東京の外国ごはん

ひっくり返して食べるの? 伝統料理「マクルベ」 ~アルミーナ(パレスチナ料理)

  • 文・写真 宇佐美里圭
  • 2017年12月12日

パセリが山盛りの「タブーリ・サラダ」

 神田駅から徒歩3分ほど、雑居ビルの地下1階においしい“パレスチナ料理”のお店があると聞いた。最近トランプ大統領の「エルサレムはイスラエルの首都」発言で注目を集めるパレスチナ。はて、イスラエル料理とは似ているのだろうか?違うのだろうか?

 現在、ヨルダン川西岸地区とガザ地区に分かれたパレスチナ自治区には約500万人が住む。1948年のイスラエル建国とともに、70万人以上のアラブ人(パレスチナ人)が故郷と家を失い難民になったともいわれている。ユダヤ人国家のイスラエルに対し、パレスチナは「アラブ国家」の樹立を目指している。ということは、パレスチナ料理とイスラエル料理は違うのかしら……? そんなイメージを抱えてお店の扉をノックした。

 扉を開け、暗い階段を下りていくと、ぷうんと異国のスパイスの香りがしてくる。「あ、外国の匂い!」。薄暗い照明のフロアには、かわいいアラブ風のランプがたくさんかかっている。壁にはモザイク絵があったり、奥には赤いカーテンで仕切られたソファのある個室があったり、床に水たばこが置いてあったり……アラブな雰囲気満載だ。

 さっそく料理を頼む。一皿目は前菜の「タブーリ・サラダ」(1400円)。パセリのサラダと書いてあったけれど、出てきたものを見てびっくり。まさにパセリの山! そこにトマト、玉ねぎ、ミント、ブルゴル(ブルガー小麦)とザクロを加え、オリーブオイルとレモンで味付けをしているという。濃い緑色のパセリの中でザクロがルビーのようにキラキラと光り、コントラストが美しい。食べてみると、レモンの酸味とパセリの苦みが独特の味を引き出し、日本食にはない新しい感覚だった。おもしろい! パセリといえばいつも脇役で、食べられることなくそのままゴミ箱行きの運命をたどっているような気がするが、主役になるとこうなるのか! と、新しい味を見つけたような気がした。

パレスチナ人のオーナーシェフ、シャディ・バシィさん

 オーナーシェフのシャディ・バシィさん(40)に聞くと、パセリのサラダはアラブ圏ではポピュラーな料理だそうで、パレスチナ以外でも中近東ではよく食べるのだそう。パセリは美容にもいいようなので、日本人ももっと活用すべきかも。

 そして次に出てきたのが「前菜の盛り合わせ4種盛り」(1人分1400円)。小さいお皿にずらりとペースト状の料理が並ぶ。一つは、焼きナスとピーマンやパプリカをベースにしたペースト。もう一つはオリーブとキュウリのピクルスをベースにしたペースト。そしてひよこ豆のペーストに、ツナとピーマンのペースト。ひよこ豆以外はレモンとオリーブオイルがたっぷり入っていて、酸味がしっかり効いている。「レモン、オリーブオイル、ニンニクをたっぷり使うのが伝統的なパレスチナ料理の特徴なんです」とシャディさんは言う。これを自家製のピタパンにつけて食べる。

前菜の盛り合わせ4種盛り

 そして最後はお米料理、「マクルベ(Maklubeh)」。出てきたものを見てビックリ。まるでケーキ!!! 直径20cmほどはあるだろうか。一番上にはパセリやナッツがのり、その下にローストチキンが敷き詰められている。ナイフを入れて小さく切ってみると、お米だけかと思いきや、ナスやニンジン、カリフラワーなどどんどん野菜も出てくる。日本米よりも粒が大きな“バスマティ米”にはしっかりとした下味がついていて、とてもおいしい。ヨーグルトソースをかけると、味がマイルドになりそれもそれでイケる。

 「マクルベ、というのはアラビア語で『ひっくり返す』という意味です。鍋にチキン、ご飯、野菜を入れて、最後にお皿の上でひっくり返すからそう呼ばれているんです。日本人のお客さんは『大きい!』って驚きますが、アラブ人にとってはこれで1人分。むしろ小さい方です(笑)。日本人は『お好み焼きみたいな味』といって、みんな大好きですね」

チキンがびっしりと敷き詰められた「マクルベ」

 マクルベはパレスチナの伝統料理で、イスラエルではあまり食べないという。それにしても、イスラエル料理とパレスチナ料理に大きな違いはあるのだろうか?

