上間常正 @モード

デザイナー以外がデザインするブランドの新たな可能性

  • 上間常正
  • 2018年5月11日

 直接の服作りとは異なる立場で長くファッションの第一線の現場に関わった女性が、自分の経験を込めて自分のブランドを立ち上げる。そんな試みが増えている。テーマやスタイルはそれぞれ違っても、自分と同じ4、50代の女性を主な対象に、現代的なファッション感覚を日本の素材や縫製技術を使って表現し、長く着られる上質な服を目指している点で共通している。いくつか紹介すると――。

  

 まず、今年春に実質スタートした「HIRUME(ヒルメ)」。モード誌「VOGUE」、「ELLE」の副編集長などジャーナリストとしての経験や、アート、デザインや社会貢献などのプロデュースも続けている生駒芳子が、日本の伝統的な工芸技術を使った和のモチーフで現代の感覚に富んだラグジュアリーな服やアクセサリーなどを作った。

 表地は加賀繍(かがぬい)や江戸小紋、裏地に金襴を施したスカジャン。鮫(さめ)紋様の江戸小紋を現代的にデザインしたプチ・ブラック・ドレスやストール、金や銀の箔(はく)のクラッチバッグ、金沢の漆や蒔絵(まきえ)のジュエリーや腕輪など、どれも淡いがラグジュアリーな光を放つ印象を受ける。

  

 生駒が商品のイメージを企画して素材を探し、デザインはヨウジヤマモトを卒業して自分のブランドをパリで立ち上げた敏腕デザイナーが担当している。生産は客の体形に合わせて微調整するセミオーダーが中心で価格が数10万円になるものもあるが、カジュアルなラインもあって、ドレスでも10万円台で買える。銀座の老舗セレクトショップ、サンモトヤマで初の受注会が開かれ、商品も展示されている。

 「日本から発信する新たなラグジュアリーのプラットホームになるよう、私のライフワークとして取り組みたい」と生駒。

ten.(テン)

 ギンザコマツのバイヤー、ファッション企画、ジャーナリストなどの活動を続けてきた萩原輝美が今年春夏物から立ち上げたブランドは「ten.(テン)」。コンセプトは「モードを遊んできた女性の普段着」。自分の「旬」発力のある定番服で「いま自分が着たい服を作ってみた」と萩原。

 チュールを重ねた透け感のあるドレス(5万5千円)や、カシミヤのダブルフェイスのジャケットなど、デザインはシンプルで着やすそうだがシルエットはバイアスなどで洗練されたエレガンスを感じさせる。素材の質感とクオリティーにはこだわりがあって、服のパターンはパリのオートクチュールメゾンで活躍しているパタンナーに協力してもらっている。しかし「普段着として買える値段になんとか抑えている」という。

 松屋銀座などを担当するフリーのファッションディレクター、関本美弥子が立ち上げた「Ma Robe(マローブ)」は、こうしたブランドの先駆けの一つ。デザインも自ら担当し、今年で4年目になる。米国でファッションマーケティングを勉強し、流行の先端を見続けてきたが、デザインは初めて。

Ma Robe(マローブ)

 外国のトップブランドのドレスを全部着たけれど、「素材と縫製の質が高くて長く着られ、日本人の体形に合うドレスは無かった。それなら自分でデザインして作ろうと思った」のが始めた理由だという。縫製はパリのオートクチュールも担当している東京の業者が協力している。

 デザインはシンプルだが、40代の女性をきれいに見せる工夫と、日本の高い品質の素材選びに時間とコストをかけている。「利益は薄くなってしまうけれど、長く続けていきたい」。毎年、4月と11月に小さなサロン形式で受注会を開いている。客どうしの楽しい会話も生まれて、そこからデザイン企画のヒントが浮かぶこともあるという。価格はドレスで7~8万円、コートだと9~15万円。

Ma Robe(マローブ)

 これらのブランドの共通した特徴は、日本の素材と日本の伝統工芸技術も使って日本で生産していることだ。そしてテイストはそれぞれ少しずつ違っていて、長く着られる少量生産であること。パリを中心とした欧米のトップブランドの高級既製服(プレタポルテ)の大量生産方式が行き詰まっている中で、こうした特徴は、今後の新たなファッションの方向性についての大きな可能性を示しているように思える。

 20世紀後半以後、世界のトップファッションの一角を担い、同時に優れた伝統的素材や工芸技術をもつ国。考えてみればそんな国はいまのところ日本しかないのだ。

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PROFILE

上間常正(うえま・つねまさ)

写真

1972年、東京大学文学部社会学科卒業後、朝日新聞社入社。88年からは学芸部(現・文化部)でファッションを主に担当し、海外のコレクションなどを取材。07年から文化学園大学・大学院特任教授としてメディア論、表象文化論などを講義。ジャーナリストとしての活動も続けている。

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