インタビュー

清川あさみさんと最果タヒさん、小野小町に出会う

  • 対談「千年後の百人一首」(前編)
  • 2018年1月5日

清川あさみさんと最果タヒさん(撮影・馬場磨貴)

 「百人一首」が千年のときを超え、現代に生き生きとよみがえる。新刊『千年後の百人一首』は、アーティストの清川あさみさんの手から紡ぎ出された「絵札」と、詩人・最果タヒさんの筆による現代語訳を超えた「詩」によって、千年前に詠まれた和歌の世界に新たな命を吹き込まれた話題の1冊。創作秘話、そして、2人が感じた「千年前の男と女」とは?

    ◇

――『千年後の百人一首』が生まれたきっかけは?

清川 「絵本シリーズ」が一段落し何かやりたいと思っていて、編集者とは「古典もいいね」と話してはいました。するとある日、「百人一首はどうだろう。最果タヒさんとタッグを組むのはどうか?」と連絡が来たんです。百人一首は学校の授業で少し習った程度。その百人一首で作品を創るというのは想像がつかなかったけれど、編集者が送ってくれた最果さんの本を読み、とにかくお会いしてみよう、と。最果さんが紡ぎ出す世界観は好きな感じだったし、百人一首とも自然と結びつき、「いける気がする」と思いました。ただ、最果さんって存在が謎めいているから、難しい感じの人だったらどうしよう……と(笑)。お会いしたらすてきな方で、安心しました。

最果 本当ですか? よかった~(笑)。清川さんはテレビで拝見したことがあり、キラキラした人だなあと思っていたので、私はあんなにキラキラしてないけど大丈夫か?(笑)と不安もありました。でも、清川さんの作品と百人一首は合うに違いない、と。千年前にもあった糸と布を使い、百人一首の世界が清川さんの手と感性によって現代のものや色と重なる風景を見てみたいと思いましたし、そこに自分が現代語訳を書けるのなら、それはとても幸せなこと。ワクワクしました。

――創作を始めて感じたことは?

清川 素直におもしろいと思いました。藤原定家によって選ばれたとされる100人の歌の名手が紡いだ言葉を解釈するのは興味深かったし、何より、もつれた人間関係も興味深くて。定家と結ばれていた女性がいたり、作家同士がつながっていたり、本当にカオス(笑)。

清川あさみ(きよかわ・あさみ) アーティスト。日本、淡路島生まれ。2001年初個展。2003年より写真に刺繍を施す手法を用いた作品制作を開始。2011年水戸芸術館にて個展開催。12年、東京の表参道ヒルズにて「美女採集」展ほか、展覧会を全国で多数開催。代表作に美女採集、Complexシリーズなど。絵本や作品集など著書も多数。様々な広告のアートディレクターとしても活躍中

最果 女の情念とかもすごいですよね。「いっそのこと死にたい」なんて歌もあって、そこまで激しいものは書いたことないので訳せるか少し不安でした。かと思えば、飄々(ひょうひょう)と「楽しく暮らしてまーす」的な歌もあり、私これどうするんだろ? って(笑)。

清川 ツイッターの短い言葉でもその方の人間性が透けて見えちゃうように、短歌にも人間性が出ますよね。最果さんはそういうことも含めてどのように解釈するんだろうと思ってました。

最果 私も百人一首は学校で習った程度だったので、これまでは言葉一つ一つを分解して、解釈していく、という見方をしていました。そうやって読むと、どうしても「昔の人のもの」として読んでしまう。

 でも今回は、「訳であり詩でもあるものを」と言われていたし、今のものとして再構築する必要があったので、まず、その言葉がそれぞれの作者から生まれた瞬間のことを考えることにしたんです。

 作者が歌を詠んだその時は、その言葉が一番新しくて、「今」だったと思います。だからその時の感覚に立ち戻って、歌に触れ、それを言葉にしていくことが必要なんじゃないかと。詠み手が歌を詠もうと思ったその瞬間、その衝動について考えながら訳していました。そうして歌に触れていくと、昔の人の感情も実は今とあまり変わらないんだなと思いました。

 一方で、歌ひとつで恋がかなったり破れたり、歌の才能だけで出世したり追い出されたり。言葉にそれだけの重きが置かれていて、使う言葉でその人のすべてがわかると考えられていたのはすごいこと。そういう中で紡がれた言葉を訳すのは、少し怖いなとも。

最果タヒ(さいはて・たひ) 詩人、小説家。現代詩手帖賞、中原中也賞、現代詩花椿賞。最新詩集「愛の縫い目はここ」(リトルモア)、エッセイ集「きみの言い訳は最高の芸術」(河出書房新社) 小説「十代に共感する奴はみんな嘘つき」(文藝春秋)ほか

なぜか最初は二人とも、小野小町から作り始めた

――実際の創作活動はどのように進んでいったのですか?

