パリの外国ごはん

ハーブとライムたっぷり! イランの仔羊煮込み「Cheminée」

  • 文・写真 川村明子 イラスト 室田万央里
  • 2018年4月17日

  

  

  

 3月28日は私の渡仏記念日で、今年は丸20年を迎える大いなる節目だった。それで、ちょうどその週に「ごはん食べに行かない?」と万央里ちゃんから連絡があったタイミングで、「おねだりがあります」と私は切り出した。渡仏20年を迎えるにあたり「お祝い外国ごはん選んで~」。丸投げで委ねた私に、「わかりました。持ち帰って相談します」と答えた彼女が数日後に提案してくれたのは、イラン料理だ。

 やりとりをした後に、万央里ちゃんはイラン人のお友達とそのお母さん、お姉さんとともに、イランのお正月料理を作る会に参加して、もうイラン料理の虜になってしまったようだ。イラン食材店とイラン料理のレストランが並ぶ通りが15区にあると教えてもらったから、そこに行かない? ということだった。

 イラン料理とは私にも未知の世界。自分からはなかなか行く機会がないだろうし、喜んでその案に乗る。

アントルプルヌール通りは “プチ・テヘラン”

 待ち合わせは、メトロ10番線のシャルル・ミッシェル駅。そこから伸びるアントルプルヌール通りは、実はイラン街で、“プチ・テヘラン”と呼ばれており、食材はここへ買いに行く! とお友達から聞いたそう。ただ、何軒かあるレストランはどこがおいしいかわからない。なぜなら家のごはんがいちばんおいしいから、とのこと。

 なので、まずは食材店をのぞいて、お買い物をしながらおいしそうなところに入ろう、と歩き始める。食材店は2軒隣り合わせで並んでおり、その周りにレストランが3軒。メニューを入念に見比べた結果、いちばん内装が素朴なところに決めた。

 はっきりした色彩のランチョンマットとオリエンタルな印象の手作り感あるクッションが置かれた席についていち早く、万央里ちゃんが店内の奥にお正月飾りがあるのを見つけた。イランでは春分の日がお正月なのだという。

お正月の飾り

 メニューには全く聞いたことのない料理名がたくさん。へ~~、と材料を頭に浮かべ味をイメージしてみるも姿形は知る由もない。

 温かい前菜のひとつに、ナスのプチ・レ風味というものがあった。プチ・レとは乳清(ホエー)のことで、フランスの市場には出回っていない。だからプチ・レを使ったお料理にはとても惹かれた。

 その下に書かれたソラマメとディル入りのガレットもおいしそうだね、と前菜にとることにして、メインを考える。1ページにわたるグリル料理のあと、“ソース料理”と書かれた項目のところを2人でじっくり読みこんだ。一つは、万央里ちゃんが正月料理教室で食べたという仔羊のハーブ煮込みにすることにして、あともう一品。

 すでに仔羊を選んでいるから、鶏の何かにしようか、と選択肢をまず二つまで絞った。どちらもお米を合わせた料理なのだけれど、うち一つは、サフランライスの中で鶏モモ肉を蒸し煮した、とある。察するに、身をほぐして、というよりモモ肉が骨付きのまま丸ごと入っているのではないか。対してもう一方は、ピラフのようだ。「この、お米の中で蒸し煮って見てみたいね」「うん、気になるね」と満場一致(って2人ですが)で、サフランライス鶏モモ肉の蒸し煮に決定。

 パンが、このお皿はパリでは見つからないな、と思うレトロかわいい小皿に乗って出てきた。続いてお料理も登場。きっとおいしいと思わせる地味な色味で好感度大。まずガレットを食べると、ぎしっとした。この食感がハーブの多さを語っている。口に広がったのは、バターでも卵でもなく、まさにハーブの味だ。

前菜

 そしてナス。焼いて粗く潰した感じで、油っ気が全然ない。プチ・レの効果かさらさらしていて、あったら全部食べてしまいそうだったから、食べて!と万央里ちゃんの方へお皿を押しやった。いずれも野菜の味が濃くて、油分が少なく、食べやすい。オリーブオイルがたっぷりのお料理かなと想像していたから、意外だ。

