TAOさん「コンプレックスをバネに、妄想力で運命を引き寄せる」
- 女優
- タオ
- 2018.4.17

トップモデルとして世界のランウェーを歩き、ハリウッド大作で女優としてデビューしたTAOさん。一見華やかにみえる活躍の裏には、モデルとしての辛い体験や投げかけられた心ない言葉があった。そんな体験が彼女を突き動かし運命の舵(かじ)を切らせている。打ちのめされても、あきらめない。TAOさんを前へ進ませる原動力とは?
取材・文:仁平綾 写真:(C)JHN0918 credit Montingelli SGP
コンプレックスや逆境が、モチベーション
小学生の頃、算数のテスト問題の文章が気に入らず、二重線を引いて訂正したことがある。「これを計算しなさい、って命令口調で書いてあって、すごく嫌だったんです。“してください”に直してからテストを戻しました(笑)」
そう笑って当時を振り返るのは、現在ニューヨークを拠点に女優として活動するタオさん。元来、人に従ったり、頼ったりすることが大嫌い。「黙っていても誰かが自分のために何かしてくれる、っていう発想がないんです」という性格は、どうやら生まれ持ったものらしい。
「中学生の時、当時大好きだった雑誌のモデルになりたくて、近所の駅の公衆電話まで自転車を飛ばしたこともありましたね。『モデル募集してませんか?』って自分で編集部に電話しました」
すでに身長が170cmを超えていた中学生のタオさんは、モデルを志していた。「原宿にいればスカウトされるかもしれないと思って、一人で出かけて行ったり。渋谷の最新プリクラに一人で並んで、写真をモデル事務所に送ったりもしました」
ひらめいたら、即行動。石橋なんてたたいて渡らない。そんな持ち前の行動力が功を奏し、14歳でモデルデビューを果たす。ところが意外にも、その原動力となっていたのは、自身の辛い体験だったという。
「当時は、モーニング娘。やミニモニ。が一世を風靡(ふうび)していた時代。かわいい、イコール、背が小さいことだったんです。背が高かったので、男の子におまえは変わってる、醜いって言われたりして、すごく悲しかった。モデルになれば、みんな自分を見直してくれるんじゃないか、女の子として見てもらえるんじゃないか。そんな切実な思いがありましたね」
コンプレックスや逆境をモチベーションに、前へ進む。それはタオさんの処世術となった。20歳で単身パリへ渡るという、一見華々しい挑戦もまたしかり。「日本でモデルをしていても、日本人のデザイナーからはあまり支持されなかったんです。反対に海外のデザイナーからの仕事ばかり決まる。きっとこのまま日本にいても、自分は売れない。だったらファッションの中心地、パリに行こう。そう思ったんです」
妄想力で、運命を引き寄せる

