パリの外国ごはん

自家製の優しい味と、ほんのりスパイス。チベット料理Tachi Tagyé

  • 文・写真 川村明子 イラスト 室田万央里
  • 2018年1月9日

 パリ在住のフードライター・川村明子さんと、料理人の室田万央里さんが、いま気になるパリの外国レストランを訪問する連載「パリの外国ごはん」。食への飽くなき興味のもと、二人して調べまくり、質問しまくり、味見しまくり……。今回は、寒い冬にあったまりたいときの、チベット料理です。

 前回、韓国料理店に行くと決めたときに、実はもうひとつ候補があった。スープものがメインにあって身体の温まりそうなお料理。寒さは続いていて、そのもうひとつの候補、チベット料理屋さんに行くことにした。

 パリに数店あるチベット料理店の中から、私も万央里ちゃんも行ったことのないところにしよう、と目星をつけると、以前この連載でご紹介した、“おばあちゃんの餃子(ぎょうざ)”店とウズベキスタン料理のお店のすぐ近くにあることがわかった。これまで知らなかったけれど、フォーブール・モンマルトル通りから1本中に入った9区のこのあたりは、意外にアジア系のレストランが集まっている。

パンケーキ包みの前菜と、自家製麺入り牛肉のスープ

 着いてみると、店内はインテリアも雰囲気も落ち着いていて、女性一人で食事をしている人も少なくない。それで、優しい味のお料理なのかなぁ、と想像した。

 渡されたランチメニューに目を通しつつ、アラカルトもめくってみると、ベジタリアンとそうでない料理で区別されている。料理名はどれもチベット語で書かれていて、フランス語で説明があった。

 ひとつずつ見ていくと“自家製”と書かれた料理がいくつかある。5種類のレンズ豆のカレーにバスマティ米を合わせたものや、牛肉と野菜の炒めものにライスか蒸しパンを合わせた料理もすごく気になったのだけれど、やっぱりそれよりも“自家製”という言葉にひかれた。

 その中でもけっこう選択肢があって、迷った末、ホームメイドパンケーキで野菜とキノコを包んだ前菜と、自家製麺入り牛肉のスープを取ることにした。万央里ちゃんはベジタリアン料理の中から、材料にある“チベットの根菜”が気になる、とチベット風サラダを前菜に、野菜とチーズの蒸したラビオリをメインにすることにしたようだ。そして、バターミルクティーも。

 注文をするときに、件の“チベットの根菜”とは何かと聞いてみると、フランスにはないので、チベットから取り寄せているという。

 果たして、出てきたサラダには茶色い小粒の豆のようなものが散らしてあった。どうもそれが根菜らしい。食べてみると、甘みのあるお芋のような味。食感は里芋に近い印象だ。クレープの方は小麦粉に卵をしっかり加えたリッチな質感で、軽く炒めて塩で味付けしたニンジンにしいたけ、キクラゲ、春雨を巻いている。

 卵の入った少し厚みのある生地で野菜を巻くって、ありそうだけれど意外に食べたことがないかもしれないなぁと思った。このシンプルな組み合わせ、これからたまに食べたくなりそうだ。添えられた自家製ソースは、コリアンダーとミント、おろしたニンジンを合わせたもので、油っ気がなかった。

 つけると少し大人っぽい味になる。ただ、サラダにしろ、このクレープ巻きにしろ、味がぼんやりしていた。優しい味、と言えばそうなのだけれど、お塩はほんのわずかしか入っていない。高地で寒いところだと、味が濃いのではないかと思っていたけれど、逆に塩分を取らないようにするのかな? なんて考えていたら現地に行ってみたくなってきた。

 続いて出てきたメイン。万央里ちゃんの蒸し物は小さな蒸籠(せいろ)が2段重ねで、ふたを開けてみると、小籠包のような形のものが3つずつ入っている。それを先ほどのクレープと同じハーブソースにつけて食べるらしい。私の頼んだスープ麺は具だくさん。大量のキャベツに、ニンジン、パセリ、トマト、軽く炒められた牛肉がたっぷり乗っている。それをかき分けると、黄色い麺が現れた。

 北海道ラーメンのようにも見えるその麺は、食べてみると卵の味ではなくて、何か着色作用のあるものを加えているかんじだ。スープを飲むと、高菜漬けとかザーサイと共通する味がした。ちょびっとスパイスの味がして、たまにピリッとする。

 とはいえ、これもやっぱり塩味はとても控えめ。 決して、スパイシーでパンチのある味とかではない。蒸し物の方は、手打ちのもちもちした皮でほうれん草、ニンジン、チーズが包まれていた。味付けはこれも控えめながら、意外におなかにたまる気がした。いずれも、塩味は薄いものの、それが嫌ではなかった。疲れているときには思い出すんじゃないかなぁ、この味。

 おなかに余裕があったので、バターミルクティーを頼むことにした。それと、気になっていた自家製蒸しパンも。さんざん味が控えめだと書いたお料理とは裏腹に、このミルクティーはきりっと塩味が効いていた。対してもっちもちな蒸しパンは、お料理の付け合わせだけありほとんど塩味は感じない。それで、ますますほかのお料理への興味が高まる。どんな味付けが他にあるのだろう?

 スープでほんのり感じたスパイスは、聞いたところ、ターメリックだとわかった。ただ、粉末ではなく、フレッシュなターメリックをおろして加えているらしい。ターメリックには胃の健康維持や美肌効果もあるそうだし、他のお料理を発掘しにやっぱり再訪したいなぁ。

Tashi Tagyé
24, rue Richer 75009 Paris
01 48 24 14 57
12時~14時30分 18時30分~22時30分
日曜休み

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PROFILE

川村明子(かわむら・あきこ) 食ジャーナリスト

写真

東京生まれ。大学卒業後、1998年よりフランス在住。ル・コルドン・ブルー・パリにて製菓・料理課程を修了後、フランスおよびパリの食にまつわる活動を開始。現在は執筆のほか、パリで活躍する日本人シェフのドキュメンタリー番組『お皿にのっていない時間』を手掛けている。著書に『パリのビストロ手帖』『パリのパン屋さん』(新潮社)、『パリ発 サラダでごはん』(ポプラ社)
日々の活動は、Instagram: @mlleakiko、朝ごはんブログ「mes petits-déjeuners」で随時更新中。

室田万央里(むろた・まおり) 料理人

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無類の食べ物好きの両親の元、東京に生まれる。
17歳でNYに移り住んだ後、インドネシア、再び東京を経て14年前に渡仏。
モード界で働いた後に“食べてもらう事の喜び”への興味が押さえきれずケータリング業に転身。
イベントでのケータリングの他、料理教室、出張料理等をパリで行う。
野菜中心の家庭料理に妄想気味のアジアンテイストが加わった料理を提供。理想の料理は母の握り飯。未だその味に到達できず。
Instagram @maorimurota

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