炊き込みご飯

 メインも楽しみにしていると、運ばれてきたのはこれまた予想をうれしくも裏切るもの。パラパラっとした印象のお米は黄色と白がまだらで、間に赤い実が混ざっている。中に埋もれているのだろう鶏を探す。やはり真ん中に丸々と鎮座していた。サフランは全体に均等に混ぜないのだそうだ。万央里ちゃんが前述のレッスンで習ったと教えてくれた。

 この赤い実、帰ってから辞書を引いたら「目木」とあった。茎を煎じて洗眼薬に利用されていたことに由来する和名のほかに、とげがあることから“コトリトマラズ”という別名もあるらしい(by ウィキペディア)。その名前とは裏腹に、甘くてときどき酸っぱくて、レーズンよりもきりっとしていて、お米にとてもよく合った。全体的にプラムの戻し汁のような味がしたのは、この目木のエキスだろうか。

仔羊の煮込み

 くたくたに煮込まれた感のある仔羊のお料理もまた、脂っ気がなさそうだった。ひと口含んで、あれ? と止まった。すごくよく知ってる味なんだけど? この味、私、何度も作ってるよ? あれれ? もう15年も前に出た雑誌に掲載されていたレシピで、ともかくものすごい量のハーブ(コリアンダー、イタリアンパセリ、シブレット)を使い、ライムをたっぷり絞る仔羊の煮込み。爽やかでくたっとしてお肉も柔らかくて、まさにこの味だった。「これ、ベイクドサフランライスと一緒に載ってて、ミントを添えるの。あれ、イランの味だったのかも!」

 興奮して、万央里ちゃんに伝える。大好きな味で、もっとも繰り返し作っているレシピのひとつなのだ。鶏肉でアレンジバージョンまで作っているくらい。自分がこれまでにイラン料理を食べたことがあるなんて自覚はかけらもなくて、でももしかしたら食べていただけじゃなく作っていただなんて! 一気に親しみが湧いた。だって私、この味本当によく食べている。

お茶

 デザートには、気になっていた「イラン風シュークリーム」を注文する。サービスの女性に、どうしてイラン風なのか聞いてみたのだけれど、返ってきた答えは普通のシュークリームで、食べてみてもやっぱりふつうのシュークリームだった。謎が解けないまま、サフランをまとったお砂糖の添えられたミントティーで、私にとっては大いにサプライズだった「お祝い外国ごはん」を終えた。

 家に帰って件の雑誌を見ると、そのページには“イラン”の文字がありました。ご興味のある方はインスタグラムをご覧ください。

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Cheminée
60bis, rue des Entrepreneurs 75015 Paris
09 53 67 94 73
11時30分~23時30分
月曜昼は予約があった場合のみオープン
無休

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PROFILE

川村明子(かわむら・あきこ) 食ジャーナリスト

写真

東京生まれ。大学卒業後、1998年よりフランス在住。ル・コルドン・ブルー・パリにて製菓・料理課程を修了後、フランスおよびパリの食にまつわる活動を開始。現在は執筆のほか、パリで活躍する日本人シェフのドキュメンタリー番組『お皿にのっていない時間』を手掛けている。著書に『パリのビストロ手帖』『パリのパン屋さん』(新潮社)、『パリ発 サラダでごはん』(ポプラ社)
日々の活動は、Instagram: @mlleakiko、朝ごはんブログ「mes petits-déjeuners」で随時更新中。

室田万央里(むろた・まおり) 料理人

写真

無類の食べ物好きの両親の元、東京に生まれる。
17歳でNYに移り住んだ後、インドネシア、再び東京を経て14年前に渡仏。
モード界で働いた後に“食べてもらう事の喜び”への興味が押さえきれずケータリング業に転身。
イベントでのケータリングの他、料理教室、出張料理等をパリで行う。
野菜中心の家庭料理に妄想気味のアジアンテイストが加わった料理を提供。理想の料理は母の握り飯。未だその味に到達できず。
Instagram @maorimurota

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