香港のアートシーンが、いま面白い ~森美術館館長 南條史生さん[PR]

  • 2018年4月26日

  

 アジア最大級のアートフェア「アート・バーゼル香港」をはじめ様々なイベントが開かれ、毎年3月を「アートマンス」と称する香港。街中がアートの気分にあふれる中、香取慎吾さんが中環(セントラル)周辺のオールド・タウン・セントラルで描いたストリートアート作品も話題を呼んだ。

 香港は最先端のアートを擁し、今、街全体が大きく変化を遂げている。アジアのアートシーンに早くから注目し、数多くのキュレーションを手がけてきた森美術館館長の南條史生さんが語る、香港のアートシーンの魅力、楽しみ方、そして、未来とは?

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経済が発展すると、現代アートが注目される

――アジアにおけるアートシーンの潮流は? その中で香港はどんな存在感があるのですか?

 アジアの特に現代アートが注目されるきっかけは1980年、日本から始まりました。90年代は韓国、2000年代になると中国がフォーカスされ、その後インド、インドネシアと移っていった。いずれも、その国の経済が発展すると現代アートも注目されるという動きがあると見ています。ビエンナーレやトリエンナーレと呼ばれる大規模なアートイベントがきっかけになることが多いように思います。

 アートイベントにはもう一つの大きな流れがあります。それが「アートフェア」。ビエンナーレやトリエンナーレが作品を展示するのみで、セールスとは一線を画し、作品や作家の信頼性を担保するのに対し、アートフェアは「作品を売る場」。マーケットです。今やアジアにおけるアートフェアとして最大級の地位を確立しているのが、香港。ここ5年ほど、他の追随を許さない一人勝ち状態と言っていいでしょう。

 そもそも香港は商業都市として発展してきたわけですから、「らしい」と言えばらしいですね。とにかく香港のアートフェアは作品が売れる。売れるから世界中から注目の作品、いい作品が集まり、それを目的にコレクターも集まり、さらに盛り上がる……。そういう好循環が香港のアートフェアでは起こっているのです。

  

今年の「アート・バーゼル香港」

――香港では毎年3月、「香港アートマンス」と銘打ったイベントが大々的に繰り広げられます。中でもアジア最大級のアートフェア「アート・バーゼル香港」には、今お話にあったように世界中から多くのギャラリー、コレクターが集まります。今年の傾向、印象に残ったことは?

 若手のギャラリストの中で実験的な試みが見受けられました。アートフェア初出展のギャラリーが参加する「ディスカバリー」というセクションがあり、そこは売り物を並べるのではなく、一つの空間をインスタレーションで見せるのですが、新しい作家の息吹が感じ取れました。

 あとは、木の棒や日用品などどこにでもあるような日常的な素材を使って作品を作る傾向が強く感じ取れた。現代アートでは世界的に見られる潮流ですが、特にアジアではそれが強いように見受けられました。

アート・バーゼル香港2018 Photo:(c)Art Basel

美術館とは違う、アートフェアの楽しみ方

――アートフェアの魅力は? どのように楽しめば良いでしょうか?

 ピカソがありダミアン・ハーストがあり……と、有名な作家や話題の作家の、ものによっては何億円という作品が、手が届くほどの距離にあちこちに並んでいる。展覧会のようにお行儀よく見なくてもいいんです。そして、買うことだってできる。売れた作品はもう並べる必要がないので、3日後にもう一度行ったら同じギャラリーのブースが全く別の作品展示になっている、なんてことも当たり前。そうした極めてヴィヴィッドな、生きた美術の現場を体感できる。それがアートフェアならでは魅力、楽しみ方だと思います。

 専門家的な視点から言うと、日本の作家がそうした中でどう見えるかも気になるところです。香港のアートフェアという、ある意味弱肉強食のバトルの現場に置かれたときに、どのぐらい強く見えるのか。外国人から見たらどのぐらい魅力的に映るのか。そういう意味では、普通の展覧会とは違うことが色々と感じられる場でもあるのです。

 数あるアートフェアの中でも、アート・バーゼル香港は美術関係者やアート好きにとって特別な場で、毎年大きな注目を集めています。次の開催時期が決まると、すぐに手帳に書き込みスケジュールを確保するほどです。

――日本人の作品で注目を集めたのは?

 大巻伸嗣さんの白い布を使った作品が会場の広場に展示されましたが、それはすごくきれいだった。以前、森美術館で開催された「シンプルなかたち展」で展示したもので、非常に静かな作品だから静かな環境で見るべきだと思っていたのですが、あれだけたくさんの人でごった返している中でも際立っていた。作品の周辺を取り巻いている文脈や環境が変わると、作品の見え方も変わる。それが顕著に感じられました。今回のアートフェアをきっかけに、大巻さんの評価はますます上がるのでは、と見ています。

大巻伸嗣「The Liminal Air Space-Time」 (2018)
Photo:(c)Art Basel

――アートフェアの盛り上がりは、アートシーンにどのような影響を与えるのでしょうか?

