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<82>見たことがない本に会える 小さな出版社と読者をつなぐ広場

  • 文 吉川明子 写真 山本倫子
  • 2018年1月25日

 埼玉県のJR蕨(わらび)駅から徒歩約5分のところにある「アンテナブックス&カフェ しばしば舎」。最寄り駅の名前は“蕨”だが、住所が芝新町なので、店の名前は“しば”。

 本棚には新刊書籍が約500冊並んでいるが、よく見ると、一冊一冊が個性的というか、強い自己主張を放っているというか、一般的な新刊書店ではあまり見かけないような本が多いことに気づく。

「ここにあるのはすべてトランスビュー扱いの本なんです」

 川口市で出版社「ぶなのもり」を営み、同店を立ち上げた小倉美保さん(51)がそう教えてくれた。トランスビューとは、小さな出版社と書店との直接取引を代行している出版社の名前。同店では、トランスビューが取次代行する約50社の出版物を全て揃(そろ)えている。

 出版社が作った本が書店に流通するには2つのルートがある。ひとつは取次を通して全国の書店に送る方法。新刊書店にある大半の本はこの「委託配本」方式にのっとって流通されている。取次を通せば配本、返品、集金などを代行してもらえるので出版社にとって利便性が高く、書店は自ら発注しなくてもさまざまな本や雑誌が自動的に配本され、売れない本はいつでも返品できるというメリットがある。

 もうひとつは出版社が書店と直接取引する「注文出荷」方式だ。出版社は書店の注文に応じて本を送る。取次が代行してくれる作業を出版社自身が行うので手間はかかるが、書店側の発注に合わせて出荷するため返本率が低く、取次を通さない分、出版社のロスは少なくなり、書店の粗利は大きくなる。

 トランスビューは、書店との直接取引の流れを独自に構築。数年前には他の出版社にも門戸を広げて取次代行業を始めた。在日外国人や海外文化、まちづくりなどに関する本を出してきた小倉さんの出版社も2013年に参加。その後も、1人ないしは少人数による出版社が続々と加わり、今では約50の出版社がトランスビュー取引に参画している。どこも規模は小さいものの、やる気に満ち、個性的な本を作っているという。

「うちの出版社は本を出すペースがものすごく遅くて商品アイテム数では貢献しづらいので、せめて売る方でトランスビューに協力できないかと考えました。そこで、500冊を全部並べた本屋を作ることを思いついたんです」

 印刷業を営む知人が事務所として使っていた場所を活用。デザイナー夫婦も加わって、店作りを自分たち4人で手がけ、昨年5月にオープンした。

「トランスビュー扱いの本が全部揃っているのがウリなので、選書は全くしていません。必ず2冊は仕入れ、個人的に『売れそう』『売りたい』と思ったものだけ多めに仕入れるようにしています」

 小倉さん自身、刊行点数が少なくても本を作り続けているのには理由がある。さまざまな人に会って話を聞けば聞くほど、「紙にして残しておかなきゃ」という気持ちに駆られるからだ。本という形にすれば、誰かの手元にずっと残していける。しかし、本の流通や書店がなくなってしまえば、人の手に渡ることもなくなってしまう。

「本を売ろうと思って作っているけど、売り上げだけじゃないものを作っているという気持ちもあります。この店が、こうした本をより広げる拠点になればいいと思っているんです」

 一般書店やネット書店が扱う本が全てではない。この店は、志ある小さな出版社の本と繋(つな)がれる、青々とした芝生広場のような存在なのかもしれない。

■おすすめの3冊

『私のエッジから観ている風景 ―日本籍で、在日コリアンで―』(著/金村詩恩)
おばあちゃん子で育った25歳の日本籍在日コリアン3世の立場から見える日常を綴(つづ)ったブログを大幅に加筆修正し、書籍化したもの。「これは昨年12月にうちから出版した本なのですが、かねてから在日外国人の本を出したいと思っていた時に、このブログを知りました。著者が長い道のりを連日自転車で店に通ってきてくれてここで打ち合わせをしたり、加筆修正してもらったりしたので、店があったことでできた一冊だと思っています」

『まっ直ぐに本を売る―ラディカルな出版「直取引」の方法』(著/石橋毅史)
しばしば舎が扱う、トランスビューの本の売り方を詳細に解説。小さな出版社を立ち上げようとしている人や、新刊書店を開きたい人、書店流通や販売の現状に課題を感じている人などに向けた一冊。「お客さんに『このお店の本はどういった品揃えなんですか?』と聞かれた時、この本を勧めています(笑)」

『あるデルスィムの物語 クルド文学短編集』(編/ムラトハン ムンガン、訳/磯部加代子)
1937年トルコ、デルスィムで起きたクルド人虐殺をテーマに、10人のトルコ人作家が描いた、人々の記憶と葛藤をめぐる物語。「トランスビュー以外の本も扱っていて、これは蕨市の出版社が出したものです。実は川口市はクルド人が多く住んでいて、彼らの歴史を垣間見ることができます。また、自由に表現できない状況にある中で、物語に隠喩が含まれており、それを読み解く文学的な面白さもあるんです。いま店でこの本の読書会をしていますが、毎回、とても盛り上がっています」

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    ◇

しばしば舎
埼玉県川口市芝新町8ー13
http://shibashibasha.com/
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