パリの外国ごはん

オリーブオイルの華やかな風味。レバノン料理『Yara』

  • 文・写真 川村明子 イラスト 室田万央里
  • 2018年1月23日

 パリ在住のフードライター・川村明子さんと、料理人の室田万央里さんが、いま気になるパリの外国レストランを訪問する連載「パリの外国ごはん」。食への飽くなき興味のもと、二人して調べまくり、質問しまくり、味見しまくり……。今回は、オリーブオイルとレモンたっぷり、さわやかレバノン料理です。

 これまでにも前を通ったことがあるのにまったく目に入っていなかった、と、あるとき突然その存在に気づくお店がある。Yaraはまさにそうだった。万央里ちゃんに、「こないだバスチーユで温かい雰囲気のレバノン料理屋さんを見つけたんだけど、今度そこに行かない?」とお店の場所を伝えると、「おかしいなぁ、結構よく前を通ってるはずなんだけど、このお店は気づかなかった」と漏らした。どうやら同じような印象を受けていたようだ。

 中に入ると、食卓という言葉が似合うダイニングの奥に、オープンキッチン。外観の、緑のファサードと木の窓枠から感じる家庭的な空気が、店内にも広がっていた。窓際の席に通され、早速メニューを開く。

 アラカルトを見ると、冷たい前菜だけで10皿、それに温かい前菜が13皿並んでいた。選びきれなさそうだったので、それらの中からいくつかが盛り合わせになっているランチメニューから頼むことにする。いつものように、万央里ちゃんはベジタリアンプレートを、私はお肉の串焼きも付いているグルマン(食いしん坊)プレートを選んだ。

 ものすごい偏見かもしれないけれど、これまでレバノン料理のお店には男性的なイメージを持っていた。そして、家庭的な空気を感じたこともない。でもこのお店は、サービス担当の女性の気遣いも細やかで、キッチンの動きをすぐ背後に感じることも手伝ってか、街の食堂の温かみがあった。

 それほど待たずにお料理が運ばれてくる。それぞれのお皿を見比べると、3つほど異なるおかずが乗っていた。2人そろって、まずは左上に盛られたひよこ豆のペースト、フムスからひと口。すごーく滑らかで、軽やか。真ん中にあるオイルは、オレンジエッセンスを思わせる華やかな香りがほのかにした。

 隣にあるナスのピュレを食べてみると、口から鼻にかけて途端に薫製香で満たされた。「おそらく皮をむかずにそのまま焼いて、スモークのようにしているのだろうね」と万央里ちゃんが言った。これも、レモンがたくさん絞ってあると思われる軽やかな口当たり。

 時計回りに食べて行こうと、次はタブレを。粗みじんに刻まれたパセリ、ミント、タマネギ、トマトが控えめな量のオイルとたっぷりのレモンであえてあり、さっぱり。ちょっとギシっとした歯ごたえが、ハーブを味わっている感満載で、パセリ好きにはたまらない。

 ホウレン草入りのサモサには、にんじんとミントも入っていて、これまたレモンが味を引き締めていた。フレンチだったらバターかクリームを合わせそうなところだ。

 その下にあるギョーザのような形の方は、ひき肉が包まれていた。スパイスが強いということもなく、優しい味のミートパイ。ひよこ豆のコロッケ、ファラフェルもカリッと揚げられ、期待を裏切らないおいしさ。タルタルソースがかかると少し懐かしい味になる。

 お肉の串焼きは、細かくひいた仔羊と牛肉にパセリとタマネギを加えたつくね状のものと、マリネした鶏肉のグリル。どちらもしっとり香ばしい。全部食べてみて、どこにもニンニクの味がしないなぁと気づいた。だからか、するすると食べられる。

 実はこの日の朝、日本の友人から思わぬ訃報が届き、心がかなり動揺したままランチに出かけていた。もし、ニンニクがところどころでバシッと効いて、オリーブオイルがたっぷりめだったとしたら、こんなにもするすると食べられなかっただろうな、と思う。揚げ物さえも負担に感じなかった。

 あとは、ピュレもタブレも、作り置きをしていない鮮度だった。食べ終わってみたら、まるで煮込み料理でも食べたかのように、なんだか気持ちがほぐれていた。

 食事が終わってミントティーを注文すると、かわいらしい形をした小さなポットが運ばれてきた。グラスもかわいい。小さなお菓子も併せて出してくれた。かじってみると、サモサの生地の中にデーツ(ナツメヤシ)のペーストが入っている。少し乳脂肪分を感じたけれど和菓子のようだ。中近東のお菓子は、びっくりするような甘さで食べられないことが多い。でも、ここのお菓子は食べられた。

 帰り際、お料理がおいしかったことを伝え、フムスの真ん中にあったオイルにオレンジエッセンスのような華やかな香りを感じた気がしたけれど、何か加えているの?と聞いてみた。すると、オリーブオイルだけだという。そして、ひよこ豆の味が消えてしまうからレモンも入れ過ぎないようにしている、と。

 そうかぁ、あれはオリーブオイル自体の味だったのかぁ、フルーティーなのを使っているんだなぁと納得していたら、サモサの皮もなにも、お店で出しているものはすべて手作りなんだよ、と厨房(ちゅうぼう)で腕をふるっていたご主人が誇らしげに話してくれた。最後まで誠実な印象のお昼ごはんだった。

Yara
20, boulevard Richard Lenoir 75011 Paris
01 43 55 37 93
12時~14時30分、19時~23時
土曜昼、日曜 休み

[PR]

 

この記事を気に入ったら
「いいね!」しよう

PROFILE

川村明子(かわむら・あきこ) 食ジャーナリスト

写真

東京生まれ。大学卒業後、1998年よりフランス在住。ル・コルドン・ブルー・パリにて製菓・料理課程を修了後、フランスおよびパリの食にまつわる活動を開始。現在は執筆のほか、パリで活躍する日本人シェフのドキュメンタリー番組『お皿にのっていない時間』を手掛けている。著書に『パリのビストロ手帖』『パリのパン屋さん』(新潮社)、『パリ発 サラダでごはん』(ポプラ社)
日々の活動は、Instagram: @mlleakiko、朝ごはんブログ「mes petits-déjeuners」で随時更新中。

室田万央里(むろた・まおり) 料理人

写真

無類の食べ物好きの両親の元、東京に生まれる。
17歳でNYに移り住んだ後、インドネシア、再び東京を経て14年前に渡仏。
モード界で働いた後に“食べてもらう事の喜び”への興味が押さえきれずケータリング業に転身。
イベントでのケータリングの他、料理教室、出張料理等をパリで行う。
野菜中心の家庭料理に妄想気味のアジアンテイストが加わった料理を提供。理想の料理は母の握り飯。未だその味に到達できず。
Instagram @maorimurota

今、あなたにオススメ

Pickup!

Columns