このパンがすごい!

カフェ職人の舌と経験とセンスが生む口福な食べ物/カフェクラフツマンベース

  • 文・写真 池田浩明
  • 2018年1月30日

■カフェクラフツマンベース(千葉)

 午後3時すぎの焼きあがり時刻に、カントリーブレッドと遭遇したのは幸運だった。ひとかかえもある大きな丸いパンから、ぎらぎらと放たれるオーラに我慢がならず、ベンチに座るのも忘れかぶりついた。

 ばりばりぼりぼり! 厚い皮が木っ端みじんになると、頭蓋骨(ずがいこつ)に轟音(ごうおん)が響き、体中を快感が駆けた。ボーリングのストライクですべてのピンがなぎ倒されるあの爽快さ。パンの皮は、人間に備わった破壊欲求を満たしてくれるということを私は知った。

 皮の風味は焦がしバター、てっぺんはヘーゼルナッツのようだ。反対に、中身はぷにゅんと夢のようにやわらかく、愛撫(あいぶ)するかのように舌にくっつく。きんとした酸味が逆照射して心地よい甘みが浮かび上がる。放たれる熟成の香り。舌から喉(のど)へ、滑り落ちる液体の通り道にいつまでも小麦の甘さが光っている。

骨付き錦爽鶏と季節の野菜のレモンクリーム煮込みと自家製パン盛り合わせ

 店名は「カフェ職人の基地」。近くにある人気店マザームーンカフェ美浜に自家製パンを供給するために生まれた。シェフの白井智巳さんはイタリアンの料理人。マザームーンカフェで長く料理を作っていたが、パンは仕入れたものを使用していた。そんなとき目にした、サンフランシスコの名店「タルティーンベーカリー」のチャド・ロバートソンによる『Tartine Bread』(邦訳『タルティーン・ブレッド』クロニクルブックス・ジャパン刊)の表紙。カントリーブレッドのかっこよさに目を奪われ、自分で作ってみたくなった。使えるのは調理場のガス台下のオーブン。朝から晩までカフェで料理を作り、それが終われば朝までパンを作る日々。

 「なんにもわからない。毎日失敗でした。ルヴァン種も、偶然できた。できないと思って放ってたら、あくる日ぶくぶくしていた(笑)」

 失敗を重ね、1年後ようやく完成。おいしい自家製パンは評判を呼び、ベーカリー「カフェクラフツマンベース」の開店につながった。

 白井さんは、国産小麦各品種に対する特徴を驚くほど明晰(めいせき)につかんでいる。

 「粉自体を食べて、味のイメージを把握します。甘さ、香り、グルテン。僕はなんでも食べてみるほう。料理のときも、必ず素材を食べてからはじめますし。それと同じです」

国産小麦のバゲット

 かりかりのクープはアーモンド、皮全体はバターのような甘さで、ミネラリーな塩気によって本当のバターのようにオイリーにとろける。中身はごはんのような豊かな味わいがあって、豊かな甘さを飲み込んだあと、でんぷんの戻り香まである。北海道産はるきらりをはじめとする、さまざまな風味が時間ごとに飛びだしてくる。

 イタリア料理人の経験とセンスは総菜パンで活(い)きる。安納芋と五郎島金時のタルティーヌは、さつまいもを使って、スイーツではなく、総菜系にもっていくおもしろい試み。意外なことに、チーズの塩気がいもの甘さを官能的に引き立てるのだ。安納芋、金時芋とあえて二種類を同居させ、甘さのちがいをプレゼンテーション。

ローズヒップとクランベリー、マカダミアナッツのパン

 ローズヒップとクランベリー、マカダミアナッツのパンは、甘めのライ麦パン。ローズヒップというとすっぱいイメージがあったが、いっしょに混ぜ合わせるものの組み合わせによって、見事に昇華されていた。フローラルな香りはそのままに、クランベリーからジューシーな甘さを、ホワイトチョコからミルキーな甘さを。そして、マカダミアナッツのかりかり感。甘さと酸味がバランスよく構築された味わいは、バラの香りを持つ空想のフルーツのようだった。

 オーストラリアのバンコーヒーを使用する、コーヒーカウンターを併設。冷蔵ケースにはイタリアン総菜やケーキのような生菓子まで。これなら、朝も昼も晩も、日常も特別な日も満たされる。カフェ職人の引き出しからはなんと幸福な食べ物がいろいろ出てくることだろう。

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■カフェクラフツマンベース
千葉県千葉市美浜区真砂3-4-4
043-215-7557
11:00~19:00
火・水曜休(月、木はサンドイッチとお菓子)
http://cafe-craftsman-base.jp

■マザームーンカフェ美浜
千葉市美浜区新港117 ティンバーヤード
043-204-3566
11:30~22:00(フードL.O.21:00 ドリンクL.O.21:30)
水曜休
https://www.facebook.com/mmc.mihama

>>「このパンがすごい!」でご紹介した店舗マップはこちら

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PROFILE

池田浩明(いけだ・ひろあき)ライター

池田浩明

佐賀県出身。ライター、パンの研究所「パンラボ」主宰
日本中のパンを食べまくり、パンについて書きまくるブレッドギーク(パンおたく)。編著書に『パン欲』(世界文化社)、『サッカロマイセスセレビシエ』『パンの雑誌』『食パンをもっとおいしくする99の魔法』(ガイドワークス)、『人生で一度は食べたいサンドイッチ』(PHP研究所)など。国産小麦のおいしさを伝える「新麦コレクション」でも活動中。最新刊は『パンラボ&comics 漫画で巡るパンとテロワールな世界』(ガイドワークス)

BOOK

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写真

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