東京ではたらく

<19>北中亜未さん(28歳)/臓器移植コーディネーター

  • 文 小林百合子 写真 野川かさね
  • 2018年1月25日

  

職業:臓器移植コーディネーター
勤務地:港区
勤続:2年目
勤務時間:9時~17時30分
休日:土日祝
この仕事の面白いところ:たくさんの人と関われるところ
この仕事の大変なところ:ひとたび臓器提供が始まると、いつ帰れるかわかりません……

    ◇

 臓器移植コーディネーターについてご存じの方は少ないかもしれません。じつは私もこの仕事に就くまで、こんな職業があることすら知りませんでした。

 臓器移植コーディネーターというのは、死後に臓器を提供する方から移植を希望する方へ、臓器を適切かつスムーズに移植するためのあっせんや手続きを行う仕事です。コーディネーターには2種類あって、臓器を提供してくださる方とそのご家族の側に立つ「ドナーコーディネーター」と、反対に臓器移植を待つ患者さんのケアを担当する「レシピエントコーディネーター」に分かれます。

 私が勤務している日本臓器移植ネットワークは日本で唯一、臓器のあっせん業務を行う機関。私を含め、すべてのコーディネーターはドナーコーディネーターです。

「臓器のあっせん」と聞くと、なんだか怖いイメージがあるかもしれませんが、けっしてドナーやそのご家族に臓器提供を強要するようなことはありません。

 私たちの仕事は、あくまでも臓器提供の意思を示されているドナーやそのご家族のケアをし、適切に臓器提供を行えるようサポートをすることです。

事故や病気で意識がなくても、運転免許証や健康保険証や意思表示カードなどの書面で意思表示していれば臓器提供の意思を伝えられる。「する、しないだけでなく、脳死のとき、心臓停止後のみなど細かく指定できるので、ぜひ意思表示をしてください」

 死後に行う臓器提供には2つのパターンがあって、ひとつは脳死後に行う提供です。この場合は心臓、肺、肝臓、腎臓、膵臓、小腸、眼球の提供が可能。もうひとつは心臓が停止した死後の提供で、その場合は腎臓、膵臓、眼球の提供ができます。

 いずれの場合も、臓器提供について、コーディネーターの話を希望している家族がいれば、主治医から連絡を受けて、患者さんの容体から移植可能と判断した場合は病院へ伺います。そこでご家族への説明を行い、提供の意思が固い場合は承諾書を作成し、患者さんの情報を収集したり、手術室の調整などを行います。

 ドナーが入院している病院には数名のコーディネーターが伺いますが、本部で対応をするコーディネーターもいます。移植を受ける側の患者さんを選定したり、ドナーの血液検査の手配など。多くのコーディネーターが連携して対応をしています。

 なかにはドナーが臓器提供の意思表示をしていても、最後の最後にご家族が躊躇(ちゅうちょ)されることもあります。あるいはご家族の中の誰かが反対されるということも。そんなときは、「一度家へ帰って、家族でゆっくり考えてみてください」とお伝えしています。

臓器提供の現場に携わるのは月に数回程度で、ふだんは事務所で患者情報のアップデートなどのデスクワーク。「ドラマチックな仕事というイメージで入ってくると、ギャップに驚くかもしれません」

 私たちがご説明に伺うときは、ご家族はみなさん疲れきってヘトヘトの状態。でもあとになって「やっぱり提供すればよかった」逆に「しなければよかった」と思ってしまうのは、ご家族にとっても辛いことです。

 私たちはその意思決定を支援することしかできませんが、ご質問があればできる限りお答えしますし、あとはご家族の気持ちが固まるまで、そっと見守るということを大切にしています。

 実際、さまざまな提供の現場を見てきて思うのは、家族が100組あればそのあり方は100通りあるということ。お別れの場面でも、泣き崩れるご家族もいらっしゃれば、笑顔で見送られるご家族もいます。

 そんな姿を見ていると、そのご家族が今まで築いてきた長い歴史みたいなものを感じずにいられません。それはそのご家族だけのものであって、私がその中に入ることはできません。だからせめて私はその決断を支えられる存在になろう。それが自分のやるべきことだと思って、いつも現場に立ち会っています。

臓器を運ぶためのクーラーボックス。コーディネーターが移植病院まで運ぶこともある。「持つときは必ず両手で抱えるように。新人の頃、『人だと思って扱いなさい』と教えられました」

 臓器の摘出手術の前、お別れのときはやっぱり泣いてしまいますね。私、涙もろくて。臓器の摘出手術が終わってご自宅に帰られるときもお見送りするのですが、そこで涙が出てしまうこともあります。

 そんなときは、無事に提供の希望をかなえられてよかった、それが自分の仕事なんだからと気持ちを律しています。どんなに経験豊富な先輩でも泣かれる方はいますね。泣いて怒られることはありません。やっぱりそこは人と人ですから。

 仕事をする上で大変なことですか? もちろん人の生死に関わることですから精神面でこたえる部分もありますが、一番は体力面ですね。たとえば今こうしてお話ししている最中でも、病院から提供を希望している家族がいると連絡が入れば飛び出していかないといけないので。

 とくに心停止後のご提供の場合、心臓が止まってから準備をしたのでは、臓器の状態が悪くなり、移植につなげることができないんです。だから提供の承諾をいただいた場合は、心臓が停止する前、血圧がだんだん下がってきたタイミングで準備に入ります。

 ご提供に至るタイミングがいつかはわかりませんので、数日病院に泊まり込むことも。コーディネーターはみんな、デスクにお泊まりセットを常備しています。場合によっては睡眠時間が全然ないということもあるので、まず体力がないと続けられない仕事なんです。

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PROFILE

小林百合子(こばやし・ゆりこ)編集者

写真

1980年兵庫県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、アラスカ大学フェアバンクス校で野生動物学を学ぶ。出版社勤務を経てフリーランスに。山岳・自然をテーマに雑誌や書籍の編集を手がける。2010年に女性向け登山雑誌『Hutte』(山と溪谷社)を立ち上げ、独自の視点で登山や自然の楽しみ方を提案した。著書に『山と山小屋』(野川かさねと共著、平凡社)、『山登りのいろはーたのしい登山のヒント集』『一生ものの、山道具』(ともにホシガラス山岳会著、パイ・インターナショナル)など。

野川かさね(のがわ・かさね) 写真家

写真

1977年生まれ。神奈川県出身。雑誌、書籍で活動するかたわら、ライフワークとして山を撮り続ける写真家。著書に『山と写真』(実業之日本社)、『山と山小屋』(小林百合子と共著、平凡社)、『山登りのいろはーたのしい登山のヒント集』『一生ものの、山道具』(ともにホシガラス山岳会著、パイ・インターナショナル)など。

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