伝説のあの映画が生まれた仕事場 

  • 文・高橋有紀 写真・鈴木愛子
  • 2018年1月29日

 気になるあの商品や作品はどのように作られたのか? どんな場所で生まれたのだろうか? ”気になる”が生まれた「仕事場」におじゃまする新連載です。

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 新宿の喧騒から少し離れ、並木道を抜けた先の古い小さなマンション。
「不動産屋に案内されたとき、一目見て、隠れ家っぽい感じが気に入りました。もう20年以上になりますが、なかなかここから離れられなくて」と話すのは、映画監督でヴィジュアリストの手塚眞さん。ここは手塚さんの個人事務所だ。

 高校生の頃から映画製作を始め、その後も映画を中心に執筆、テレビ出演、イベントのプロデュースまで広くクリエーティブに関連する仕事に携わってきた。ヴェネチア国際映画祭の受賞作品である映画「白痴」、アニメ「ブラック・ジャック」、そして現在公開中の「星くず兄弟の新たな伝説」まで、この仕事場から生まれた作品を挙げれば枚挙に暇がない。

 仕事の幅は広いが、やはり肝となるのはいちばん最初のプランを練るときだ。

「僕らはツカミっていう言い方をしますが、それさえ決まればあとは意外とするすると決まるんです」

 アイデアが出てくるまで、1週間かかることもあれば、パッと浮かぶこともある。その過程を手塚さんはこう例える。

「商店街の福引でガラガラと回す抽選器がありますよね。あれが自分の頭だとして、中にいろいろ詰まってはいるんだけど、出てくる口は小さいんです。運がよければいいアイデアがすぐ出てきますが、何度引いても出てこないときはずっと回し続けるしかない」

脚本など書き物をするときはもっぱらワープロを使用。もちろんマックもないと仕事にならない

 きっかけをつかみ取るには、適度に刺激や情報があって、頭が揺り動かされることが必要という。仕事場へのこだわりもそこにある。精神的にも視覚的にも適度に緊張感を保ちながら、どこかにリラックスできるポイントを作る。事務所の中は、机も椅子も全部が一点もの。

「部屋を借りたとき、オフィス家具のカタログなども見てみたんですが、欲しいと思えるものがなくて。借りもののオフィスみたいになっちゃうので、せめて椅子ぐらいは自分の好きにしたいな、って探し始めたら、きりがなくなって(笑)」

 スタッフと一緒に椅子を探しに行ったり、挙げ句の果てには床も壁もつくり変えたり。「自分の巣」と呼べるような、手作りのオフィスができあがった。

「うちは、父親がそういうのにこだわらない人間で。どこでも仕事できちゃうタイプで、仕事道具も場所も、極度なこだわりって少なかったんですね。それに対する反動じゃないんだけど、僕はもうちょっと自分のスタイルの中でやりたいほうなんです」

 映画製作の場においては、「人」も環境のひとつ。信頼しているスタッフが1人でもいればリラックスできるし、逆に刺激が欲しいときはあえてなじみのない人をそろえることもある。

「それは自分に対する演出でもあるんです」

 静かな語り口と穏やかな笑顔の裏に隠れた、強いこだわり。常に時代の一歩先を行く映像表現の、はじまりの場所だ。

アーチ型の壁もレンガ敷きの床も、内装を作り変えたもの。棚や事務机は木目調で落ち着きをもたせながら、黒いアイアンのガーデンテーブルをポイントに。椅子の赤が利いていて、温かみを感じる部屋だ

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手塚眞(てづか・まこと)
1961年生まれ。東京都出身。高校生のときから映画製作を始め、その後も映画を中心に小説やデジタルソフト、イベントやCDのプロデュースまで広く活躍。ジャンルを超えた表現活動とその実験的、先進的なスタイルが注目される。代表作品に映画「白痴」、テレビアニメ「ブラック・ジャック」、漫画「PLUTO」の監修など。
父は漫画家の手塚治虫さん。 ※手塚治虫さんの「塚」は正しくは旧字です。

映画「星くず兄弟の新たな伝説」公開中!

星くず兄弟の新たな伝説ポスター

 1985年に手塚眞監督が映画化し、熱狂的人気を博したロックミュージカル映画『星くず兄弟の伝説』。まさに伝説的カルトムービーとなった前作から30年の時を経て、手塚眞×近田春夫コンビが再タッグを組みケラリーノ・サンドロヴィッチが脚本に参加し復活させた。
 リメイクでも続編でもない、まったく新しいコンセプトによる前代未聞&奇想天外なニューカルトムービー「星くず兄弟の新たな伝説」は、近未来を舞台に若返ったスターダスト・ブラザーズが月へ行ったり、西部劇のごとく大暴れしたり、歌とダンスを交え破天荒な大冒険を繰り広げる、最高に奇抜で痛快な物語です。
 出演は、仮面ライダーシリーズで人気に火がついた俳優三浦涼介と武田航平。ヒロインには荒川ちか、そしてオリジナル作品に主演した高木完、久保田慎吾と新旧キャストが勢ぞろい。昭和の元祖ロックグループ「ザ・スパイダース」のメンバー井上順をはじめ、夏木マリ、浅野忠信、野宮真貴(元・ピチカート・ファイブ)、まさかの大御所内田裕也といったロック魂全開の超個性派豪華メンバーが大集結した。テアトル新宿ほかで 全国順次ロードショー

公式HP:http://stardustbros.com/

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PROFILE

高橋有紀(たかはし・ゆき)ライター

2004年に国際基督教大学卒業後、英語学習情報誌「AERA English」の校閲、編集に携わる。 週刊誌「AERA」、ダイヤモンド・オンラインほかでビジネス、教育、カルチャー、トレンドなどの分野を中心に取材、執筆。

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