鎌倉から、ものがたり。

稲村ケ崎、線路沿いの気になる家「R-OLD FURNITURE」

  • 文 清野由美 写真 猪俣博史
  • 2018年1月12日

 みんなが大好きな江ノ電。鎌倉と藤沢を結ぶ区間のハイライトは、何といっても、太平洋の水平線がかなたに開ける「稲村ケ崎」と「七里ガ浜」だろう。

 その稲村ケ崎の線路沿いに、とても気になる家がある。生け垣のある日本家屋。昔の面影をとどめたままの塀に、「R」の看板。この家を訪ねるには、電車が来ないタイミングを見はからって、線路を渡らねばならない。

 スリリングな一瞬の後、主の吉川淳也さん(45)が迎えてくれる。ここは、吉川さんが営む古道具・骨董(こっとう)の店なのだ。

 東京生まれの吉川さんは、小学生のときに家族とともに稲村ケ崎に引っ越して、以来、ここを地元にしてきた。店は1999年に、20代の半ばでスタートさせた。

 「高校を卒業した後、フリーターでふらふらしながら、やりたいことを探していたのですが、それがなかなか見つからなくて」

 勤め人になる気はまったくなく、かといって職人や芸術家にもなれず。ある日、ふらっと訪ねた町田の骨董市で、江戸時代の古箪笥(だんす)を目にした。そのとき、えもいわれぬ感動を味わった。

 「使い古した木の味わいに、見たこともない昔の空気がそのままある。時が止まっているという感覚に心打たれました」

 辻堂にある骨董・古道具店の「桜花園」で1年修業をして、フリーランスの骨董商として独立。倉庫を探す中で見つけた建物が、築100年になろうとする、いまの家だった。

 「もとは植木屋さんの住まいで、かやぶきの屋根が載っていたそうです。その植木屋さんは、実家のお隣の親戚というご縁があって、紹介していただいたのです」

 最後はおばあちゃんがひとりで暮らしていた、と聞いた古い家は、サッシや断熱材など入れずに、木張りの床や縁側、庭をそのまま生かした。そこで扱う品は、焼き物、漆物、古いガラス器、掛け軸、茶道具、家具など。

 「どんな品を選んで、どういう風に商うか、ということは常に模索しています。ただ、僕の気持ちは、古い空間で古いものを触ることが好き、という一点にある。それを伝えられるように、品ぞろえはなるべくシンプルにと心がけています」

 2002年には、稲村ケ崎駅の北側に、その名も「R No.2 antique」という2号店を開いた。稲荷神社の隣にある小さな小屋は、以前は大工さんが作業場にしていた場所。踏むとギシッときしむ床も、背をかがめて歩く天井裏も当時のままで、時を経た建物ならではの、やさしく懐かしい味わいに満ちている。

 店名のイニシャル「R」は、「Revolution」「Relax」「Recycle」のR。大量生産・大量消費を見直し、古くから伝わるものを大切に、カッコよく使い直していこう、という意味を込めている。古道具の掘り出し先は、関東近県で取り壊されていく古民家。古道具もさることながら、「R」と「no.2」の、現代的な作為を排したふたつの空間に、吉川さんの感性と思いが何よりも現れている。

 自分のすることが見えず、さまよっていたとき、仕事をするなら、環境に負荷を与えず、古いものにもう一度役目を与えることをしたい、と願っていた。店は今年、19年めに入る。 

「ひっそりと、好きな人がぽつぽつと訪ねてくれる。それが理想です」

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PROFILE

清野由美(きよの・ゆみ)

写真

ジャーナリスト。1960年、東京都生まれ。東京女子大学卒。慶應義塾大学院システムデザイン・マネジメント研究科修士課程修了。在学中、英ケンブリッジ大学客員研究員。英国留学、出版社勤務を経て、91年にフリー。先端を行く各界の人物インタビューとともに、時代の価値観や感覚、ライフスタイルの変化をとらえる記事を「AERA」「朝日新聞」「日経ビジネスオンライン」などに執筆。著書に『新・都市論 TOKYO』『新・ムラ論 TOKYO』(隈研吾と共著・集英社新書)、『ほんものの日本人』(日経BP社)、&w連載「葉山から、はじまる。」を1冊の本にまとめた『住む場所を選べば、生き方が変わる――葉山からはじまるシフトチェンジ』(講談社)など。

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