 「イスラエルもパレスチナも、その周りのシリア、ヨルダンも、もともとはみんな一緒ですからね。いろんな国から人が集まっているので、ヨーロッパとアジアの要素が混ざっています。料理はほとんど同じだと思いますが、ちょっと味付けが違ったり、呼び方が違ったりします。パレスチナ料理でよく使うのは、玉ねぎ、ニンニク、ザクロ、ナツメヤシ、イチジク、オリーブ、オリーブオイル、豆。肉は豚肉以外は何でも食べます。強いて言うと、パレスチナは周りに比べると少し酸味が強いかもしれません」

 そうシャディさんは説明してくれた。聞くだけで、なんだかとてもヘルシーな感じがする。

新しい世界へ、日本でパレスチナレストランをオープンするまで

 シャディさんは、イスラエル北部の町、ハイファ出身だ。先祖代々パレスチナ人で、母語はアラビア語のイスラム教徒だ。国籍はイスラエルだが、パレスチナ人のシャディさんは文化的にはアラブ圏に属する。「イスラエルに住む人の20%はパレスチナ人です。その20%の人はみんなヘブライ語もアラビア語も話しますよ」という。

 料理には幼い頃から興味があり、15歳の頃から5人兄弟のうちの1人が営んでいたレストランでアルバイトをしていた。学校を卒業してからは、そのまま料理の道へ。故郷にあったイタリアンやスペインレストランで経験を積んでいった。

 そうやって8年ほど働いていたが、23歳のときにオランダのアムステルダムへ渡る。「ずっと同じ場所にいたから、新しい世界が見たくなって」という若者らしい理由だった。

 アムステルダムではパン屋でアルバイトなどをしていたが、そのままずっといるのも……と思い始めていた頃に、2002年の日韓ワールドカップがあった。サッカーが大好きだったシャディさんは、迷わず日本へ。東京を中心に2カ月ほど滞在した。シャディさんにとって初めてのアジアだった。

 「なにもかも違うので衝撃でした。それに、日本語ができなくても英語でなんとかなると思っていたら、全然通じないのでびっくりしました。標識なども日本語ばかりだったので、ちょっと戸惑いましたね。でも、もっとびっくりしたのは、一度オランダに戻って、翌年また遊びにきたとき、外国人が全然いなかったこと。『あんなにいた外国人はどこにいったんだ?』って思いました(笑)」

  日本が大好きになったシャディさんは、その後何度も日本に遊びにくるように。そんなときに感じたのが、「日本には自分にとってチャンスがあるかもしれない」ということだった。

 「ヨーロッパやアメリカにはパレスチナレストランがたくさんあります。でも、日本で探したらほとんどなかったんです。あっても、アラブの味からはかけ離れてた。だから、自分がお店を出せる余地があるかもしれない、と思って。それで、自分のお店を出そうと思って日本に来ました」

 2004年、シャディさんは再び来日。この頃、日本を行き来する中で出会った日本人女性と結婚もした。

 「日本で自分のお店を出す」と決めていたが、やはりすぐに実行するのは難しい。まずは飲食店の仕組みを学ぶため、レストランで働くことにした。銀座ライオン、東京アメリカンクラブをはじめ、あちこちの高級ホテル、レストランなどでキッチン、ホール、マネジャー、バーテンダーなど、あらゆる仕事にチャレンジした。

目の回るような忙しさの中で

 そして機が熟したのは2010年のこと。たまたま神田で地下1階の物件が見つかり、念願のレストランオープンへこぎ着けた。

 レストランでは料理を出すだけでなく、水たばこの提供やベリーダンスのショーもあり、さらにケータリングなども手がける。2年前には麻布台で2店舗目をオープンし、忙しさに拍車がかかった。取材の日も、麻布台のお店からかけつけ、撮影の合間にアルバイトの面接をし……と目の回るような忙しさ。

 「今はすごく大変ですね。15年以上この仕事をしていますが、労働時間は平均12時間、最近は18時間くらい。自分が雇われの身ならサボれるけど、オーナーになるとサボッたらお金が入ってこなくなりますからね(笑)」

 シャディさんは在日15年になるが、アラブ圏のことは日本人に誤解されていることが多い、と感じている。今もお客さんに「ラクダを持っているんですか?」「テントみたいなところに住んでいるんですか?」と聞かれることがあるという。

 「もちろんそんなことはないし、精神的には昔の日本に似ているところもあると思いますね。サムライに近いというか……。アラブ圏の人はプライドが高くて、悪事を嫌います。イスラム教というと、最近はテロリストに結びつけられることが多いのですが、実態とは違います」

 宗教のことを聞くと、シャディさんは開口一番、「イスラム教もユダヤ教もキリスト教ももとはぜんぶ一緒。歴史の中でおかしくなってしまったけれど」と言った。そして、「神様を信じていると、悩みがあってもお祈りをすればそれで終わり。ストレスがなくていいんですよ」と付け加える。

 やはり、料理という窓はいつもいろいろな世界につながっている。今回もシャディさんのパレスチナ料理から、ちょっと遠く感じていた中東の世界を垣間みることができた。

>>アルミーナの店内やパレスチナ料理の写真のつづきはこちら

アラブ地中海料理 神田AL MINA(アルミーナ)
〒101-0046 東京都千代田区神田多町2丁目2−3
電話:03-3526-2489
http://www.almina-restaurant.com/

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PROFILE

宇佐美里圭(うさみ・りか)編集者、ライター

宇佐美里圭

1979年、東京都生まれ。東京外国語大学スペイン語学科卒。在学中、ペルー・クスコにて旅行会社勤務、バルセロナ・ポンペウファブラ大学写真専攻修了。ワールドミュージック誌、スペイン語通訳、女性誌、『週刊朝日』編集部を経て、『アサヒカメラ』編集部。料理研究家・行正り香さんの書籍を多数手がける。ラテン音楽、山、ワインが好き。

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