川島蓉子のひとむすび

<40>おしゃれの“前菜”、「ANTIPAST」のレッグウェア(前編)

  • 文・川島蓉子 写真・鈴木愛子
  • 2018年4月25日

あでやかな色柄に魅了されてしまうソックスの数々

 春になると、タイツにかわってソックスがワードローブに仲間入りします。素足に長めのソックスをはくと軽やかな気分になり、テンポアップして歩ける気がします。

 そんな時に欠かせないのが、「ANTIPAST(アンティパスト)」という名のレッグウェアブランドです。精緻(せいち)な小花柄が編み上げてあるもの、透ける素材に繊細な編み柄が施されているもの、モダンな幾何柄が全面に織り込まれているものなど。ロマンチックなのに大人っぽい、遊び心があるのにエレガント、主張し過ぎないのに確かな存在感があると魅了され、長年にわたって愛用してきました。

 出会ったのは20年ほど前のこと。当初は、ヨーロッパのブランドだと思っていました。が、調べてみると、デザインもモノ作りも日本で行っている立派なメイド・イン・ジャパン。凝ったデザインのレッグウェアブランドとして、日本はもとより、世界の名だたるセレクトショップから、高い評価を得ているのです。レッグウェアを中心に、服やアクセサリー類も展開しています。

チャーミングなキャラクターのジヌシさん(左)とカトウさん(右)

 手がけているのは、カトウキョウコさんとジヌシジュンコさんの2人です。いつお会いしても、モノ作りについて話し出すと止まりません。

 「この絵柄を何とか編み柄で表現できないか、工場の職人さんに相談してやっとできたんです」

 ファッションが大好きで、モノ作りに惜しみない労をかけている様子が、うかがえるのです。しかも、2人の装いを拝見できるのも楽しみのひとつ。相当なキャリアの持ち主なのに、謙虚な姿勢とシックな装いはずっと変わらず――こういう歳の重ね方ができたらと憧れます。

 もともとは、大手の靴下の会社で、企画の仕事をしていたジヌシさんと、外部デザイナーとしてかかわっていたカトウさんが、1980年代の終わりに「おしゃれなレッグウェアを作ろう」ということからスタートしました。

 ソックスの世界でも、機能優先で安価なものが人気を集めていました。今でこそ、おしゃれなソックスブランドはたくさんありますが、当時、ファッションの主役はあくまで服であり、ソックスやストッキング、タイツなどは、どちらかというと後回しにされていたのです。

薄手のソックスに繊細な柄を編み込めたのは、メンズの工場に依頼したから

 2人が始めたのは、ハイゲージ(細かい編み目のもの)で薄手のソックス。今でこそ、薄くておしゃれなソックスはたくさんありますが、当時、ソックスといえば今より厚手のものが一般的。だから、おしゃれにはこうと思っても、足が太く見えたり、エレガントな靴と組み合わせるのが難しかったりと、なかなかうまくいかなかったのです。

 「ある日、紳士用のソックスは、薄くて細かな柄が入っていることに気づき、そこに頼めば私たちが作りたいものができると思いました」。ただ、頼まれた工場も最初は随分と戸惑ったとか。「メンズを手がけていたので、レディースと寸法が違うこと、きれいな色などを使うことに慣れていなかったのです」と懐かしそうに語ってくれました。

 実際「アンティパスト」のソックスを手にとってつぶさに見ると、驚くほど細かい図柄が、編みで表現されています。しかも、服に比べてソックスは、はき心地や丈夫さといった実用性が求められる領域。そこを押さえながら、高度なデザインをかたちにしています。

 紳士ソックスを作っていた工場とがっぷり組んで、一緒に良いモノ作りに挑戦したことが、新しいレッグウェアの世界を創ったのです。

もともと編み柄の裏にわたっていた糸を、機械でカットして、タテガミのようなアクセントに

 1992年、2人はパリで開催されるファッション・アクセサリー(バッグ、靴、ベルト、レッグウェアといったもの)の展示会「プルミエールクラス」に、応募してみることにしました。「自分たちの作っているものが世界でも通用するのか、試しに出してみよう」と考えてのことでした。そして、審査を通過して出展することに。日本から出たブランドは「アンティパスト」だけだったそうです。

 そこでプレスやバイヤーからの反応を得て、半年に1回行われる展示会に定期的に出すことに――欧米をはじめ、日本から出張して買い付けているところも含め、多くのショップのバイヤーとのビジネスが広がっていったのです。

 もちろん、絶妙な色柄のセンスと、精緻なモノ作りの技術が評価されてのことですが、日本から初めての勝負に挑んだという2人の思い切りの良さに頭が下がります。

 「ANTIPAST」とは、メインディッシュはあくまで服であり、前菜としてのレッグウェアを提案していくということと、「ANTI-PAST=前に進む」ということと、二つの意味を掛け合わせているそうです。

 確かにレッグウェアは、ファッションの主役と言えないかもしれません。ただ、今やヘアアクセサリーからソックスや靴までが、おしゃれには欠かせない存在に--私自身、「今日は長めの無地のスカートだから、花柄のソックスに男っぽいローファーを合わせよう」とか、「膝ギリギリのプリーツスカートに、膝上丈のロングソックスとパンプスを合わせよう」とか、思いを巡らせることを、日々楽しんでいます。

 次回は、「アンティパスト」の服作りの様子をお届けします。

■ANTIPAST

[PR]

この記事を気に入ったら
「いいね!」しよう

PROFILE

川島蓉子(かわしま・ようこ)

写真

伊藤忠ファッションシステム株式会社取締役。ifs未来研究所所長。ジャーナリスト。
1961年新潟市生まれ。早稲田大学商学部卒業、文化服装学院マーチャンダイジング科修了。多摩美術大学非常勤講師。日経ビジネスオンラインや読売新聞で連載を持つ。著書に『TSUTAYAの謎』『社長、そのデザインでは売れません!』(日経BP社)、『ビームス戦略』(PHP研究所)、『伊勢丹な人々』(日本経済新聞社)などがある。1年365日、毎朝、午前3時起床で原稿を書く暮らしを20年来続けている。
ifs未来研究所 http://ifs-miraiken.jp

今、あなたにオススメ

Pickup!