明日のわたしに還る

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INTERVIEW

佐久間裕美子さん「ニューヨークで、自分と折り合いをつけるということ」

  • ライター
  • Yumiko Sakuma
  • 2018.3.19

 ニューヨークを拠点に発信を続けている、佐久間裕美子さん。米イェール大学大学院を修了後、「自分の居場所」を探して、ニューヨークに上京して就職、アメリカ生活は20年を超えた。2014年にはアメリカで次々と生まれる新しいライフスタイルの裏側に迫った著書『ヒップな生活革命』を刊行し、話題になった。そして17年、ニューヨークで自分らしく生きている女性たちを描いたエッセイ『ピンヒールははかない』で、自分や周囲の人間関係、シングルとして暮らす気持ちを、細かく書いている。

インタビュー 宇佐美里圭/ 写真 前田直子

 リーマン・ショック以降、ニューヨークでは、がらりとムードが変わった。チェーンストアではない個人経営のコーヒーショップ、「買うな」という企業広告、地元で作ったものにこだわる店……。その現象をまとめたのが『ヒップな生活革命』。いま、続編を書いている。なぜ人は、ブランドのバッグに何十万も払うのか、いま自分が着ているものの素材はどこからきたのか、土に還るというエコバッグは本当に土に還るのか……。

 「消費者としての自分というのか、自分がお金を払っているものにもう少し責任を持ちたい、自分がそれを手に入れるために出ている犠牲について、考えたいと思うようになりました。できるだけ生産者とかお店から直接買って、仲介サイトは使わないとか。かといってモノは好きだし、原理主義的にはなりたくないんですけど」

 今でこそ気になるテーマを自由に追い、縦横無尽に活躍している佐久間さんだが、若い頃からずっと「自分の居場所はここではない」という違和感を抱えていたという。

 特に小中高時代、都内の女子校に通っていた佐久間さんは、学校がとにかく苦痛でしょうがなかった。

 「親に『女の子だから』と言われたことはありませんが、学校は理由のわからないルールがたくさんあった。みんなと同じようにできることが良しとされた。なにもかもが自分に合いませんでした」

 心のよりどころは、音楽や本。中学生の頃は一人で音楽のZINE(小冊子)を作ったり、夜中、家族が寝静まってから、深夜番組を見たり、音楽を聴いたり、本を読んだり……。「“政治的な子ども”で、マーティン・ルーサー・キングのスピーチを暗記したりも」。当然、学校では寝てばかりで、問題児扱い。するとさらに学校が嫌に……悪循環の繰り返しだった。

 「居心地の悪さ」は大学に入っても続いた。現役で慶応義塾大学の政治学科に入学したものの、必須の授業にもサークルにも興味が持てず、すぐに大学に行くのがばからしくなってしまった。授業にはほとんど出ていなかったので、成績も軒並みBとC。1年もたたずに「辞めようかな……」と思いつめていた。

どうやったらアメリカに行けるか? ばかり考えてた

 変わるきっかけになったのが、2年の時に出かけた「スタンフォード大学短期留学」だ。たまたま新学期に大学でフライヤーを見つけ、迷わず応募した。これが想像以上に面白かった。語学のクラス以外に、「ホームレスのシェルターで働く」「レズビアン協会に行って話を聞く」「米軍のオフィサーに質問する」など、体験したことがないようなプログラムがたくさんあったのだ。
 この短期留学で、佐久間さんの世界がぐっと広がった。帰国後は「どうやったら再びアメリカに行けるか?」ばかりを考えるようになった。

 3年生でアメリカ政治史の久保文明教授のゼミに入り、イェール大の大学院に進学。修了後は、一度住んでみたかったニューヨークで就職。……と、華やかな経歴に見えるのだが、ここでもずっと、自分は世の中で何ができるのか、まったくイメージがわかなかった。「これが面白い」「あれが面白い」と、興味関心は多方面にあったが、全部バラバラでつながらない。

 「音楽も、ファッションも、好みは偏っていたし、自分には専門性がなかった。『これがやりたい』というのがあまりないまま、どうやって生きていくのか私、と思いながらきちゃった。でも、やりたくないものだけはわかるんです。だから、消去法で少しずつ前へ進んできたという感じですね」

 短い社会人時代に、ひとつ大きな教訓があった。日系企業から現地の中小企業を経て、報道機関で働いていたころ、アメリカ人の上司に、「ここではポジションだろうと、仕事だろうと、ほしいものがあれば、ほしいと意思表示しないかぎり、あちらからやってくるということはない」と、アドバイスされたのだ。
 それからは、社内で希望者限定のスキルアップのクラスを取ったり、やらなければならない業務の合間に、ホームレスなど興味があるテーマを「書かせてください」と取材したりと、“やりたいこと”にはすぐに飛びつくことを覚えた。