清川 お互いにやりやすい作品から作っていく、というスタイルで始めたのですが、なぜか最初は最果さんも私も小野小町だった。

最果 偶然でしたね。

 

9 小野小町
  はなのいろは うつりにけりな いたづらに わがみよにふる ながめせしまに

清川 小野小町の第9番の歌では「ふる」という言葉が掛けことばになっていて、時が経つ「経る」と雨が「降る」がかかっています。それを最果さんは単純に訳してない。恋愛、人生、季節、そういったものすべてをレイヤーを重ねるように訳し、ひとつの詩として新たな命を吹き込んでいる。さすが、と感心しました。

最果 小野小町の歌ってすごく掛けことばが多くて、それが今とは大きく違うなと思いました。それをそのまま分解して、現代の言葉で順番に訳していっても、掛けことばにあった自分と世界の境界線がぼやけて消えていく感じとか、そういうものは表すことができない気がして。

 この歌では桜の色がくすんでいく様と自分が老いていく様を重ねているのですが、桜がこうで、私もこうで、と並べて書くと、この重なっていた部分が離れていってしまうんですね。だから、「桜」と「私」を一行に書けないか、と考えてやってみました。

 はっきり正しく伝わるように言葉を使う、というのが、今の言葉ではよいこと、とされているのですが、詩の言葉は、そうした「わかりやすさ」ばかりを優先して自分の感情を単純化していくところから離れていける言葉だと、常日頃思っていて。この掛けことばにおけるあいまいさも、詩の言葉ならそのままで訳すことができないかな、と思ったんです。この歌の訳が最初にできたことで、この先もいけるのではと思えました。

 その後、清川さんの絵が届きました。絵にする場合、昔の人の着ていたものとか、見ていたものって、やっぱり今とは全然違うし、それでも今だからこそ見える景色みたいなものもあるはずで。その両立をどうするのだろう、難しいことだろうなあ、と思っていたんです。でも、届いた小野小町の歌の絵を見たら、すごく、今のものとしてきれいで、でも千年前の美しさも感じられて。

清川 とても有名な歌なので、もっとも古典に近い絵で表現しました。とはいえ、小野小町の足にペディキュアを施したりと、ちょっと遊んでもみました。この先は崩していって、後半になるにつれ完全に現代的な解釈にしていきました。

ところで、何時ごろ書いてたんですか?

清川 ところで、最果さんって何時ごろ書いてたんですか?

最果 ほとんど夜です。

清川 やっぱり! 夜のイメージがあった。私は逆。一番頭が動くのが朝の5時、6時なので、どんなにドロドロの歌でも早朝が一番入り込めました。

最果 私は夜の方が詩の言葉に没頭できる気がして。1日3本ぐらい書いていたので、どんどん深みにはまっていくのですが、夜の方が終わりがなくて、どこまでも行ける感じがしたんです。

清川 創作してる時間のズレもいい意味で効果があったような気がしていて。私は子どもが生まれたばかりだったので、早朝に赤ちゃんを抱っこしながら、気持ちは「母」から「女」にスイッチを切り替え、完全に別人になって作品に向き合ってましたね。

最果さんは「ささやかな感覚」から、清川さんは「ドロドロ」から(笑)

――そのあとは、それぞれがやりたい作品から仕上げていったのですか?

最果 そうですね。私はささやかな感覚を詠んだ歌から。清川さんは……激しい系から?

清川 そうそう! 激しいのとか、女の情念たっぷりの歌から作って行きました。朝の5時からドロドロ(笑)。

最果 私はそれ系を後に回しました。そしたら最後ドロドロばかり残ってしまって(笑)。書けなくて煮詰まっていたところに絵が届いて、「できる!」と感じたこともたくさんありました。

清川 同じですね。私も「この歌どうしよう」と悩んでいたときに最果さんの詩が届き、生まれた作品はいっぱいあります。解説書を読んでもわからないものが、最果さんの訳で「なるほど、こういう歌なのか」と理解できたりして。文通みたいでしたね。

最果 ですね。和歌の世界と同じで、書いたものが少し遅れて相手に届いて、その返信がまた遅れて届いて……。ゆっくりやりとりしながら。

清川 そうやって少しずつ少しずつ深めていったという感覚がありました。

>>後編に続く

(聞き手・構成 中津海麻子 原画撮影・朴玉順<CUBE>)

BOOK

写真

『千年後の百人一首』(リトルモア) 清川あさみ・最果タヒ 著

日本古典文学の最高峰に挑む。
これが、この世限りの、決定版「百人一首」。

清川あさみが布や糸・ビーズで描きおろした百の情景。
――今までの絵札とは全く違う、けれど歌に込められた思いを真摯に表現した一枚一枚は、新たな百人一首の姿を見せてくれます。

最果タヒによる、現代語訳にして新作詩。
――情感豊かな現代の言葉で綴られた新訳は、時に愛おしく、時に物悲しく、いまを生きる私たちの胸に刺さります。

巻末にはそれぞれの歌が詠まれた背景や詠み人についての丁寧な解説も収録し、ハンディな造本に、百人一首のすべてが詰まった一冊です。
税込1728円

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