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<79>人生を変える出会いが待っている、学生街の手作りカフェ

  • 文 吉川明子 写真 山本倫子
  • 2017年12月14日

 JR横浜線淵野辺駅周辺は麻布大学、桜美林大学、青山学院大学相模原キャンパスなどが点在する学生の街。分譲マンションの建設も相次ぎ、若いファミリー層の住民も増えている。

 古本屋カフェ「sunny day ring」は、そんな街の一角に2015年10月にオープンした。店主は生まれも育ちも相模原という岩崎翔さん(34)。大学卒業後に入った会社は、地方勤務を命じられたのを機に退社。大学時代にインターネット上で古書販売などをした経験を生かして、都心にしかなかったブックカフェを地元に作ろうと思いついた。そのひらめきが、のちに岩崎さんの人生を大きく動かすこととなる。

 店舗用に見つけた物件は、淵野辺駅の北口から徒歩5分ほど。売り場と工場を兼ねた元煎餅店だった。「内装は好きにしてもいいよ」と言われ、友人の手も借りながらDIYで内装を整えた。

 「うちの店は“100均”とホームセンターでできてるんです」

 と岩崎さんは笑う。こうして、手作りならではのアイデアで温もりに満ちた空間が生まれた。店内に並ぶ約500冊の本やマンガの選定ポイントは、「人生の役に立たない本」。ジャンルを問わず、必要ではないかもしれないけれど、読んでいて楽しいものを揃(そろ)えた。

 開店3日目のこと。1人の女性が店に現れ、カウンターに座った。岩崎さんが注文を受けてフレンチトーストを作る間、女性にじっと見つめられているような感じがしたという。その後も彼女は毎日のように店を訪れ、いつしか言葉を交わすように。約2カ月後には交際へと発展していったのだ。

 「お客さんと付き合うなんて一番ダメなパターンですよね(笑)。店を始める以上は独りで頑張るしかないと思っていたので、こんなことになるなんて信じられなくて!」

 人の縁はどこにあるかわからない。彼女は近所の大学に通う“ガチムチ”好きの学生だった。ガチムチとは、筋肉質のガッチリかつムッチリした体型を指す言葉のこと。ひと足早く店を訪ねた友人から、「新しくできたカフェの店長、ガチムチのヒゲで好みだと思うよ」と教えてもらったのが来店のきっかけだったという。ちなみに岩崎さんの幼少期のあだ名はジャイアンだ。

 彼女は店作りのためにさまざまなアイデアを出し、時には手伝ってくれるようになった。店内のメニューや説明文も書き、本の形をした照明も彼女のお手製。大学卒業後に税理士事務所に勤め始めてからは、店の経理も手伝ってくれるようになった。彼女の両親の転居を機に、一緒に住もうと決めたのが半年ほど前。あわててお互いの両親にあいさつに行った。

 「もう人生が急展開すぎてハゲそうです(笑)」

 店を始めるまでは自分の食い扶持(ぶち)さえ稼げればいいと思っていたが、そうはいかなくなった。そのことが、岩崎さんの意識を変えた。

 「きちんと“商い”をしなきゃ、って思ったんです。どうやったらお客さんがお店に来てくれるか、居心地よく過ごしてくれるかなどをより真剣に考えるようになりました。何か新しいことをやろうとする時、忙しくてつい先延ばしにしがちだったのですが、彼女に『いつやるの?』『週末、ホームセンターに買い出しにいかなきゃ』って言ってもらえるので、確実に実行できるようになったんです」

 出会いがあったのは店主だけではない。店で顔見知りになった客同士の交流も進んでいる。大学の壁を超え、放課後に集まったり、カメラ部などの“部活動”も始まったり。学生街ならではの輪が広がる一方で、昔からこの地に暮らす年配の方や、親子連れなどの憩いの場にもなっている。

 「よく本屋って文化の交流地点って言いますよね。はじめはそんなつもりじゃなかったのに、いつの間にかそうなっていることにびっくりしています」

 人生、何が起こるかわからない。岩崎さんとこの店が体現している。

■おすすめの3冊

『東京バンドワゴン』(小路幸也/著)
東京下町で古書店「東京バンドワゴン」を営む堀田さん家は、今では珍しい8人の大家族。しかも個性派ぞろい。近所の住民も加わって、日々事件が巻き起こる――。「店では“人生の役に立たない本”を取り揃えていますが、ここでは僕の役に立った本を紹介します。実は僕が小説を読み始めたのは24歳の時。これはその時の本であり、この店作りのきっかけにもなったんです」

『装丁道場―28人がデザインする「吾輩は猫である」』(グラフィック社編集部/編)
誰もが知っている夏目漱石の「吾輩は猫である」の装丁を、さまざまなデザイナーが手がけてみると……。「この本からは店作りの考え方を学びました。どんな店か分かってもらうためにも見た目は大事だし、面白がってもらえるにはどうしたらいいかを考えるきっかけになりました」

『美しい盛りつけの基本』(久保香菜子/著)
お店で見るようなステキな盛りつけが家でもかんたんにできるルールやコツ、器の選び方などを紹介した一冊。「色合いや盛りつけでがらりと印象が変わるということを、この本から学びました。店で定食などを作るようになり、この本がすごく役に立ったんです!」

    ◇

古本屋カフェsunny day ring
神奈川県相模原市中央区淵野辺1-13-12
https://www.facebook.com/sunnydayring/
“ガチムチ”店長の岩崎さんと店内風景の写真特集はこちら

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