このパンがすごい!

“福の神”がほほ笑んだ、バゲットでつくるミルクフランス/オパン

  • 文・写真 池田浩明
  • 2018年1月9日

■オパン(東京)

 オパン一番人気のミルクフランス。一般に、ソフトフランス(油脂などを入れやわらかくしたフランスパン風のパン)が使われるところ、バゲットで作っている。食べにくいのではないか? 先入観を吹き飛ばしたのは、皮のぱりぱりっぷり。そして、強い香ばしさが放たれる。内側でミルククリームがとろっと。バターが舌の上で固形から液体に変わるときの、あのオイリーさ、ひんやりする感じ。甘さより、ミルクの芳醇(ほうじゅん)さが勝っている。だからさわやか。

 小麦味が濃厚なバゲットに、ひたすらミルキーなクリーム。人はギャップがあればあるほど狂う。小麦と乳。遠かった2つの素材感が、徐々に混ざり合って愛おしくなっていく、お口の中の劇場。対立から融合へ。

オパンドッグ

 ホットドッグもバゲットで。名をオパンドッグという。ぶっといソーセージはぷりぷり、どっぴゅーと肉汁がちょちょぎれる。バゲットの皮はもちろんばりばり。かつ、切れ目を入れられた中身はやわらかく、そこに肉汁が染み込んで別様の快楽を生む、バゲット2段活用。噛(か)めば噛むほど、ソーセージから旨味(うまみ)、バゲットから甘みがあふれだす、官能のシンクロニシティー。ホットドッグも、ドッグパンより、バゲットのほうが実は合うのではという、常識破りの考えさえ頭をよぎる。

 ミルクフランス、ホットドッグのみならず、コーヒーフランス、あんフランス、ガーリックフランス、明太フランス。ショーケースを覗(のぞ)けば、フランスと名のつくパンがずらり。すべてバゲットだ。きっかけは、独立前、國井慎二シェフが店長を務めていたベーカリーチェーン時代にある。

「ミルクフランスのパンはソフトフランスで出してましたが、お客さんに、バゲットで出してほしいと言われまして。やってみたらすごくよろこんでくれて『絶対いいよ』って。クリームを、ただやわらかいパンに入れるんではなく、しっかり歯ごたえと粉の味があるパンに入れるからおいしいんですよね」

 大前提は、バゲットの秀逸さ。あのばりばり感と香ばしさをどのように出すか? 長時間にわたって熟成をかけることはもちろん、しっかりミキシングをして最初にグルテンを作る。それが爽快なる硬さを生む。試行錯誤の中で得たこのコツが、バゲットを國井さんのスペシャリテにした。

カレーパン

 もうひとつ、ばりばり感がえも言われない、カレーパン。パン粉はクルトンのようなキューブ型。これがはじけてばりばりという心地いいサウンドを生む。一方、パン生地は対照的にふにゃふにゃ。トマトはじめ、野菜の甘酸っぱさや滋味が豊かにあふれる。忘れた頃にびりびりとスパイシーさがやってくるけれど、菓子パン生地の甘みがやさしく中和してくれる。

 焼きカレーパンだが、物足りなさは一切ない。衣をもばりばりとさせる一工夫があるからだ。

「焼く前と焼き上がりにオリーブオイルをかけています」

 「ミルクフランスをバゲットで」と言った、あの常連さんも大いに気に入って、「独立したら絶対やったほうがいい」と太鼓判を押したという。

パン・オ・ショコラ

 パン・オ・ショコラも一気食いであった。この皮も爆裂のぱりぱり。でありつつ、中身はふにゃりで、これが溶けてじゅるりへとつづく。チョコが溶けてむせかえるほど広がり、口から鼻へと風味が充満。バター感と見事にマリアージュする。夢中になって食べ進んだあと気づく。あまりに爆裂しすぎて、そこらじゅう破片まみれ。粉は気管に入ってむせるほどだった。

キャラクター「オパン君」

 パンとともに見逃せないのが、「オパン君」。丸顔でバゲットを焼くかわいいキャラは、一度入ってみたくなる明るい雰囲気を醸しだす。これを描いた人こそ、ミルクフランスやカレーパンにアドバイスを送っていた常連さんその人だという。

「デザイナーをされていた人で。僕もすごく好きなお客さんなので、一生ロゴを大事にできるなと思ってお願いしました」

 人気商品と人気キャラクターを生みだしてくれるなんて、福の神ではないか。

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■オパン(東京)
東京都渋谷区笹塚1−9−9
03-6407-8507
8:00〜19:00
月曜、第2・4火曜休

>>「このパンがすごい!」でご紹介した店舗マップはこちら

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PROFILE

池田浩明(いけだ・ひろあき)ライター

池田浩明

佐賀県出身。ライター、パンの研究所「パンラボ」主宰
日本中のパンを食べまくり、パンについて書きまくるブレッドギーク(パンおたく)。編著書に『パン欲』(世界文化社)、『サッカロマイセスセレビシエ』『パンの雑誌』『食パンをもっとおいしくする99の魔法』(ガイドワークス)、『人生で一度は食べたいサンドイッチ』(PHP研究所)など。国産小麦のおいしさを伝える「新麦コレクション」でも活動中。最新刊は『パンラボ&comics 漫画で巡るパンとテロワールな世界』(ガイドワークス)

BOOK

『日本全国 このパンがすごい!』(発行・朝日新聞出版) 池田浩明 著

写真

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