パリで孤軍奮闘したタオさんは、やがてパリだけではなく、ミラノ、ロンドン、ニューヨークのショーにも出演し注目を集めた。その成功体験を後ろ盾に、今度こそ日本で功名をと帰国するも、現実はそう甘くなかった。モデルをやめる覚悟をし、最後の挑戦として目指した地がニューヨークだ。かつてパリ時代にニューヨークに数週間滞在した際、仕事は舞い込むものの望んでいた内容ではなく、「自分じゃなければ務まらない仕事がしたくて来たのに、こんなことなら帰りたいって言ったんです。そうしたら、“タオ以外にもアジア人のモデルはたくさんいるから、日本に帰っていいよ”ってマネージャーに言われて。私はしょせん、“アジア人A”みたいな存在なんだと思ったらすごく悲しかった」。打ちのめされ、「負けて去った感じだった」というニューヨークへ、トラウマをバネに2年ぶりのリベンジだった。
ニューヨークに移って1カ月、ばっさりカットしたショートヘアがデザイナーの目に留まり、フィリップ・リムのショーでトップバッターに大抜擢(ばってき)された。アジア人初となるラルフローレンの広告モデルも務めた。多忙な日々をニューヨークで過ごすなか、2012年、今度はハリウッドから映画のオーディションの話が舞い込む。女優に興味はなかったが、「主演のヒュー・ジャックマンに会いたいという不純な動機で受けた」というオーディションは見事合格し、初めて経験した「芝居」に開眼する。
「監督から、こういう気持ちを思い出してみて、ってヒントをもらって演じる楽しさ。コラボレーションですよね。思えば学生のとき、吹奏楽部と合唱部に所属していて、みんなで何かを作りあげる作業が好きだった。モデルの仕事でその達成感を感じることは少なかったけれど、チームで数カ月かけ作りあげる映画の仕事を経験して、これだ!というものに巡り合えた感じです。コンプレックスや意地でモデルという仕事にしがみついてきたけれど、お芝居に出会ってようやく解放されました」
アメリカや日本で、女優としてのキャリアをスタートさせたタオさん。自身を大きく成長させた糧のひとつに、「海外に出ること。いろんな国の、いろんな環境で過ごしてきた人と接すること」があると話す。
「ヨーロッパでもアジアでも、自分とは生活感が違う場所を旅するだけで、いろんな発見があったし、自分はなんてちっぽけなことで悩んでいたんだろうって思えた。他人や異国のカルチャーを理解しようと努めることで、自分の扉も開くと思うんです。もし不安になったり、迷ったりしている人がいたら、時間や金銭的に可能な限り、外国に行ってインスパイアされるのがいいと思います」
そしてもうひとつ、これまでの自身の歩みに大きく貢献しているのが、「未来の自分をイメージする想像力」だという。
「どういう自分になりたいか、想像するんです。それは例えば、近くに魅力的な人がいたら、あの人とロマンティックなことが起こるかも、なんていう遊びみたいな想像力でいい。例えば私が今ここで映画監督とすれ違って、すごく気に入られて、大きな映画のオファーが決まって、そうしたらアカデミー賞候補になって……とかね(笑)。そんな幼稚な、子どもみたいな妄想でいいんです。イメージすることによって、なんとなく運命の舵(かじ)がそっちのほうへ向くんじゃないか。そんなふうに思うんです」
運命を引き寄せるのは、自分。タオさんは今、女優としての新しい未来へ舵を向けるべく、希望いっぱいに妄想している。

MNT_5767 credit_Montingelli_SGP
- アメリカの大ヒットドラマ『Westworld』、邦画『ラプラスの魔女』に出演
-
西部劇の世界を再現したテーマパークで、人工知能を持つアンドロイドが覚醒し、人類に戦いを挑む…。アメリカの人気SFテレビドラマシリーズ『Westworld(ウエストワールド)』(日本ではスターチャンネルが独占放送)、待望のシーズン2に出演。一方邦画では、東野圭吾のベストセラーを鬼才・三池崇史が映画化した話題作『ラプラスの魔女』に出演。5月4日から公開。
『ウエストワールド』
『ラプラスの魔女』公式サイト
- TAO女優
-
1985年生まれ、千葉県出身。14歳でモデルデビュー、20歳のときに単身パリへ渡り、パリコレを始め、ミラノ、ロンドン、ニューヨークのランウェイに出演。多数の広告や雑誌に登場しグローバルに活躍。2009年より拠点をニューヨークへ移す。モデルとして活躍した後、2013年には映画『ウルヴァリン: SAMURAI』にヒロイン役で出演、女優としてハリウッドデビューを果たす。2014年連続ドラマ『血の轍』(WOWOW)、2015年映画『クロスロード』、アメリカのテレビドラマ『ハンニバル3』(NBC)、『高い城の男』(Amazon.com)、2016年映画『バットマンVSスーパーマン ジャスティスの誕生』、2018年映画『マンハント』(ジョン・ウー監督、チャン・ハンユー、福山雅治W主演)に出演、現在公開中。Instagram:taookamoto

-
近日、公開予定
清水 ミチコタレント