 やがて男性誌でファッションやカルチャーについて書くように。日本のメディアからの依頼で著名人にインタビューする機会も増え、自分が得意なのはインタビューだと自覚するようにもなった。するとだんだん欲も出てくる。昔読んだ本のあの著者に話を聞きたい、あの人に会ってみたい……思いつくままに企画書を出し、取材して書く……を繰り返した。そんな風に働きながら、だんだんと自分の好きなもの、得意なものが見えてきた。

 「何よりニューヨークが、人と同じことをやっていたら成功できないという土壌だから、変わり者万歳、みたいなところがある。日本にいると、皆と同じようにできなくて怒られたり呼び出されたりしていたのが悩みだった自分には、そこがよかったのかもしれません。その分、埋もれないための努力はしました。何か目にとまるような服装とか、インタビューでは相手をうならせる質問をしようとか。そうするうちに、自分の居場所が何となくあった、ということなのかな」

 気づけば全速力で走り続けてきた30代。しかし、40代に入ると、突然それまでのように走れなくなってしまった。

「ある朝、ベッドから起き上がれなくなっちゃったことがありました。忙しすぎて、疲れていることさえ気づかなかった……。『燃え尽き症候群』だったのでしょう。やはり40歳を過ぎたら精神も肉体もメンテナンスが命。自分をいたわり、心身に相談しながらやっていくことがとっても大事だなと思うようになりましたね」

 

 著書『ピンヒールははかない』の中では、日本と同じように仕事、結婚、出産などで悩むニューヨークの女性たちの様子を書いている。積極的に見えても、社会や文化は違っても、悩みは共通。好きな人と一緒にいたい、お金の苦労、結婚するのか子どもを持つのか……そんなに違わない気もする。違うのは、個人主義だから、人のことには構わない、結婚も出産も、こうすべきというジャッジを押しつけられないこと。

 そんな自立したニューヨーク女性たちを描いている本の中で、逆に印象に残る章があった。「インセキュアな自分へ」。ニューヨークの女性たちの、インセキュアな(=自分に自信がない)気持ちが描かれている。日々、積極的に生きているように見える友人たちが、「自分にはこれがない」「自分のこういうところが好きじゃない」と悩んでいる。さらに大企業トップの女性までが、「自分のことを疑う気持ちが、自分の可能性を狭める要素になった」と書いているのを見たとき、思った。「自分の苦手なところと折り合いをつけ、気持ちよく付き合っていけるようになる、というのは、大人になるうえでの大きな課題なのだ」と。

 「本でも書いたんですけど、よくcomfortable in your own skinという言い回しをするんです。自分の肌の下で心地よくいられる、つまり、自分という存在に過剰に不安になったり、過剰に自信を持ったりすることなく、等身大でいられるということが、大事なんだと思います」

 笑顔を浮かべながら、佐久間さんはそう言った。スカッと風通しのよい雰囲気とともに、優しさが言葉の端々に漂っているのは、「他人をジャッジしない」「自分に正直に生きる」という生き方をしてきたからだろう。思えば、「他人と自分を比較することがあまりなかった」という。

 「私の母が美しい人だったんですよ。だから最初から、自分が勝負するところはそこではないと。むしろ男の子と張り合っていたから、きれいな女の子を見てうらやましいと思わなくてすんだ(笑)」

 以前、ミランダ・カーにインタビューしたとき、彼女が「自分は変な顔だと思っていた」と言うのを聞いてはっとした。モデルや女優でも劣等感があるんだな、と。「世界には自分よりきれいな人は絶対にいるもの。だから他人と比較してもキリがありません。だったら、自分の持っているものを磨くのが、一番プロダクティブ(生産的、建設的)ですよね」

 人生は短いから、なるべく好きなことをやって楽しみたい。そんな気持ちが佐久間さんのベースにある。ありのままの自分を、ひとを受け入れる、そして自分のいいところを伸ばす努力をする……。そんな姿勢が、今の佐久間さんを作り上げている。

PROFILE

佐久間 裕美子ニューヨーク在住ライター

佐久間裕美子

1996年に渡米し、98年からニューヨーク在住。出版社、通信社などを経て2003年に独立。政治家(アル・ゴア元副大統領、ペーション元スウェーデン首相)、ミュージシャン(坂本龍一、ビースティ・ボーイズ、マーク・ロンソン)、作家(カズオ・イシグロ、ポール・オースター、ゲーリー・スナイダー)、デザイナー(川久保玲、トム・フォード、トム・ブラウン)、アーティスト(草間彌生、ジェフ・クーンズ、杉本博司、ライアン・マッギンレー、エリザベス・ペイトン)など、幅広いジャンルにわたり多数の著名人・クリエーターにインタビューしてきた。著書に『ピンヒールははかない』(幻冬舎)、『ヒップな生活革命』(朝日出版社)、翻訳書に『世界を動かすプレゼン力』(NHK出版)、『テロリストの息子』(朝日出版社)。慶應義塾大学卒業。イェール大学修士号を取得。
https://www.yumikosakuma.com/

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