に出てたくさんの人と話がしたいという気持ちからでした。

 証券会社の営業にもやりがいは感じていたのですが、入社以来、仕事ばかりしていた自分にはその先輩の言葉がものすごく響いてしまって(笑)。空港で働くグランドスタッフは、きっと接客のプロ。その華やかなイメージへの憧れもあって、一念発起、入社試験に挑戦することにしました。

 運良く採用していただき羽田空港勤務となったのですが、入社後まず驚いたのは、覚えなければいけないことの多さでした。

チェックインカウンターでの接客は常に笑顔。「リクエストにはできるだけお答えできるよう、臨機応変な対応が欠かせません。そんなの無理……と思っても、まずは笑顔です!」

 今はどの航空会社もチェックインなど、ほとんどの業務をシステム端末で行っています。接客技術の前に、まずはその操作方法をマスターしなければいけないということで、入社後しばらくはそうした端末関係の操作方法を徹底的に学びました。

 それができるようになったら、OJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)といって、実際のカウンターに入って実務をしながら訓練を積むわけですが、はじめてチェックインカウンターに立ってお客さまを前にしたときは緊張しましたね。

 お客さまを前にしないトレーニング期間とは違い、複雑な端末操作をしながらしっかりと接客もしなくてはならないということで、それはもう焦ります。

 お客さまをお待たせしたり、手違いがあったりしては絶対いけませんので、先輩方も厳しくなって当然です。「新人は自分の身の回りのことはさっと済ませて、とにかく業務を覚えなさい」とよく指導されたものです。

パンプスを履いて大きな荷物を移動させるグランドスタッフの女性たち、たくましい!「華やかな世界だと思って入ったらびっくりしちゃうかもしれませんね(笑)」

 そんなふうにして、チェックインカウンターや搭乗ゲートで訓練を積み、2~3年経ってようやく一人前になれるといった感じです。

 もうひとつ、グランドスタッフが絶対に忘れてはいけないこととして教わったのが、「常に笑顔でいる」ということ。新人時代はわからないことや変則的なことがあるとどうしても動揺して、それが顔に出てしまうんです。
 でも、先輩からは「どんなことがあっても、常に口角を上げて笑っていなさい」と。頭でわかってはいても、新人にはこれがとても難しいんですね(笑)。

 はじめのうちは、やっぱりカウンターでお客さまにお叱りを受けることも多くて、笑顔、笑顔と思っても、顔や態度に出てしまって。「どんな顔で接客してるんだ!」と先輩に指導されることも度々ありました。上司から「佐藤さん、もういいから別の人に代わって」と言われてしまったり……。

 当時はまだ経験不足ですし、何より若かったので、「私は悪くないのに……」という気持ちがぬぐいきれない部分もあったのでしょうね。それでも、先輩方の言う通り、とにかく笑顔を絶やさない努力を続けていると、だんだんその大切さというか、意味がわかってきたんです。

車椅子やベビーカーを貸し出す「スマイルサポートカウンター」での業務に就くことも。「金属を探知する検査場でも車椅子に乗ったまま通過できるよう、木製の車椅子もご用意しています」

 

 たとえば、チェックイン時間に遅れてしまうお客さまがいたとします。これはもう例外なくどうしようもできないのですが、そんなときでも「無理です、乗れません」と言ってしまってはお客さまもいい気持ちがしませんよね。「JALの飛行機だって遅れることがあるのに!」とご意見される方もいらっしゃいます。

 そんなときは笑顔でひとこと、「重い荷物を持って走られて大変でしたね」など、気遣う言葉を忘れません。もちろん結果は同じで、遅れてしまった便には搭乗していただけないのですが、同じ結果だとしても、できるだけお客さまに寄り添うことで、気持ち良く旅に出発していただけると思うんです。

 笑顔の力と、お客さまに寄り添おうとする気持ちは何より大切なんだ。それは多くのお客さまと接する中で学んだことで、今でも一番大切にしていることのひとつです。

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PROFILE

小林百合子(こばやし・ゆりこ)編集者

写真

1980年兵庫県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、アラスカ大学フェアバンクス校で野生動物学を学ぶ。出版社勤務を経てフリーランスに。山岳・自然をテーマに雑誌や書籍の編集を手がける。2010年に女性向け登山雑誌『Hutte』(山と溪谷社)を立ち上げ、独自の視点で登山や自然の楽しみ方を提案した。著書に『山と山小屋』(野川かさねと共著、平凡社)、『山登りのいろはーたのしい登山のヒント集』『一生ものの、山道具』(ともにホシガラス山岳会著、パイ・インターナショナル)など。

野川かさね(のがわ・かさね) 写真家

写真

1977年生まれ。神奈川県出身。雑誌、書籍で活動するかたわら、ライフワークとして山を撮り続ける写真家。著書に『山と写真』(実業之日本社)、『山と山小屋』(小林百合子と共著、平凡社)、『山登りのいろはーたのしい登山のヒント集』『一生ものの、山道具』(ともにホシガラス山岳会著、パイ・インターナショナル)など。

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