たすかる料理

按田優子さんに聞く、助けたい包みたい「按田餃子」が助かる理由

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  • 2018年5月15日

 保存食研究家の按田優子さんと、写真家の鈴木陽介さんが東京・代々木上原駅近くに6年前に開いたお店「按田餃子(あんだぎょうざ)」。水餃子をメインに、キクラゲやハトムギなど、独自の食材を取り入れた、他では食べられないメニューが人気を呼び、ミシュランガイドのビブグルマンを3年連続受賞。いまや行列が絶えない場所になっている。その按田さんが、自炊応援ブック『たすかる料理』(リトルモア)を書いた。誰が助かるのか、なぜ助けたいのか、按田さんに話を聞きました。(文・&編集部/写真・馬場磨貴)

    ◇

 月曜日の13時。小田急線の代々木上原駅すぐそばの「按田餃子」前は、うわさ通りの行列だった。カップル、お兄さん、2人連れのお姉さんが2組、1人の女性が3人……。隣の店との間の電信柱で折れ曲がって戻るよう、並び方を描いた紙が置いてある。覚悟を決めて8番目に並んでみる。すぐに、うしろにも女性2人とカップル、計3組が並んだ。

 30分経っても、列は動かない。女性1人とお兄さんが諦めて離脱……と思ったらやっと2組出てきた。というところで、按田さんに会う時間がきてしまい、編集部員も離脱。残念。

 わりと、お客さんは長居する傾向にあるらしい。だから行列は進まない。
 「1回お店に入ってもらったら、あとはその人の時間なので、あまりせかしたりもしていなくて。定食を食べたあと、まだ食べられる、あれもこれもって、いろいろ注文してくださる方が多いですね」

食べに来てくれる人を私が助けたい、わけではない(笑)

 お店のキャッチフレーズは、「助けたい包みたい按田餃子でございます」。
 そう聞くだけで、ああ、わたしのことも助けてほしい! と、すがるような気持ちになる……が、按田さんに聞いてみたら、「食べに来てくれる人を私が助けたい、っていう気持ちではないんです」と笑って言う。 

 「たとえば家族のためにとか、好きな人のために作ってあげたい料理って、私、意外にないんですよ。それよりは、自分がどうすると助かるのかを、自分でつかむきっかけの場が作れればというのに近いですね。この店がないと困るっていうのはナシ、ダメです。各自、危機管理はしておいて下さいっていうか(笑)」

 按田さんはこれまで、食品加工専門家として、JICAの仕事で6回訪れたペルーを含め、外国人と一緒に仕事をする機会が多かった。そんなときよく、片言の日本語でこう聞かれたのが心に残っているという。「ユウコ、何が助かる?」

 「その『助かる?』というニュアンスが面白いなあと、ずっと気になっていて。だから助けるのではなくて、助かる。お店でいうと、本当はその人が自分でごはんを作れるのに、たまたま今日はできないから、按田餃子に行ったら『ああ助かった』というイメージですね」

 本には、按田さんの料理のベースとなっている「自由に生きるための自炊」の方法が詳しく書いてある。ベースは、がんになったお母さんのために実践した、ハトムギ粉とキクラゲを使った食事療法。でもストイックな健康法的なレシピは皆無。かたまりの肉と魚介、芋、豆、乾物、漬物、塩、酢、スパイスの使い方まで、いかに楽に、無理なく自炊ができるか。

 「私たちって、料理について神話をインストールされていると思うんです。ひと昔前の料理上手な人は女性的で、家庭的でっていう。でもそれは本質ではないっていうか、その美意識みたいなことは自分で勝手に構築していっていいんじゃないかっていう。だからお料理好きじゃない人はしなくていいと思うし。会社に勤めに行って、そこからまた夕飯の支度をしてって、できなくて当たり前だと思うんですよね」

 結果、自炊応援本なのに「常備菜は作らない」とか、「その時食べたいと思ったものを食べられる自由を大切にしたい」などなど、按田さんの徹底的に自由な考え方に引き込まれ、読むほどに気持ちが楽になっていく。

「餃子っていったらふつう……」から脱する

 その自由な按田ワールドの象徴となっているのが、やはり「水餃子」だ。

 お店で食べられるのは4種類、「鶏肉・白菜と生姜」「鶏肉・香菜と胡瓜」「豚肉・大根とザーサイ」「豚肉・カレー風味と人参」。

 「味噌汁とカレーと餃子は、どんなに変なできあがりでもそれだ、と名乗ることができる。そのおおらかさこそが好きです」と、本には書いてあるが、実は按田さんが思い描く餃子を実現するために、結果的には考え抜かれ、選び抜かれた材料で作られている。

 上質の豚肉と鶏肉に、ハトムギ粉は、特殊な焙煎方法をしているメーカーのもの、バジルはバジリコじゃなくてホーリーバジル、しょうゆは大豆ではなく、特別な魚しょう。スパイスにはショウガを使う。どれも、「自分が思い描いている味とレシピ」を支えてくれる、この材料でないと、という食材ばかり。そこから按田さんが思う味って?

