川島蓉子のひとむすび

<41>メインは“人”。ソックスの技が花開く「ANTIPAST」の服(後編)

  • 文・川島蓉子 写真・鈴木愛子
  • 2018年5月9日

  

>>ANTIPAST(前編)からつづく

 前回は、レッグウェアブランド「ANTIPAST(以下、アンティパスト)」を紹介しました。華やかで精緻(せいち)な花柄や、細かい幾何柄など、すてきなソックスやタイツがそろっているブランドで、カトウキョウコさんとジヌシジュンコさんの2人が手がけています。今回は、レッグウェア以外に展開しているウェアやアクセサリーの考え方や、25年以上経つブランドの“らしさ”を見直したエピソードなどに触れたいと思います。

楽しいラインアップがそろっている「アンティパスト」の服の群れ

 「アンティパスト」の展示会に行くと、ソックスやタイツと一緒に、服がたくさん並んでいます。ロマンティックなのに大人っぽい、遊び心があるのにエレガントというレッグウェアの特徴が、服にも表現されていて、魅力いっぱいの世界が繰り広げられているのです。

 考えてみると、服を発祥とするブランドがレッグウェアを手がけることはあっても、レッグウェアのブランドが服をここまで広げている例は、他に聞いたことがありません。なぜ「アンティパスト」は、服を作るようになったのでしょうか――モノ作りのため、頻繁に工場を訪れてサンプルをチェックしながら、首に巻いてみたり腕をくぐらせてみたり、「他のアイテムもできないか」と思って、作ってみたのがきっかけだったのです。

 服の布地に比べ、ソックスやタイツの編地は、幅が狭いものが多いなど、制約の中でデザインしなければなりません。そこにかけた知恵と工夫が、ユニークで楽しいモノ作りにつながっていきました。

「メッシュ」シリーズのカーディガン、前面に施されたフロッキー柄と、襟ぐりと袖口のリボン使いがチャーミング

 お話を聞いて面白かったのは、まず「アンティパスト」の服の中で、定番的な存在になっている「メッシュ」シリーズのこと。透け感があって伸縮する素材に色柄が付されたもので、プルオーバーやカーディガンなどに仕立ててあります。軽くてストレッチ性があるので着やすい、コンパクトにたためてシワにならないので、旅行や出張にも便利と、ロングセラーになっています。

 これはもともと、ある工場から「ストッキング用の布が余っていて、何とかできないか」と相談を受けたのがきっかけでした。ナイロンなのに、コットンのような肌触りに惹かれた2人は、きれいな色に染めるための試行錯誤を繰り返し、フロッキーという手法で柄をのせ、3年ほどをかけて服に仕立て上げたのです。

 もうひとつ、こんな話も聞きました。服と違ってレッグウェアは、最小ロット(最低限の生産単位)が大きいのです。あるタイツを作ってみたら、最小ロットが何と1000足。売り切るのがなかなか難しいことから、手袋に仕立て直したところ、思いのほか好評だったといいます。考えてみれば、脚を覆って温かさを保つタイツの実用性は、手袋にぴったりだし、「アンティパスト」の美しい色柄は、確かなファッション性を備えています。つまり、他アイテムでも十分に通用する、機能性と創造性を備えているのです。

 かと言って、すべての服が、レッグウェアを素材にしているわけでもありません。ソックス地をはめ込んだニットのカーディガンを作っているうちに、そのニット工場の技術を使って、他のニットアイテムが生まれたり、味わいのある麻との出会いが、刺繍(ししゅう)のパーツが付いたコートドレスやワンピースに広がったり、職人的な技術や、新しい素材との出会いに触発され、2人の創造性は広がってきました。

私が長年にわたって愛用しているカーディガン、前見頃のレース使いと繊細なニットのシックな組み合わせ

 そうやってレッグウェアを中心とした、上質な世界観を持っているブランドとして、国内外で確固たる地位を築いてきた「アンティパスト」ですが、ブランドが生まれて25年を前に、改めてブランドのありようを見直すことにしました。

 「メインディッシュはあくまで服であり、前菜としてのレッグウェアを提案していくこと、という考えが、どうもしっくりこなくなってきて。何となく積み重なってきた疑問や悩みを、25周年を迎える前に、きちんと整理しておかなければと思いました」

 “らしさ”をもう一度見直し、進化させていくことが必要ではないかと、2人でさんざん話し合いました。その結果、「メインディッシュはあくまで人であり、それを彩るのが『アンティパスト』ということ」で、新たなスタートを切ることに。

 「そう決めたら、ものすごくすっきりして、新たなモノ作りのステージに向かうことができるようになりました」と語る姿がうれしさに満ちている――モノが主役でなく、人が主役であるという考えが、さらに2人の創造性を羽ばたかせていったのです。

アーカイブから選ばれたソックス地が、かぎ針編みでつながれている、手の込んだカーディガンも発表

 最近、発表したのは、過去に作った編地を使った「アーカイブ」シリーズとも呼べるもの。ソックスやタイツ用に作った編地を、手仕事のニットで丁寧につなぎ、セーターの袖の部分や、カーディガンの前見頃などにはめ込んであります。

 ひとつひとつでも十分に愛らしい素材が、絶妙な配置によってハーモニーを奏で、さらに魅力がアップしています。それも、新しいものでなく、過去に作った「アーカイブ」と耳にすると、時間と技術の価値がぎゅっと凝縮されているようで、少しぜいたくな気分を味わえます。

 「メインディッシュは人」というテーマのもと、「アンティパスト」がまた、どんな新しい横顔を見せていってくれるのかが楽しみです。

■ANTIPAST

[PR]

この記事を気に入ったら
「いいね!」しよう

PROFILE

川島蓉子(かわしま・ようこ)

写真

伊藤忠ファッションシステム株式会社取締役。ifs未来研究所所長。ジャーナリスト。
1961年新潟市生まれ。早稲田大学商学部卒業、文化服装学院マーチャンダイジング科修了。多摩美術大学非常勤講師。日経ビジネスオンラインや読売新聞で連載を持つ。著書に『TSUTAYAの謎』『社長、そのデザインでは売れません!』(日経BP社)、『ビームス戦略』(PHP研究所)、『伊勢丹な人々』(日本経済新聞社)などがある。1年365日、毎朝、午前3時起床で原稿を書く暮らしを20年来続けている。
ifs未来研究所 http://ifs-miraiken.jp

今、あなたにオススメ

Pickup!