パリの外国ごはん

あまりに刺激的な鶏鍋。四川料理「Saveur du Si Chuan」

  • 文・写真 川村明子 イラスト 室田万央里
  • 2018年2月6日

 パリ在住のフードライター・川村明子さんと、料理人の室田万央里さんが、いま気になるパリの外国レストランを訪問する連載「パリの外国ごはん」。食への飽くなき興味のもと、二人して調べまくり、質問しまくり、味見しまくり……。今回は、衝撃の四川の鶏鍋です。

  

  

  

 この冬すでに何度か展開している、寒いし辛いものか汁ものを食べてあったまりたいね! シリーズ。今回は四川料理店に行くことにした。

 地下鉄7番線のLe Peltier駅からほど近く、ラ・ファイエット通りからフォーブール・モンマルトル通りに入ったところに、夕食どきになるといつも行列ができているお店がある。四川の鍋料理屋さんで、並んでいるのは中国系の人ばかりだ。通るたびに「あ、また並んでる」と思ってはいつか来てみたい、と思っていた。

 万央里ちゃんと待ち合わせをしてランチに行ってみると、お昼は並ばないで入れるようだ。ほぼ満席の店内では、カウンターの周りに立って待っている人たちがいて、テイクアウトもできるお店だということがわかった。

  

 早速メニューを開くと、1ページ目に鶏鍋の説明がある。「特製ソースと深鍋で、鶏肉の味わいを閉じ込める完璧な火入れ。美味」らしい。スペシャリテとしては、カニ、エビ、トリッパ、豚スペアリブも具として書かれているのだけれど、ロゴマークに赤いトサカのついた鶏のイラストが使われているくらいだから、鶏肉がイチ押しなのだろう。

 空芯菜の炒めものも頼もうとしていた私たちだが、周りのテーブルを見回して、とても食べきれるような量のお鍋ではないことを察した。それでお鍋一本で行くことにする。ただ、入れる具はメインとなるもの以外、四つを選ぶようになっていて、白菜、春雨、豆もやし、キクラゲをチョイス。

 隣のテーブルに座る男性はひとりで、私たちと同じお鍋を注文していた。オプションは、春雨と湯葉、白菜、油揚げ。すごいなぁ、あんなに大きなお鍋をひとりで……。それくらいおいしいのかもしれない、と期待が高まった。

 私たちのテーブルにもカセットコンロが置かれ、お鍋も運ばれてきて、そのボリュームを目の当たりにしながら写真を撮っていると、万央里ちゃんが「だよね。」とつぶやいた。と、私の横を女性が通り抜け、隣の男性の向かいに座ったのだった。さすがにこのボリュームをひとりで食べには来ないよね。

  

 運ばれてきたお鍋の深さは13~14cmもあるだろうか。カセットコンロに置くと、それこそ20cmくらいの高さになって、さらにそこに山盛り入れられた具は、腰がひけてしまうほどのボリュームに思えた。上には、こんもりパクチーが盛られている。

 ぶっきらぼうで、迫力さえ感じる店員のお姉さんが意外にもしっかり目を配っていて、コンロの火加減を都度、調節しに来てくれた。トップページに「完璧な火入れ」と書くだけのことはありますね。

 私たちは、日本のお鍋のように、少しずつ様子を見て野菜類を加えていた。が、ふと隣のテーブルを見ると、例のお姉さんが野菜の盛られたお皿ごと、お鍋に突っ込むように、ぐわーっと全部入れている。思わず「すごい、一気に加えてる」と目を離せないまま言うと、「あー、でもそれが正解かも。じゃないと煮詰まっちゃう。一気に入れて火を通して、火を止めた方が良いかも」と万央里ちゃんは得心したようだ。確かに、それほどにぐつぐつしている。それでお姉さん方式に倣い、一気に加えた。おかげでお鍋は、またもボリュームいっぱい。

  

 底の方にはレンコンとジャガイモも入っていた。スープは少しカレーの味がする。中国山椒(さんしょう)も相当に効いている。おかげで、鼻水も汗も出てくる。あまりに暑くなり、万央里ちゃんはタンクトップ1枚になった。でも、そんな万央里ちゃんの奥に見える中国人女性は、ダウンを着たままお鍋を食べている。その並びにいる男性も、コートを着たまま。この相当にスパイシーなお鍋も、もしかすると、四川出身の人たちにはスパイシーでもなんでもなく、汗なんて出てこないのかもしれない。だって、みんな平然と食べている。こっちは汗を拭きふき、たまに鼻をかんで大変だというのに。だけど、これを望んでいたのだ。この汗の吹き出る感じと、少し舌がまひするほどに辛い魅惑のお鍋。

 刺激的な味に、止まることなく食べ続けているのに、どれだけ食べても減らない気のするお鍋がそれでも半分くらいになった頃、ぴたっとお箸が止まってしまった。もう、食べられない。

  

 おなかがいっぱい、なのはそうなのだろうけれど、それよりも何かでブロックされてしまったような気がした。万央里ちゃんも「無理」と言って、残りは彼女が持ち帰ることにした。

 「お会計はレジへ」と言われ、カウンターの奥へ向かって原因に思い当たる。厨房(ちゅうぼう)との通し口から流れてくるにおいは、スナック菓子の食べ終わりに袋の片隅にたまった粉末調味料と同じものだった。保存料や添加物を含め、そういったものが全くダメなわけではない。ただ、一定量を超すと体が反応してしまうのだ、いつからか。あのお鍋のボリューム……私の中の許容量を超えたっていうことなのだろうなぁ。興奮しながら食べていたのに。参ったなぁ。

  

Saveur du Si Chuan
52, rue du Faubourg Montmartre 75009
09 84 08 28 29
12時~14時30分、18時30分~22時30分
月曜休み

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PROFILE

川村明子(かわむら・あきこ) 食ジャーナリスト

写真

東京生まれ。大学卒業後、1998年よりフランス在住。ル・コルドン・ブルー・パリにて製菓・料理課程を修了後、フランスおよびパリの食にまつわる活動を開始。現在は執筆のほか、パリで活躍する日本人シェフのドキュメンタリー番組『お皿にのっていない時間』を手掛けている。著書に『パリのビストロ手帖』『パリのパン屋さん』(新潮社)、『パリ発 サラダでごはん』(ポプラ社)
日々の活動は、Instagram: @mlleakiko、朝ごはんブログ「mes petits-déjeuners」で随時更新中。

室田万央里(むろた・まおり) 料理人

写真

無類の食べ物好きの両親の元、東京に生まれる。
17歳でNYに移り住んだ後、インドネシア、再び東京を経て14年前に渡仏。
モード界で働いた後に“食べてもらう事の喜び”への興味が押さえきれずケータリング業に転身。
イベントでのケータリングの他、料理教室、出張料理等をパリで行う。
野菜中心の家庭料理に妄想気味のアジアンテイストが加わった料理を提供。理想の料理は母の握り飯。未だその味に到達できず。
Instagram @maorimurota

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