このパンがすごい!

全国の小麦を駆使して生み出す、驚きのふんわりやさしい甘さ/オーディナリー

  • 文・写真 池田浩明
  • 2018年2月13日

■オーディナリー(茨城)

 つくばエクスプレス沿線の茨城県守谷。普段は素通りしそうなこの街に、見逃せない一軒がある。

 舌をくるむ、とろける羽根布団。「オーディナリー」は、あまりのソフトタッチで、私を骨抜きにした。直焼きのパンなので、一見硬そうに見える。ところが、やわらかい中身が舌に触れた瞬間、ぷにゅりとエロティックな感触がしたかと思うと、じゅるり半液体と化す。お米のようなでんぷん質のフレーバーがわーっと広がり、小麦の甘さはだんだん強く、最後には極まって、クランベリーかと錯覚するほどのフルーティーさを放った。

ブロートヒェン。手前はひまわりの種。奥はかぼちゃの種

 「作ってみたらすごくおいしかったので店の名前をつけました」

 渡辺昭太シェフの言葉に大きくうなずく。オーディナリーは、「いつもの」という意味。毎日食卓にいてほしくなるこの食事パンの名前にうってつけだ。きっかけは、近くのフレンチレストランに、料理に添えるパンを頼まれたこと。食パンの生地を丸めてそのまま焼いてみたところ、驚異的にふんわりやさしい甘さのパンが爆誕した。

 北海道産キタノカオリ、ゆめちからの甘さを湯種で引きだす。レーズン種、ホップ種とダブルの発酵種で計23時間もかけて発酵。水分は95%(通常約70%)も入って、しっとり感に貢献。その上で、長時間のミキシングをやりきって(ミキサーにもひっかかりにくいほど生地がやわらかいために)、グルテン(パンの構造のもとになるたんぱく質)のネットワークを作りだす。独特のぷにゅぷにゅ感はそうしてできあがる。

 同じ生地を型に入れて焼いた食パン「トーストブロート」は、まるでゼリーかういろう。歯でかみ切るとき生地が「ぷりん」と震える。とろければ、わずかに入れられたはちみつも相まって、北海道産小麦の甘さが爆発する。

日本中の小麦粉を駆使する

 小さなまん丸パン「ブロートヒェン」。店頭に並んだかわいいたたずまいは、森の小人たちをイメージさせるほど。このパンも食パンと同系の生地で、油脂分を加えていないタイプ。とろろでも舌に触れたかのようなふんにゃり感、とろけ、みずみずしさ。サンドイッチのパンとして最上だ。大きさが手頃で、歯切れがよくて、小麦の甘さがはさむ具材の調味料になる。かぼちゃの種付きのものは、チーズとすばらしい相性を発揮するだろう。

 渡辺さんは、熱のこもった口調でパン作りについて語りつづけた。弱冠32歳。日本全国の小麦を駆使、パンという深い森の奥まで分け入ろうと、日々新しい製法の探索を行う。そうした真摯(しんし)な姿勢と同居しているのは、スイートなロマンティシズム。

ブレッツェルショコラーデ

 取材の日に並んでいたのは、バレンタイン用のパン。「ブレッツェルショコラーデ」は、ドイツのブレッツェルにココア、ホワイトチョコレート、クランベリーを混ぜ込んだもの。伝統的なあの形はかわいいハートに見える! あるいは、大型の直焼きパンに、チョコやさまざまなドライフルーツ、ナッツを入れて、切り売りする「ショコラフリュイ」。マッシュポテトを生地に混ぜることで、舌の上でふにゃりとろける食感を実現している。こんなものを好きな人からもらったら、心までとろけてしまうではないか!

 店名の前に「ブレッド&ベーグル」と冠がつく。若き日に訪れたシカゴでベーグルショップに出会ったことが、パン職人の道を歩ませた。常時、数種類のベーグルを置いているのはそのためだ。

ベーグル トマト・バジル・オリーヴ・クリームチーズ

 「ベーグル トマト・バジル・オリーヴ・クリームチーズ」。噛(か)み切って、トンネルが現れた瞬間、黒オリーブ、グリーンオリーブ、ドライトマトの香りがわっと飛びだした。いかにもベーグルらしい、むっちりむっちりと強情な食感。それが、彼のパンらしい口溶けよさゆえに、むっちりを繰り返すたびにどんどん軽さを増す。とろけ出す麦ジュースがクリームチーズのミルキーさとまじわるとき、アメリカのベーグルがオーバーラップする。

 地元の自然栽培農家、鈴木さんの小麦「ゆめかおり」を使用。甘く、スモーキーな余韻が残るすばらしい粉だった。地域の循環や環境にも目を向ける取り組みも、渡辺さんの真摯さの表れだ。

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■オーディナリー
茨城県守谷市百合ヶ丘2-2767-1
0297-38-7838
11:00~13:00、15:00~19:00(日曜は11:00~19:00。売り切れ次第終了)
月・火曜休
https://splight-of-the-wor.wixsite.com/ordinary

>>「このパンがすごい!」でご紹介した店舗マップはこちら

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PROFILE

池田浩明(いけだ・ひろあき)ライター

池田浩明

佐賀県出身。ライター、パンの研究所「パンラボ」主宰
日本中のパンを食べまくり、パンについて書きまくるブレッドギーク(パンおたく)。編著書に『パン欲』(世界文化社)、『サッカロマイセスセレビシエ』『パンの雑誌』『食パンをもっとおいしくする99の魔法』(ガイドワークス)、『人生で一度は食べたいサンドイッチ』(PHP研究所)など。国産小麦のおいしさを伝える「新麦コレクション」でも活動中。最新刊は『パンラボ&comics 漫画で巡るパンとテロワールな世界』(ガイドワークス)

BOOK

『日本全国 このパンがすごい!』(発行・朝日新聞出版) 池田浩明 著

写真

連載をまとめた「日本全国このパンがすごい!」(朝日新聞出版)が待望の書籍化!北海道から沖縄まで全国の「すごいパン屋!」を紹介。ディレクターズカットを断行、エッセンスを凝縮し、パンへの思いもより熱々で味わっていただけます。
税込1,296円

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