 「日本が大好きな外国人がもし、胸を張って餃子っておいしいって言えるとしたらどんな味だろう、って。もし日本に来て、餃子を食べてみたいってなったときに、日本人が普通に思う、たとえば餃子といえば豚肉で白菜でショウガとしょう油、みたいな、その“ふつうそうだろう”って思ってる自分の感覚って、実はものすごくいびつなんですよね。そこを捨てて歩み寄っていくと、どういう餃子になるだろうなと……。
 たぶんおしょうゆ味ってけっこう臭いだろうなとか、みそとか漬物もそうだと思うんですけど。そうするとどこの国でもない、ああいう味になるんです。で、まあ食べる人には、この店の餃子の味はちょっと変わってるなーとか、上から言う余地を残しておきたい(笑)」

 小さい頃から、何か作り出すのがすごく好きだった。特に映画「ロッキー」に魅せられ、続編で漫画「ロッキー5」を描いたほど。「その先を描きたいみたいな、好きすぎて。表紙にバンドエイドとか貼ってみたり。ロッキーとエイドリアンが大阪に行くんです。行ったことないから遠いイメージなんですよね。で、トレーニングする(笑)」

 誰に発表するわけでもなく、家で描いて兄と一緒に楽しんでいた。

 「自分ではそう思わないんですけど、なんかあんちゃんってユニークだねとか変わってるなっていわれることが多くて、それは自分ではわからないんですよ。で、エスニック料理屋に行くの好きなんですけど、それは味が好きっていうより、あのアウェーなところで、彼らは普通にしてるのに、とても変わった出で立ちになってる、そういう変わってる人がいると安心するんですよね」

 そんな按田さんがお店で一番大切にしていることは何かと聞いてみた。食べものの話かと思ったら、意外な答えが返ってきた。

 「スタッフみんなが、自分が作ってるっていう自覚があること。自分も参加してるという気持ちがあること。それが一番大事かなと思います。按田餃子がみんな好きってことがすごく重要。おしゃべりしてても何でもいいから、あ、今日は包みに行く日だっていう風に思っていてほしい」

 餃子1000個は、毎日、午前中にスタッフ5、6人でグループに分かれて一気に包む。おしゃべりしながらの人もいるし、もくもくとやりたい人もいるし。ちょっとこの人今なに考えてるかなって聞きたいときは、「最近仕事どうなの?」って聞いてみたり……。

 「極端なこというと、絶対に同一のものは作れない。平等とか均質っていうのは、私たちとしては神の領域。平等にとか均等にっていうし、目指すけど、そうはなっていない。だから餃子一粒一粒が全然違うものだし、1回1回の作業が全部新しい作業なんです」

なのにお店の合言葉は「たかが餃子」

 でも、そこまでこだわっていても、お店の合言葉は「たかが餃子」。

 「歌手って自分の歌いたい歌を歌ってるだけじゃないですか。餃子も同じで、自分が表現したいからしてるだけ。とても大切な場所なんですが、だからこそこんなにすごいものを作っているんだ、という自我はいらないなぁと。受け取る方は、それを好きっていうのも自由だし、口に合わないっていうのも自由です」

 そう思えるのは、共同経営者である鈴木さんのおかげでもある、と按田さんは言う。自分たちの貯金だけで店を始めた。

 「自分のやりたいことを信じてやってみてだめだったらすぐやめればいいからって。1人だったらできないと思います、やっぱり。経営と原価計算も自分で全部するから、売り上げが悪いとちょっとケチっちゃおうかなとか、発想がそっちにいっちゃうと思うんで。貯金がなくなったらもう辞めようっていうのは大きくて、別にやってもやらなくてもどっちでもいいお店というか。苦しみながら続けなきゃいけなかったら、たぶんすごくつらいですよね」

 年末には2店舗目を都内に開く予定だ。最初は、大きなキッチンにして、一度にたくさん作れるようにして冷凍し、他店舗にも配送、通販もできるシステムを考えていたが、やっぱりお店で一から作るものをメインにしたい、といまは思っている。

 「そのほうが働いていて楽しいだろうなって。会社で、言われたとおりに従順に働いてくれる子を育てたいわけじゃない。ここで働く人が生きる術とか、これはくさってるこれは大丈夫とかこれは発酵してる、とかっていうことを教えるシステムになってたらいいなと思って。漬物のつけ方や、食材の加工の仕方みたいな脈々と続いている食文化を、文献でなく、現役稼働で知れる場があるといいなあと思うんです。自炊の力がつけば、言葉がしゃべれなくても、外国に行っても死なないしとか、何か挑戦しようとかっていう気になるじゃないですか。どこに自分が行けば自分が助かるかっていうことを、見つけてほしいなと思うんですよ」

 ということで、あくまで自分で自分を助けられるようになるために、来週から3回にわたって、『たすかる料理』から、按田さんのレシピをご紹介します。

BOOK

『たすかる料理』

『たすかる料理』(リトルモア)
按田優子 著 鈴木陽介 写真

自炊はわがままでいい。台所にしばられず、自分らしく食べて、生きるには?
東京・代々木上原で行列の絶えない「按田餃子」のしなやかな生活のすすめ。

「按田餃子」は、水餃子をメインにした小さな飲食店。女性がひとりでも入りやすく、キャッチコピーは「助けたい包みたい按田餃子でございます」。

「近所に引っ越して、毎日通いたい」というお客さんの声が続出。
本書では、今まで語られてこなかった、お店の成り立ちや厨房の裏側、そして調理のベースになっている按田さんの自炊の方法がひもとかれます。
詳しくはこちらへ
税込1728円

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PROFILE

按田優子(あんだ・ゆうこ)

菓子・パン製造、乾物料理店などを経て独立。その土地の気候を生かした保存食に興味があります。かつて仕事でペルーのアマゾンを訪れること6回。餃子屋を開くなんて夢にも思いませんでした。

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