フーテンみたいな暮らしだった学生時代 俳優・片桐はいりさん[PR]

  • 2018年3月22日

  

 都心に近く自然が豊かな街、東京・武蔵野市吉祥寺。駅からのびる商店街や路地裏にはおしゃれな店が軒を連ねていて、歩くだけでも楽しい。そんな通りから閑静な住宅街に入ったところに、成蹊大学はある。

 俳優の片桐はいりさんは、同大学の卒業生。街を散歩しながら、学生時代の思い出を語っていただいた。

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文学、武蔵野にあこがれて

――思い出の街を久々に訪れて、いかがですか。

 大学のケヤキが、記憶よりも随分大きくなっていて、驚きました。それだけ時間が経ったんですね。当時は、成蹊大学に入って、女子校から共学になり、初めて社会に出たっていう感じ。私は大田区大森から通っていたので、いつも終電で帰りそびれてしまっては泊まり歩く、フーテンみたいな暮らしをしてました。今はあんまりそういうのはないのかな。その時代そんな感じだったんですよ、みんな。フーテンっていうのがちょうどいい感じ。その日知り合った人のうちに泊まりに行くみたいな。飲んでて、帰れなくなっちゃって、泊めてもらえますか、って。飲んでたお店の控室みたいなところで寝かせてもらったり。そんな日々だったので、恥ずかしいんですよ、今くると。ここで男の子と殴り合いしたな、とか、ここでゴミ箱蹴っ飛ばして大騒ぎしたな、とか。そういう青春みたいなことって、恥ずかしかったりするでしょう。

――もともと、成蹊大学を選んだ理由というのは?

 太宰治が好きで、中学生や高校生のときに、三鷹の禅林寺とか、井の頭公園、玉川上水に来てたことがあって。なんとなくこういうところで文学を語ってみたいなって。成蹊はけやき並木もあって、「文学!武蔵野!」みたいなイメージで。それだけでした。ほんとばかな話で申し訳ないんですけど(笑)。

 演劇部の先輩が経済学部で、「文学は勉強するものじゃない」と言って、おもしろい演劇やライブに連れていってくれました。むしろ他の学部の人たちと文学の話をしてたっていう感じでしたね。

駅からほど近い「吉祥寺オデヲン」

――大学の演劇部と劇団での活動もしながら、銀座文化(現・シネスイッチ銀座)という映画館でもぎりのアルバイトをする学生時代だったと伺いました。

 だから井の頭線と銀座線で吉祥寺と銀座を移動するような流れでしたね。映画を観るとなると銀座、有楽町が多かったんですが、吉祥寺のバウスシアターにもよく行きました。バウスシアターは、そこでしか観られない特殊な映画をたくさんやっている映画館で、仲のよかった先輩が勤めていたんです。

 あと、中道通りにウニタ書店っていう強烈な古書店がありました。そこでお友達がアルバイトしていたので、ウニタ書店、バウスシアターというのが私のなかの吉祥寺。用がないときは大学の帰りにウニタに行って先輩としゃべって、バウスシアターにいるっていうときはバウスシアターに寄ってしゃべって、で、おもしろそうな映画やってたら入れてもらって。

甘いもの食べて帰ろうと言われるのが怖くて(笑)

吉祥寺駅から大学までの道のりは「中道通り」を通っていたという片桐さん

――中道通りといえば、テレビや雑誌の吉祥寺特集などでも取り上げられる人気スポットです。個性的で楽しいお店が集まっていますが、街並みは当時とは変わりましたか?

 今でこそおしゃれなお店がいっぱいありますけど、昔はこんなに、住宅街の奥の奥のほうまでおしゃれってことはなかったですよ。

 成蹊大学に通ってる方はわかると思うんですけど、みんな好きな行き方っていうのがあると思うんですよね。3通りくらい行き方があって。五日市街道から行く人はほぼいなくて、中道通りや大正通りから住宅街を抜けていったと思います。最近は北欧通りと呼ばれているんでしたっけ?

 私は中道通り派でした。ウニタ書店とか、中道通りの脇を入ったカレー屋さんの「まめ蔵」あたりのところは、なにかちょっと、“ここはおもしろい人たちがいっぱいいるぞ”っていう気配が濃厚な場所でしたね。古いコアなレコード屋さんとか、不思議なお店がありました。

カレー屋「まめ蔵」

「まめ蔵は好きなスポットの一つでした」

――吉祥寺グルメ、喫茶店や、飲食店の思い出は?