 アートフェアが栄えると若手のギャラリーや若手の作家がどんどん出てきて、そうした状況が続くと、街の中で小さな展覧会が行われるなど見るものが充実してくる。もちろん、アートフェアには世界中から評論家やキュレーターが集まってくる。アートフェア自体は商業的なイベントですが、ありとあらゆる人を引き寄せる吸引力があるのです。するとそこで交流が生まれ、議論が生じる。アートの価値というのは議論から生まれます。議論の中で、作品や作家の価値が決まっていくわけです。そういう強さを香港のアートシーンはすでに持ち始めていると思います。

 残念ながら日本のアートフェアは、香港に比べると小規模です。美術館に行く人は多いのですが、欧米の富裕層のようにアートを買う人が少ない。いい買い手がいることでアートフェアが盛り上がり、どんどんいい作品が集まって、その国のアートが発展し成熟していく。それは香港の例から見ても間違いありません。今回のアートバーゼルでは日本のIT業界などの若い投資家を案内しました。これからの若いコレクターを育て、アートフェアを活発にすることで、日本のアートシーンももっとおもしろくしていければ、と期待しています。

オープンを控える、二つの大規模な美術館

――今回、南條さんがキュレーターを務めたパブリックアート「Harbour Arts Sculpture Park」も話題になりました。

 アートマンスに合わせ、香港島のビクトリア・ハーバー沿いに広がるオープンスペースに、世界中のギャラリーから持ち込まれた20点近い彫刻作品を、2カ月の期間限定で展示しました。日本からは草間彌生さんの「南瓜」を出展。こうした取り組みは香港では初めてです。一般の人にもアートを見せていく手段として新しい試みでした。

草間彌生「南瓜」

 実は、香港は二つの大規模な美術館のオープンを控えています。一つは、香港の中心部にある旧警察署をリノベーションし、現代建築と融合させた複合文化施設「大館(タイクゥン)」。さらに2019年には、アジア最大規模となる「M+」がウェスト・カオルーン地区に誕生します。美術館に加えオペラ劇場なども設けられ文化地区となる予定です。

かつて警察署だった歴史的建造物が、この夏、総合文化施設「大館(タイクゥン)」として生まれ変わる

アジア最大級の美術館「M+」が2019年に開館予定(写真のパビリオンはすでにオープン)。建築を手がけるのは、ヘルツォーク&ド・ムーロン

 香港は、文化を核にした大々的な都市開発を進めているのです。そうした動きを受け、オルタナティブやインディペンデントなスペースなどが増え、ローカルなアートも広まりつつあります。また、ニューヨークやパリ、ロンドンの一流ギャラリーが支店を出すなど、イベント期間以外でも世界の優れたアート作品に触れる機会や場が増えてきています。

 これまではアートフェアを中心としたコマーシャルビジネスが中心だった香港ですが、パブリックアートのような試みや複合文化施設、巨大美術館などが続々と誕生することでアカデミックな側面もどんどん強くなり、バランスが取れてくる。ここ2、3年で、香港のアートシーンは世界的にも大きなインパクトを与える存在になるだろうと見ています。

――グルメやショッピングもいいけれど、最先端のアートに触れるため香港へ――。そんな旅もステキです。

 百聞は一見にしかず。街全体がアートを核に大きく刺激的に変革しようとしている香港の今を、現地で体感してみてはいかがでしょうか?

文・中津海麻子 写真・馬場磨貴(南條さん)

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南條史生(なんじょう・ふみお)

1949年、東京都生まれ。慶応義塾大学経済学部、同大学文学部哲学科美学美術史学専攻卒業。78~86年国際交流基金勤務。86年から90年ICAナゴヤディレクター。90~2002年ナンジョウアンドアソシエイツ主宰。02~06年森美術館副館長を経て、06年より現職。著書に『アートを生きる』(角川書店)、『疾走するアジア―現代アートの今を見る』(美術年鑑社)など。

香取慎吾さんが香港で手がけたストリートアートについての記事は、こちら

アートに満ちた街、香港

campus image

国際的にレベルの高いアートイベント、世界各国の舞台芸術プログラム、地元のコミュニティーによるユニークなアートなど様々な芸術が集結する、毎年3月の「香港アートマンス」。今年は国際アートフェア「アートバーゼル香港」に、32の国と地域から248のギャラリーが参加しました。話題の美術館も今後続々オープン。アートの発信地として、香港から目が離せません。

詳しくは、香港政府観光局ホームページ

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