川島蓉子のひとむすび

<32>日本に根づくNY発“おいしそうな風景”「DEAN & DELUCA」(前編)

  • 文・川島蓉子
  • 2017年12月22日

THE ARTISAN TABLE・DEAN & DELUCA(撮影/鈴木愛子)

 赤坂の溜池交差点の角地に、9月29日、ピカピカの新しいビル「赤坂インターシティAIR」がオープンしました。ゆったりした敷地の中、街路に向かって飲食店がしつらえてあり、グリーンに囲まれた「離れ」のような店も――それぞれが玄関を持つ路面店のような構えは、大空間の中に店を並べる商業施設が多い中にあってユニークな存在です。

 その一画に、食のセレクトショップである「DEAN & DELUCA(以下、D&D)」の新しいレストラン「THE ARTISAN TABLE・DEAN&DELUCA(以下、アーティザンテーブル)」がたたずんでいます。

 街路から小路を入ったところにある二層建ての店は、上質でありながらカジュアルな雰囲気。街中にある「D&D」と同じような空気感を持っています。

 もともと「D&D」は、ニューヨークのソーホー発のブランド、今年は誕生して40周年にあたります。しかも来年、日本に上陸して15周年と、ブランドにとっての節目が続きます。そんな区切りへの思いも込め、新しい試みを盛り込んだ店として、「アーティザンテーブル」が作られたのです。

 「D&D」を展開しているウェルカムの代表を務める横川正紀さんには、以前から何度か話を聞いてきました。その中には、ブランドが成長していく過程のエピソードがいっぱい――今はいつもにぎわっている「D&D」ですが、実はそうでなかった時期もあるのです。そこで今回は、「ブランドとしての『D&D』がハードルを越えた時のエピソード」を、次回は最新ショップの「アーティザンテーブル」に触れようと思います。

創業者デルーカさんに聞いた、D&Dの哲学

DEAN & DELUCA店舗。床から天井に近いところまで、ぎっしり並んだ食料品が美しい(写真は六本木店/提供写真 以下同)

 14年前にスタートした「D&D」は、オフィス街の丸の内店、百貨店インショップの「東急東横のれん街」店、ターミナルの「アトレ品川」店と、異なる場所に3店出したのですが、どれもうまくいかず、3年で黒字にする予定が、3年目が終わった時点で「事業を継続するかどうか」を検討するまでにいたっていました。

 思い悩んだ横川さんは、改めてブランドの根幹を確認しようと、創業者であるジョルジオ・デルーカさんに会うため、米国に渡りました。そして3日間、テープとカメラを回しっぱなしにして、デルーカさんの話を聞いたのです。そこには、生みの親としての志や思いがぎっしり詰まっていました。

 大きな気づきになったのは、「LIVING WITH FOOD=“食べること”とは、人生を味わうこと」が、「D&D」のフィロソフィーであるということでした。つまり、何をどう売るかという“かたち”ではなく、「食を通して豊かで喜びあふれる暮らしを提案すること」が、ブランドの根っこにある。それを伝えていくのが、ブランドとしての「D&D」が果たす役割とわかったのです。

 そして、「そのためにできることはたくさんある」と決心して帰国。ニューヨークのままの“かたち”を再現するのではなく、“思想”を伝えるブランド作りに取りかかりました。たとえば、輸入物だけにこだわらず、日本のものも積極的に取り入れる。生鮮食品を扱っているところもあれば、そうでないところもあっていいと考え、実践していきました。お店の構成も、カフェを中心としたこぢんまりしたお店もあれば、スーパーマーケットのように大きな食料品店もと、バラエティを広げました。

積み上げられたドーナツやスコーン、プレッツェルが、食欲をそそる

 その結果、店によって造りや構成、品ぞろえは異なっているのに、遠くから見ても、近づいてショップに入っても、「D&D」らしさが空気感として漂うようになったのです。

 シックなグレー地に「DEAN & DELUCA」と記された看板と、ケースに並んでいるデリやサンドイッチ類、うずたかく積まれているマフィンやペストリーの数々、コーヒーマシンで一杯ずつ丁寧にいれているコーヒー。それらが一体化した“おいしそうな風景”は、そのままブランドイメージにつながっています。

 よく見ると、ケーキの隣に和菓子があったり、パスタソースの横にしょうゆやみそなどが置いてあるのですが、そこにまったく違和感はありません。それは「D&D」という視点で、確かなセレクトがなされているから――。

チーズやハムも、「おいしそうな顔つき」で並ぶ

 そして、お客が「D&D」を訪れるのは、「コーヒー一杯で一休み」ということもあれば、「ちょっとしたプレゼントを」「休日の夕食にデリを」といったように幅広い目的に応えてくれるから。イートインであれば、ほどよいにぎわいがありながら、落ち着いた雰囲気の中でコーヒーや軽食をいただける。テイクアウトであれば、家でちょっと華のある食卓を演出できる。あるいは友人宅の集まりに、おもたせにすると喜ばれる――まさにデルーカさんの“思想”である「食を通した豊かで喜びあふれる暮らし」を彩ってくれるのが「D&D」と言っていいのではないでしょうか。

和食の食材は人気があり、今年からは和食材だけが入った福袋の販売も始まるそう

 こうやって原点にたちもどるところから、抜本的にブランドとしての関わり方を見直し、当初の3店舗の売り上げは大きく改善。その他の店舗も順調に推移しながら、マーケットストアやカフェなど多店舗化を進め、現在は全国30店舗以上に。似たようなお店がありそうでない。それが「D&D」の強みと感じます。

 ただ最近、お店が随分と増えているのが、少し気になっているところ。好きなブランドが人気なのはうれしいのですが、一方で大きくなることで薄まってしまうものがないかと、老婆心が湧いてもくるのです。丁寧に丁寧に、育っていってくれたらいいと、一ファンとして感じています。

 次回は、その最先端にあって“旬の食材を扱うフードラボラトリーレストラン”を掲げた新しい試み――「アーティザンテーブル」の中身について、詳しく触れたいと思います。

■DEAN & DELUCA

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PROFILE

川島蓉子(かわしま・ようこ)

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伊藤忠ファッションシステム株式会社取締役。ifs未来研究所所長。ジャーナリスト。
1961年新潟市生まれ。早稲田大学商学部卒業、文化服装学院マーチャンダイジング科修了。多摩美術大学非常勤講師。日経ビジネスオンラインや読売新聞で連載を持つ。著書に『TSUTAYAの謎』『社長、そのデザインでは売れません!』(日経BP社)、『ビームス戦略』(PHP研究所)、『伊勢丹な人々』(日本経済新聞社)などがある。1年365日、毎朝、午前3時起床で原稿を書く暮らしを20年来続けている。
ifs未来研究所 http://ifs-miraiken.jp

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