このパンがすごい!

“餅”の焼き印入り「もち小麦食パン」は“バターの入れ忘れ”で誕生した!?/パネッテリア・ヴィヴォ(VIVO)

  • 文・写真 池田浩明
  • 2018年4月10日

「餅」の焼き印が入った「もち小麦食パン」

■パネッテリア・ヴィヴォ(VIVO):栃木

 小麦ファーストのパン屋「VIVO」が宇都宮で大人気だ。国産小麦の食パンを求めて連日行列ができる。

 「餅」の焼き印が入った「もち小麦食パン」(キタノカオリ使用)。一度食べたら忘れられない。はちみつのような野の香りを含んだ甘さ。鼻腔(びくう)では、日本人が大好きなお米のようなフレーバーを嗅ぐ。耳はかりかり崩れ、中身はさわさわふわふわ。なんともエアリーなもちもちのクッションを感じ、ちぎれるときの感触がまたすばらしい。

キタノカオリを使用

 荒川佳和シェフにはじめて会ったのは、北海道・岩見沢にあるキタノカオリの小麦畑でだった。世界に誇る国宝だと私が思っているキタノカオリを、荒川さんは10数年前のデビュー年からずっと使いつづけている。

 キタノカオリは収穫期の雨に弱い。一雨きただけで発芽、パン用としては使えなくなる年も。生地が溶けてまとまらない。それでも、お客さんの「食べたい」という声に応えて、なんとか食パンにして店に出した。この小麦と苦楽をともにしてきたのだ。

 「最初はもうちょっと普通の食パンでした。たまたまバターを入れ忘れたら、もちもちのものすごい食感になった。バターが入らないほうが小麦の味もよく出ますし。いろんな小麦を試しましたが、あの小麦でしかできないんですよ。水分を保持するので、冷凍してもおいしい。奇跡の麦だと思います」

食べはじめから終わりまでが気持ちいい「はるゆたか食パン」

 「春」の焼き印は「はるゆたか食パン」。ぷにゅりと弾んで、かみ切られるのをほんの少し抵抗する、その中に快楽が宿る。清らかなミルキーさの中に、くぐもったニュアンスがあって味わい深い。発酵の香りがシンプルなので、食べはじめから終わりまでが気持ちいい。

 10数年前、まだパン業界は「国産小麦はパンに向かない」という常識の中にあった。イタリア料理店に勤めていた荒川さんがオーナーシェフの注文に応じて食パンを作りはじめたとき、手にとったのは、キタノカオリやはるゆたか。常識にとらわれず、純粋に小麦のおいしさに注目できたのだろう。

 荒川さんがパン屋になったのは、京都でたまたま食べたクリームパンがきっかけ。

 「こんなにおいしいものがあるんだ。お肉、キャビア、ウニ。おいしいものはお金を出して食べるものだと思っていたのに、100円、200円でそれ以上の感動が得られる。それならパン屋で勝負をかけてみようって」

VIVOの荒川佳和シェフ

 パンの世界に導いてくれたクリームパンがVIVOの繁盛を支えている。食パンの中にクリームが入った「ミニ食クリームパン」の人気が大爆発しているのだ。

 店頭で食べる焼きたてがすごい。もっちりふんわりの食パンの中から湯気もろとも、どろりあつあつのクリームが飛びだす。バニラの風味、牛乳の芳醇(ほうじゅん)さ。と同時に、小麦もとろけてでんぷんの風味がクリームと合流、舌に食い込むケミストリーを引き起こす。

「食パン×クリーム」が大人気

 「食パンを作ったとき少し生地が余ったので、中にクリームを入れてパウンドケーキ型で焼いてみたら、ちっちゃくてかわいいとお客さんにウケたのがきっかけです」

 こちらは国産ではなく、外国産の細かい粒子の小麦粉を使用。クリームとシンクロする抜群のとろけにつながっている。

 具材は自家製。おいしい素材を惜しみなく使う。カスタードは、那須御用卵、店のすぐ近くにある針谷乳業の朝できたての牛乳から作られる。「三元豚食パンサンド」は、その名の通り三元豚を使用。まるでとんかつ屋のようなダイナミックな厚さのカツを、キタノカオリのふわふわもっちりで包み込む。

 「うにのパングラタン」には、パン屋では珍しいことに、本当のウニが入っていた! たっぷりのベシャメルソースに、ウニの香りが湧き立って、ウニのクリームパスタさながら。

ウニ入りのリッチなパン「うにのパングラタン」

 連日の大盛況に、荒川シェフは「ぜんぶ運です」と謙虚に笑うけれど、おいしさへのまっすぐな気持ちが支持されているにちがいない。

>>続きはこちら

■パネッテリア・ヴィヴォ(VIVO)
栃木県宇都宮市戸祭元町12-7
028-624-1182
9:00~18:00
日曜休
https://www.facebook.com/pa.vivo/

■ジェラテリア ヴィヴォ
栃木県宇都宮市下戸祭2-1-11
028-612-2676
11:00~19:00
不定休

>>「このパンがすごい!」でご紹介した店舗マップはこちら

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PROFILE

池田浩明(いけだ・ひろあき)ライター

池田浩明

佐賀県出身。ライター、パンの研究所「パンラボ」主宰
日本中のパンを食べまくり、パンについて書きまくるブレッドギーク(パンおたく)。編著書に『パン欲』(世界文化社)、『サッカロマイセスセレビシエ』『パンの雑誌』『食パンをもっとおいしくする99の魔法』(ガイドワークス)、『人生で一度は食べたいサンドイッチ』(PHP研究所)など。国産小麦のおいしさを伝える「新麦コレクション」でも活動中。最新刊は『パンラボ&comics 漫画で巡るパンとテロワールな世界』(ガイドワークス)

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