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<80>夜はバーに変身! 神保町の児童書専門店の挑戦

  • 文 吉川明子 写真 山本倫子
  • 2017年12月28日

 ありとあらゆる本が集まる神保町だが、意外なことに児童書専門の新刊書店は1つしかない。今年のこどもの日にオープンした「ブックハウスカフェ」だ。

 同店の前身は2005年に同じ場所にオープンした「ブックハウス神保町」。「絵本文化を守っていこう」という趣旨に賛同した複数の出版社が出資し、靖国通りに面したビルの1階に児童書専門店を作った。ここは1902年創業の洋書専門店「北沢書店」のビル。ヨーロッパ調の重厚な建築物で、高い天井に螺旋(らせん)階段という風格ある空間が広がる。かつては「北沢書店」が1階に新刊、2階に古書と2フロアを使っていたが、インターネットで気軽に洋書が手に入るという時代の流れに押され、2階の古書フロアだけを残し、1階をテナントとして貸すことにしたのだった。

 絵本や児童書など約1万冊を揃(そろ)え、多くのファンを獲得したが、オープン当初から赤字覚悟のメセナ的な書店だったこともあり、この2月、惜しまれながらも閉店した。

「『ブックハウス神保町』が営業していた10年間は、私の子育て期間と重なったこともあり、よく通っていたし、お気に入りの場所でした」

 そう話すのは、「ブックカフェハウス」社長の今本義子さん(53)。「北沢書店」社長の北澤一郎さんの妹で、今本さんから見れば「ブックハウス神保町」は、実家の持ちビルの店子に当たる。

 そのため、大好きな店だったものの、その窮状(きゅうじょう)は漏れ聞こえていたし、出資していた出版社が手を引くことになったのもいち早く耳に入ってきた。

「できれば次も書店さんに入ってほしいと思いましたが、かなり広い空間なので、書店はもちろんのこと、飲食店でも難しいと言われました。コンビニは関心を持ってくれましたが、『この店舗は書店でなくては!』という強い思いがありました」

 テナントが空き店舗になるのは困る。かといって、どんな店でもいいというわけにはいかない。また、「ブックハウス神保町」で働いていたスタッフも、何とかして店を継続させたいと強く願っていた。今本さんが出した答えは、「自分が店を続ける」というものだった。

「ブックハウス神保町を経営し続けて下さった出版社の方にも『大変だからやめたほうがいい』と言われましたし、神保町の他の店主さんたちも心配してくれました。でも、この店をコンビニにしたくない、11年愛されてきたこの素晴らしい店をなくすわけにはいかない! と思ったんです」

 店の雰囲気や品揃えなど、「ブックハウス神保町」で大切にしてきたものはそのままに、少しでも採算を確保するためにカフェやギャラリーを設けた。事務所や倉庫として使っていた部分もキッズスペースを設けたり、会議室やイベントスペースとして使える空間に作り替えたりして、音楽ライブやトークショー、読み聞かせ会なども開催。また、23時まで店を開け、夜はバータイムにした。絵本に囲まれて酒を飲む、というここにしかない魅力的な空間が誕生したのは、うれしい副産物だった。

「いま最も心がけているのは、人が集まる店づくりです。そのためにカフェやバーを営業したり、貸しスペースを作ったり、毎日のようにイベントを企画しています」

 今本さんやスタッフのひらめきは些細(ささい)なことでも実行に移した。カフェスタッフにバレリーナやダンサーが在籍していることもあり、12月には、彼女らによるポールダンスショーを開催し、大好評を博した。客足は着実に増えつつある。

 神保町で生まれ育った今本さんは、この街の変遷を見ながら、このユニークな本の街がいつまでも皆に愛される街であって欲しいと願っている。

「店はまだまだ赤字で運営は確かに大変なことばかりですが、挑戦のしがいがあるし、ブックハウスカフェを始めたことは後悔していません。思いつくことは、何でもやって、1日でも長くこの店を続けていけるように日々、挑戦していきたいです」

■おすすめの3冊

『ゆうだち』(あき びんご/著)
激しい夕立にふりこめられた家で、ヤギとオオカミがくりひろげる命がけの歌合戦! 「絵本セラピストのりこちゃんがイベントでこの本を読んで下さったとき、私のツボにはまりまして。絵もお話も大好きです」

『かばんうりのガラゴ』(島田ゆか/著)
旅するかばんうりのガラゴ。お客さんのほしいかばんをいつでもどこでも出してくれる。「12月にうちの2階で島田さんの原画展を開催していました。細部までていねいに描かれた絵と、色使いがすてきで、私も子どもが小さい頃、よく一緒に読みました」

『ちいさいきみとおおきいぼく』(ナディーヌ・ブラン・コム/著、オリヴィエ タレック/絵、礒みゆき/訳)
ずっとひとりだった大きいオオカミのところに、ある日小さいオオカミがやってきたことから、大きいオオカミの世界が彩る物語。「フランスの絵本で、絵も色使いもとてもすてき。絵を描かれたタレックさんがご来店下さったことがあるのですが、『パリにもここみたいな絵本の専門店はないから頑張って』と言ってくださり、励みになっています」

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こどもの本専門店 ブックハウスカフェ
東京都千代田区神田神保町2-5 北沢ビル1F
https://www.bookhousecafe.jp/

※新年は1月5日から営業

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