上間常正 @モード

泰明小の新標準服が示す民主主義の一つの可能性

  • 上間常正
  • 2018年3月12日
  • 中央区立泰明小の新「標準服」=泰明小提供

  • 中央区立泰明小の新「標準服」=泰明小提供

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  • 泰明小の新標準服の価格一覧

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 東京・銀座の中央区立泰明小学校の〝ブランド標準服〟が物議を醸している。アルマーニのデザイン監修で価格が約9万円と公立校としては高いため、ほとんど非難集中という状態のようだ。それぞれ理由はもっともなのだが、反対の声だけでは議論が先に進まないだろう。反対か賛成かだけではなくて、その間の選択肢がいくつかあってもいいのでは、と思うからだ。

 新しい標準服は、去年までの4万円ちょっとと比べて約2倍になるという。この差を大きな負担と感じる保護者がいれば、義務教育の公立校として、公平さに欠けることは確かだろう。それがたとえ一律の制服ではないとしても、いまの学校教育の現場では買えない保護者の子が差別やいじめに遭うだろうことも十分に考えられる。

 また、なぜブランドなのかという批判にも理はある。アルマーニという世界の高級ブランドと、首都東京の銀座。泰明小の校長が保護者への文書で「銀座の街のブランドと泰明ブランドが合わさったときに、潜在意識として学校と子供らと、街が一体化するのではないか」と書いたようなことが、ある種の特権意識として反発を招くことも事実だろう。

 今回の問題では、「服育」という言葉も登場している。大阪の学校制服の生地業者が提唱していて、服は言葉の要らないコミュニケーション術で、社会性や国際性を養う教育の一環だとの考え方だ。しかし、そのために高級ブランドであることは必要ないとして、ファッションの側からの批判も起きている。

 こうした批判の一つひとつに真っ向から反論する気はなく、その必要もない。だが批判のそろい踏みで、校長が新標準服を断念する結果になるとしたら、疑問と危機感を覚えることは否定できない。公平さは大事だが、一つや二つの例外があってもいいし、むしろ必要なのではないかと思うからだ。

 自由と平等は民主主義に欠かせない、と多くの人が思っている。しかし今回のような問題で、多数の側が平等という原理的な正しさを主張して少数の側の意見を力で押しつぶしてしまうことは民主的なやり方とはいえない。それでは全体主義につながってしまう結果になりかねないと思う。

 それに批判を覚悟であえて言えば、平等重視はやり方を間違えると平均化、そして全体としての質的低下につながることもある。たとえば全国の公立学校の制服・標準服を機能的なだけの無難なスタイルで統一したり、服装やファッションなどはどうでもいいとの理由でデザインを野放しにしたりすれば、いったいどんな結果になるか考えてみることは必要だろう。

 私立校の制服ではデザイン的にはずっと劣るのに価格はもっと高価なものが多いが、泰明小が特に批判されることも、おかしいと言えばおかしい。そうした意味でも、泰明小学校の今回の方針にはできるだけ耳を傾けて、それを生かすやり方を議論してみてもいいのではないかと思う。新標準服は写真を見るかぎりでは、シンプルでバランスの配慮が行き届いた優れたデザインで着心地もよさそうに見える。

 それに高級ブランド品だとすると、この標準服の価格はむしろ常識外に安いともいえる。今回のことでアルマーニ側は特に言明していないようだが、経験的に言えば、デザイン監修にはジョルジオ・アルマーニ氏のこれまでの日本への思いがきっと関わっているはずなのだ。

 泰明小の校長も、保護者や各界に対して、もっと丁寧に粘り強く説明と理解を促す努力を続けることが必要なのは言うまでもない。児童と保護者には制服を選ぶ権利があって、その選択は表現であり、選択の違いを受け入れること、選択の自由を守ることこそが、民主主義そのものを学ぶことにつながるだろう。標準服を着ない児童への配慮をどれだけ十分にやるかどうかの覚悟も必要だ。それができれば、公立学校という場で多様な児童たちが共に学び合う形を作ることができるのではないか。それこそが本来の平等と民主主義のあり方なのだと思う。

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PROFILE

上間常正(うえま・つねまさ)

写真

1972年、東京大学文学部社会学科卒業後、朝日新聞社入社。88年からは学芸部(現・文化部)でファッションを主に担当し、海外のコレクションなどを取材。07年から文化学園大学・大学院特任教授としてメディア論、表象文化論などを講義。ジャーナリストとしての活動も続けている。

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