川島蓉子のひとむすび

<33>アーティザンテーブルで、作り手とつながる 「DEAN & DELUCA」(後編)

  • 文・川島蓉子 写真・鈴木愛子
  • 2018年1月10日

アーティザンテーブル「立冬」コースから、「長井漁港産 赤座海老/ほおずき」。旬を取り込んだ美しい料理が供されます

 食のセレクトショップである「DEAN & DELUCA(以下、D&D)」が、ニューヨークに誕生して昨年で40周年、日本に上陸して今年で15周年を迎えます。前回は、おしゃれなブランドとして日本にすっかり定着した「D&D」が、過去に大きな転換期があったことを取り上げました。今回は、2017年9月に開いた「THE ARTISAN TABLE・DEAN & DELUCA(以下、アーティザンテーブル)」について触れたいと思います。

    ◇

 レストラン「アーティザンテーブル」は、「赤坂インターシティ AIR」の一画にあります。いわゆる商業施設内のインショップではなく、街路から緑豊かな小路をたどる一軒家のような構えがユニーク。日が暮れると小路沿いに照明がともり、落ち着いたたたずまいに、ロマンティックな雰囲気が加わります。

シックなデザインが施された看板

 アーティザンとは、「食の作り手」のこと。それは、「野菜をつくるひと、魚をとるひと、牛を育てるひと、味噌(みそ)を仕込むひとも、チーズをつくるひとも、料理をつくるひとも、ワインを選定するひとも」含むといいます。コンセプトは、そうした「すべての“ARTISAN”と“食べる人”をつなげ、その瞬間にしか食べることのできない旬の食材を扱うフードラボラトリーレストラン」。

 「フードラボラトリー」とは、あまり耳にしたことがない言葉ですが、「新しい食のよろこびを探求し、継続的に挑戦していく」という「D&D」の意思を表したもの。いくつかの実験的な試みが盛り込まれています。

二十四節気に基づき、2週間に1回メニューが変わる

大きな窓から戸外の緑がのぞめるゆったりした店内

 入り口を入ると、中に階段がしつらえてあるメゾネット形式で、1階と2階で異なるスタイルの食が供されます。1階は、気の置けない仲間と楽しんでもらうことを意図し、旬の素材を味わうレストラン。旬の野菜を盛り込んだサラダや、絶妙な案配でグリルしたステーキなど、バラエティー豊かなメニューがそろっています。

手元に渡されるその日のメニュー。じっくり眺めながらいただけます

 一方、2階で提供されるのは10品のコースメニュー。日本の四季を彩る二十四節気に基づき、2週間に1回、メニューを変える仕組みになっています。旬を大切にする日本の良さを活かした、10皿の料理が供されるのです。

「甘鯛/ざくろ」。彩り豊かで造形的にも美しい盛り付けが

 たとえば立冬のメニューに「甘鯛(あまだい)/ざくろ」とあるのですが、これは、旬の甘鯛を「うろこ揚げ」という手法でフリットにし、そこに熟したざくろがちりばめられたもの。甘鯛のコクをざくろの酸味が引き立てるとともに、かりっとしたうろこと、ぷちっとしたざくろの触感が楽しめる一品です。

「葉山牛/黄金蕪」。素材の良さを最大限に引き出した料理

 また、「葉山牛/黄金蕪」は、イタリアのピエモント州に伝わる郷土料理である「ボリート」をかたどって、葉山牛をじっくり煮込み、そこに黄金カブを添えたもの。カブの甘味とかすかな苦みが肉のうまみと一体となって滋味深い味わいを醸し出す――テーブルに配された10品にまつわる説明を見ながら、じっくりゆっくりいただくコースです。

 また料理とは、味はもちろん、盛り付けも大事なのは言うまでもないこと。シンプルで上質感のあるお皿に、ソースが弧を描いたり、薬味がちりばめられたさまは、ちょっとしたアートのよう。「目にもおいしい」工夫が凝らされ、「次はどんな料理だろう」とワクワクしながらいただいていく。ゆったりしたぜいたくな時間を過ごすことができるのです。

1階では、大皿にどんと盛られたカジュアルな料理が出されます

3カ月交代のシェフの共通ルール。「事前に旅に出ること」

 これら一連のメニューを考案し、オープンキッチンで調理しているのは、「D&D」のシェフたち。いつもは「D&D」の各店で、デリなどの調理を担当しているシェフが、3カ月交代で、このレストランのシェフを務める。それはなぜなのでしょうか――理由のひとつは「それぞれのシェフによる真剣勝負」で、普段の技に磨きをかけることにあります。確かに、自分が考えて創った料理を、目の前のお客が食べて、反応を目の当たりにするわけですから、真剣勝負に違いありません。3カ月交代ですから、他のシェフとの差が歴然と出てもきます。

シェフの秋山直宏さん。お客さんの目の前で料理を行うオープンキッチンです

 「アーティザンテーブル」シェフのトップバッターを担った秋山直宏さんは「生産者さんがわかっている食材を使って、シンプルにおいしさを引き出すようにしています。普段はお客様の前で料理することはないので、最初は緊張しましたが、喜んでいただく姿に接することができるのはありがたい」とにこり。確かに、それぞれのシェフにとって、やりがいのある役割に違いありません。

 さらに面白いのは、担当するシェフが「事前に旅に出る」のを決まりごとにしていることです。その地で出会った生産者や素材を念頭に置きながら、オリジナルのメニューを創作していく――人や材料との出会いによって、料理人の感性が触発されるのでしょうし、地域に根差した豊かな食材を味わうのは、お客の感性を刺激してくれるもの。

 取材を終えて感じたのは、「食を通して豊かで喜びあふれる暮らしを提案すること」という「D&D」の根底にある考えが、「アーティザンテーブル」でもしっかり貫かれていることです。1階でカジュアルにいただく料理も、2階でゆったりいただく料理も、ここでの体験そのものが、うれしさ、楽しさといった思いと結びつき、記憶に残っていくのではないでしょうか。

 産声を上げたばかりの「アーティザンテーブル」が、これからどのように進化していくのかが楽しみです。

■THE ARTISAN TABLE・DEAN & DELUCA
東京都港区赤坂一丁目8番1号 赤坂インターシティAIR 1階

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PROFILE

川島蓉子(かわしま・ようこ) 伊藤忠ファッションシステム株式会社取締役。ifs未来研究所所長。ジャーナリスト

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伊藤忠ファッションシステム株式会社取締役。ifs未来研究所所長。ジャーナリスト。
1961年新潟市生まれ。早稲田大学商学部卒業、文化服装学院マーチャンダイジング科修了。多摩美術大学非常勤講師。 日経ビジネスオンラインや読売新聞で連載を持つ。著書に『TSUTAYAの謎』『社長、そのデザインでは売れません!』(日経BP社)、『ビームス戦略』(PHP研究所)、『伊勢丹な人々』(日本経済新聞社)、などがある。1年365日、毎朝、午前3時起床で原稿を書く暮らしを20年来続けている。
ifs未来研究所 http://ifs-miraiken.jp

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