 「はと時計」とか「レモンドロップ」とか、ケーキ屋さんもあったんですけど、そういうものを食べるお金の余裕がなかったですね。女子に「甘いものでも食べて帰りましょう」って言われるのが怖かった(笑)。350円あったらラーメン1杯食べられるので、ケーキは無理、って。

 「コンパ」ってその頃は言ってましたけど、飲み会に誘われてもあんまりお酒が飲めなかったので、それだったら映画観たいし。だから実は、吉祥寺にはあんまり飲食の思い出はないんです。

 それより、名前は忘れてしまいましたが、ライブハウスとかにいっぱい行ったと思いますね。そういう場所にはフォークの人や詩人みたいな人とか、いろんな方がいました。「この人は有名な人なんだよ」って紹介されたりしましたが、でも、それが誰だったのかも今はもう思い出せない(笑)。

成蹊大学の本館で

在学中、本館の屋上でけいこをしたという。けやき並木を見下ろしながら「だいぶ成長した気がしますね」

映画を観る時間が、なんであんなにあったんだろう

――映画やカルチャーに時間とお金を費やしていたんですね。映画館を舞台にしたエッセーは、のちにご著書にもまとめられています。

 あの頃、なんであんなに映画を観る時間があったのかわからないです。3本立てとかの映画もばんばん観てたわけで。というか、ふつう映画は2本立てで観るものだと思っていました。

 今は2本立て観る時間をあけるって、結構な労力ですよ。私が年取ったから、っていう問題じゃない気がします。世の中の時間の使い方なのかな。こんなに2本立て観るの大変だったっけ?って思いますもん。だってその頃も学校のテスト勉強もしてるし、劇団も演劇だけしてるわけじゃなくて、チラシ刷って配ったり衣装縫ったり。さらにバイトもしていた。

 あ。わかった。当時は携帯がなかったんです。携帯もパソコンもない。気持ちにすごく余裕がありました。だっていま2本立て観てたら、その間にもばんばん予定が入ってくるわけじゃないですか。いまもこうやって携帯にどんどんメールが入ってくるように。

――全然気持ちの余裕が違う。

 予定がその日に決まるってことがなかった。前の日に何にも連絡がなかったら、その日一日は何にもない。ポケベルとかもなくて、家電しかない。電話すらない下宿に住んでる学生もいっぱいいましたよ。私はほんとにフーテンで、うちに帰らず電話もしないので、父親が学校まで探しに来たりしてました(笑)。でもものすごく余裕があったと思いますよ。3本立て観てたって、その途中で呼び出されることもないし、他に気になることないんですもん。その日はそれだけに使っていい。素晴らしかったですね、昔は。だって、そんなたくさんのことができたんですよ。今できないですもん。

 なんでできないんだろう。常に「なにかあるかもしれない」って思っちゃうからかな。何もないのに。

  

――そんな全然違うスマホ時代を生きる学生や若い人たちに、何か伝えたいことはありますか?

 あの、これまでは、「勉強は、やってるときはわかんないけど、卒業したらやりたくなりますよ」なんて言ってきましたけど、ちょっとよくわからなくなりました(笑)。今の人たちは時間の過ごし方が全く違うんですもんね。生きてる何かが違うその人たちに訴えることが、なにもないと思えてきました。

 私は学生時代、吉祥寺にも銀座にもあちこち行くところがありました。中道通りの店に行かなかったら友達に会えないから、行くし、映画館に行かないことには映画が観られないから、行く。

 喫茶店とか、画廊とか、そこに行ったらおしゃべりできる人がいっぱいいました。寂しいし、退屈だったんですよ。暇だから誰か遊ぶ人を探してあちこちに行く。今はそんなことしなくても、携帯さえ持っていれば家から出なくてもいいわけでしょ。その感覚は私の学生時代にはなかったです。

 でも、私の世代って、ちょっと前向き病みたいなのに取りつかれてるみたいなとこ、あるじゃないですか。それで疲れてぐったりしちゃってる人も多くて。今の若い人ってそうじゃないでしょ。なんか初めからぐったりしてる(笑)。そこからどういうものが生まれてくるかは、楽しみでもありますよね。ゆるんだ体から出てくるもの、ゆるんだところからおもしろいものをやろうって思う人ってきっと出てくるだろうから。

(文・高橋有紀 写真・山田秀隆)

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片桐はいり(かたぎり・はいり)

1963年、東京都生まれ。成蹊大学文学部日本文学科卒業。大学在学中に、演劇部で活動したあと、劇団に入団。『かもめ食堂』『小野寺の弟・小野寺の姉』『勝手にふるえてろ』などの映画、『あまちゃん』『時々迷々』『富士ファミリー』などのテレビドラマ、『あの大鴉、さえも』『お勢登場』などの舞台に出演。著書に『わたしのマトカ』『グアテマラの弟』(いずれも幻冬舎)、『もぎりよ今夜も有難う』(キネマ旬報社)がある。

建築家・坂茂さん設計による成蹊大学情報図書館。近未来的な空間が広がる

  

成蹊桜祭 4月1日(日)開催

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武蔵野市吉祥寺にある成蹊学園では、毎年4月の第1日曜日に、成蹊桜祭を開催しています。120本を超える美しい桜と、大人から子どもまで楽しめる企画が皆さまをお待ちしています。ぜひお越しください。
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