このパンがすごい!

最新ベーカリーが「昭和風看板」のままの理由/ GORGE(ゴルジュ)

  • 文・写真 池田浩明
  • 2018年5月8日

外観。かつてのオグラベーカリーの看板がそのまま残る

 GORGEという新しい店ができたと聞いて、横浜の反町までやってきた。Google Mapが指し示す交差点の角にあるのは「オグラベーカリー」という看板を掲げた昭和風の古めかしい店。あれ? と思いながら中に入ると、木を使ったカウンターに、ハード系と、おかず系のパン、おやつパンとバランスよく並ぶ、最新式ベーカリー。やはりここは目指すGORGEだったのだ。

小林真紀子さん

 うれしいのが、イートインスペースとコーヒーマシーンの存在。クロワッサンとコーヒーという鉄板コンビを注文、窓辺の席に陣取った。しゅりしゅり細かく割れる薄い皮、中身のやさしいもっちり感。ふゎーっと広がるバター感の中に、小麦のうまみもしっかりと。コーヒーは豆の甘みがありながら、えぐみがなく、パンを邪魔しない。三軒茶屋「オブスキュラ」の豆というから納得だ。

イートインスペースでクロワッサンとコーヒー

 なぜ、一見昭和風? 小林公平シェフは、オグラベーカリーの初代である祖父から数えて3代目。小林さんが大学生の頃、2代目だった叔父は亡くなり、この店を継ぐことを決意。約10年間、シャッターを閉めたままだったこの店に、修行を終えて帰ってきた。看板を継ぐことで、かつての記憶を残したのだ。

小林公平シェフ

 GORGEのパンは、オグラベーカリーとはまったく別。この10年、パンシーンは変わった。大きなちがいは、国産小麦の進化。

 たとえばバゲット。強靱(きょうじん)にして爽快な皮の風味は、地元・神奈川県産の湘南小麦と十勝産の石臼挽(び)きホクシンという日本を代表するような2種をブレンドすることで生まれる。

バゲット

 GORGEは国産小麦をメインに据える(ライ麦だけはドイツ産)。小林さんが最初に師事したのは、伝説のパン職人、いまは亡きブノワトンの高橋幸夫氏。神奈川県伊勢原市に製粉プラント「ミルパワージャパン」を建設した、国産小麦・地産地消のパイオニアだ。

 師の遺志を、小林さんは継ごうとしている。地産地消でいうなら、伊勢原に隣接、小林さんの地元である秦野の桜で作る「秦野産桜を使った酒種の桜あんぱん」。

秦野産桜を使った酒種の桜あんぱん断面

「食用の桜の8割が秦野産。春には丘の上の桜の畑がピンクに染まります。地元のものを知ってほしくて、去年は自分で木に登ってつぼみを摘んで、梅酢に漬け込みました」

 酒種の生地はもっちりたわむ。はじめ桜はほんのり香る。中心にたどり着くとき、埋め込まれた桜の香りと塩気があんこと混ざり合い、風味は爆発。国産小麦ならではのお米のような味わいもあんこといい相性を見せる。

 GORGEのパンの多くに感じられる小麦の明るい甘さ。小林シェフが好んで使う北海道産キタノカオリの味わいである。あおさのリュスティックは、キタノカオリの甘さと、あおさのすがすがしい海の香りが交わるところに生まれた新鮮なおいしさ。かりかりな皮、もっちりなクッション。塩気がうまみを呼び、すがすがしさはうまみの沼に沈み込んでいく。

 あおさは、近くにある横浜中央卸売市場で仕入れたもの。料理人としても働いていたキャリアを生かして、市場で仕入れた素材を使っている。たとえば、ベニズワイガニのほぐし身を使って作る、トマトフォカッチャ。平たいパンにトマトソースをかけて焼きあげる。

じゃがいものフォカッチャ、ソーセージのフォカッチャ、クロックムッシュ、トマトソースのフォカッチャ

 前歯は「あれ噛(か)んだ?」というぐらい軽やかなふんにゃりもっちり。下の歯で噛む底面は引きがあり、ぷつんと快楽のちぎれ。トマトの酸味の中にカニのうまみがとろとろふつふつ湧き立つ。小麦の甘さとソースの出会いは、ゆであがったばかりの生パスタをほうふつとさせた。

 カフェスペースからパンを作る小林さんの姿はなんとなくしか見えていなかったけれど、厨房(ちゅうぼう)の小林さんのほうからは、こちら側は意外にもくっきり見えていた。オグラベーカリーのものを残したガラス越しに、おいしそうなパンを見てお客さんがよろこんでいる姿、町の景色、朝日も見える。祖父も、叔父も見た同じ景色を見ながら、新しいパンを作る。

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■GORGE
神奈川県横浜市神奈川区反町3-23-1
045-321-3550
8:00~20:00(日・月 休み)
https://www.instagram.com/pain_gorge/

>>「このパンがすごい!」でご紹介した店舗マップはこちら

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PROFILE

池田浩明(いけだ・ひろあき)ライター

池田浩明

佐賀県出身。ライター、パンの研究所「パンラボ」主宰
日本中のパンを食べまくり、パンについて書きまくるブレッドギーク(パンおたく)。編著書に『パン欲』(世界文化社)、『サッカロマイセスセレビシエ』『パンの雑誌』『食パンをもっとおいしくする99の魔法』(ガイドワークス)、『人生で一度は食べたいサンドイッチ』(PHP研究所)など。国産小麦のおいしさを伝える「新麦コレクション」でも活動中。最新刊は『パンラボ&comics 漫画で巡るパンとテロワールな世界』(ガイドワークス)

BOOK

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写真

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