上間常正 @モード

飾ることの意味をいま問い直す「装飾は流転する」展

  • 上間常正
  • 2018年2月9日

ヴィム・デルヴォワ《リモワ・クラシックフライト・マルチウィール 971.73.00.4》2015年 ©Studio Wim Delvoye Wim Delvoye Rimowa Classic Flight Multiwheel 971.73.00.4, 2015 ©Studio Wim Delvoye, Belgium

 去年あたりから、女性の装いに装飾的な傾向が目に付くようになった。その前には「ノームコア(究極の普通)」などと言われたシンプルなスタイルが続いたことへの反動とも評されそうだが、根はもっと深そうだ。他のアートの分野などでも若手作家を中心に装飾を見直そうとする動きが出ているようだ。

 東京・目黒の東京都庭園美術館で開かれている「装飾は流転する 『今』と向き合う7つの方法」展では、国内外の7組のアーティストが「装飾」を問い直し、その現代的な意味を読み解こうとした作品が展示されている。やり方はさまざまだが、どの作品からも眩暈(めまい)に似た感覚を受ける。それが今という時代の闇の深さとかかわっているようにも思える。

 会場に入ってすぐの作品は、ベルギーの作家ヴィム・デルヴォワのオブジェ。スーツケースやダンプカーの形だが、素材はステンレスやアルミニウムで、表面には精巧なゴシック模様が施されている。本来は物を効率的に運ぶ道具としてデザインされたものが、それには全くそぐわない素材と装飾によってイメージが裏切られ、スーツケースやダンプカーの道具としての意味あいが揺らぐ。

 しかし一方で、この作品はこうした素材でしかできないような小型の精緻(せいち)な模様の美しさや楽しさをも生み出していて、見ていると何か新しいイメージへの想像も誘う。そして機能的で便利な素材でしかなかったステンレスやアルミニウムが、物としてもつ独自な存在感を主張している気もする。

髙田安規子・政子《切り札》(部分)2011年 個人蔵 Photo: 長塚秀人 Akiko & Masako Takada Trump Card 2011 Private collection Photo: Hideto Nagatsuka

 続いて高田安規子・政子の双子姉妹の作品では、日頃、見慣れたトランプや合成樹脂の吸盤、軽石など、大きさのスケールを変えることで全く違う物にしてしまうインスタレーション。トランプは絨毯(じゅうたん)に、吸盤は切り子のグラスに、軽石は古代遺跡に……。縮尺が装飾となって楽しい揺らぎを生む。

山縣良和《writtenafterwards - flowers II》2017年AWコレクション Photo: Kenshu Shintsubo Yoshikazu Yamagata, writtenafterwards - flowers II, 2017AW, photo: Kenshu Shintsubo

 ファッションデザイナーの山縣良和は、衣服を身につけること自体が装飾であるとして、そこに人が社会や風土とかかわるダイナミックな関係を奇想天外なインスタレーションの形で表現している。アメリカのオバマ前大統領が広島で原爆死没者慰霊碑に捧げた花輪のコートドレス、日本古代の神々と現代の人形やパンダがカオスのように入り混じる「七服神」の熊手コスチューム、また地球を取り巻く環境問題や民族対立など差し迫った危機への思いを込めた巨大な「地球ルック」も。

 山縣にとってファッションとは、人と服と社会・環境のかかわりが織りなす物語を表現することなのだろう。装飾は物語のための契機でもあり、語るための手段でもあるのだ。

コア・ポア《王様の馬と家来の全部がかかっても》2013年 Kour Pour All The King's Horses, And All The king's Men 2013, private collection

 イギリス出身のコア・ポアは、イラン人の父親の営むペルシャ絨毯(じゅうたん)店の記憶をもとに、そこには登場しないはずのエジプトの神々やアフリカの仮面、浮世絵などのモチーフを盛り込んだアクリル画を描いた。その見事な調和ぶりと現代的な生々しさの対比を生み出すのも装飾の力なのだろう。

アラヤー・ラートチャムルーンスック《タイ・メドレーⅡ》 2002年 ビデオ 作家蔵 Araya Rasdjarmrearnsook Thai Medley II, 2002

 死体安置所に横たわる身元不明の遺体に向かって、物語を読み聞かせる女性。タイのアラヤー・ラートチャムルーンスックは、自身が扮したその写真映像の連作「タイ・メドレー」で、生と死者の不思議な交錯を表現した。死者に掛けられた布と女性の服を飾る鮮やかな花柄が、死と生の奥深い連続を暗示しているようだ。

 装飾といえば、ともすれば何か余分なもの、形の本質が大事でなるべく少ない方がいいと思われてきた。特に近代以後は機能性や合理性が重視されて、素材が独自にもつ存在感やそこに施された装飾の意味などには関心がほとんど向けられなくなっている。今回の展示作から共通して強く感じたのは、それぞれの素材がもつ「もの」としての存在感だった。

 現代の造形やデザインは、それを支える「もの」から離れて形だけが漂ったり記号として消費されたりしている。しかし経済成長の行き詰まりの不安な状態の中で、みんながそのことに本格的に気づきはじめたのではないか? 装飾への注目はそのことを示しているのではないだろうか。

 ではどうすればよいのか? ということは大問題なのだが、たとえば一人の人間が今までより装飾的な装いをしてみる、という小さな出来事もその出発点になるのだと思う。

→展覧会詳細はこちら
会場:東京都庭園美術館(本館・新館)
会期:2017年11月18日(土)―2018年2月25日(日)
装飾は流転する 「今」と向きあう7つの方法

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PROFILE

上間常正(うえま・つねまさ)

写真

1972年、東京大学文学部社会学科卒業後、朝日新聞社入社。88年からは学芸部(現・文化部)でファッションを主に担当し、海外のコレクションなどを取材。07年から文化学園大学・大学院特任教授としてメディア論、表象文化論などを講義。ジャーナリストとしての活動も続けている。

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