モードな街角

伝統と現代性 英国王室御用達のコーヒー屋

  • 文 佐藤丈春
  • 2015年7月22日

H.R. Higginsのショッピングカウンター。チャコールグレー風のペイントを施してモダンな店内だが、1950年代から使っている銅製のコーヒー豆の保存缶も存在感を放つ

写真:3代目のデビッド・ヒギンスさん。創業から現在に至るまでの経緯を雄弁に語った 3代目のデビッド・ヒギンスさん。創業から現在に至るまでの経緯を雄弁に語った

写真:創業まもない頃から豆の分量を計るのに使われてきた天秤(てんびん) 創業まもない頃から豆の分量を計るのに使われてきた天秤(てんびん)

写真:新たに設置されたカウンターで話し合う小半田幹志さんとデビッドさん。ここで豆に関する相談に乗ってくれる 新たに設置されたカウンターで話し合う小半田幹志さんとデビッドさん。ここで豆に関する相談に乗ってくれる

写真:1979年にエリザベス女王から認定されたコーヒー屋であることの証しが掲げられている 1979年にエリザベス女王から認定されたコーヒー屋であることの証しが掲げられている

写真:1930年代初頭のハロルド・リーズ・ヒギンス氏がケニヤ・コーヒーカンパニーで作業中の写真が、地下のカフェでディスプレーされている 1930年代初頭のハロルド・リーズ・ヒギンス氏がケニヤ・コーヒーカンパニーで作業中の写真が、地下のカフェでディスプレーされている

写真:春にオープンした地下のカフェの内装。コーヒー豆にインスパイアされた床と、丸みのある天井ランプ。右奥には、薄いピンクのアルテック社のスツールがある 春にオープンした地下のカフェの内装。コーヒー豆にインスパイアされた床と、丸みのある天井ランプ。右奥には、薄いピンクのアルテック社のスツールがある

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 ロンドンの高級住宅街メイフェアのデューク・ストリートでひっそりと営まれている「H.R.ヒギンス」(H.R.は創業者ハロルド・リーズの略)というコーヒー屋をご存じだろうか。エリザベス女王がごひいきにしているコーヒー屋として知られていて、日本でも展開している。

 店はとても小さく、少しひっこんだところにあって、ロンドン生活10年目の筆者でも見過ごしていたくらい謙虚なたたずまいだ。この通りには最近、メンズウエアのブランド、「イートウツ(E.Tautz)」や「プライベート ホワイト V.C.(Private White V.C.)」がオープンして、ファッショニスタが立ち寄る通りに変化してきていたのだが、そんな中H.R.ヒギンスが1986年以来の「再装飾」を果たし、再び注目すべき存在になった。

 「リニューアル」ではなく「再装飾」という言葉を強調するのは、ヒギンス家3代目オーナーのデビッド・ヒギンスさん。「ヒギンスのコーヒービジネスは46年にスタートしました。祖父のハロルド・リーズがゼロから築いたものと、2代目の父トニーが受け継いだものを守り、現代風に装飾していくことが必要です。古いものを頑固に守ろうとして、若者が近寄りづらく感じる、という結果は招きたくないですし、逆に近年よく見かける”リニューアル”をして全く別の店のようにすると、昔からの顧客が離れて行く可能性もあります」。

 その言葉どおり、内装はコンテンポラリーでフレッシュになったものの、例えば父が集めたグラインダーの陳列は以前と変わらないし、50年代からコーヒー豆を保管し続ける銅製ケースの数々やエリザベス女王の写真もそのまま陳列され、存在感を放っている。

 「今回の再装飾によって、新たに若いお客さんの数が増えました。以前からの顧客も引き続き通ってくれています。変化はしているけれど、コアの部分は変わらない、ということがお客さんに伝わっているのだと思います」と、デビッドさんは笑みを浮かべる。

 若い客層獲得ができた主な理由は、この春にオープンしたばかりの、自然光が十分に入る、居心地のいいカフェである。地上階でコーヒー豆を買い、地下でヒギンスのコーヒーや紅茶、スイーツなどをゆっくりと楽しむことができる。

 内装を手がけたのは、デビッドのビジネスパートナーの妻でファッションデザイナーのアン・ルイーズ・ロスワルドさん。床にはコーヒー豆からヒントを得たタイルが張られている。丸みを帯びた天井のランプ、ほんのりとピンクに塗装されたアルテック社(フィンランド)のスツールなどが女性らしさを感じさせる。

 この再装飾のリーダー的存在になっているのは、ロンドン在住15年の小半田幹志(こはんだかんじ)さん。ヒギンスの常連だった父の幹雄さんがロンドンの日系企業でのビジネスを終えて97年に帰国することになった際、2代目のトニーに依頼し、日本での販売代理業を開始することとなったのだ。神戸と恵比寿三越に店がある。

 息子の幹志さんは本家本元に参加し、ロンドンと日本を視野に入れた今後のマーケティングに意欲的だ。

 「イギリスと日本での、ここ最近のコーヒーの人気ぶりには目を見張るものがあります。創業した1946年から86年までの40年間は、店内にロースタリーがあって、においに引き寄せられた人たちの行列ができていたそうです。
 東京にブルーボトル・コーヒーができて大行列ができているから、ヒギンスも歴史に基づいたブランディングをすれば、日本でも人気のコーヒー屋になれると思うんです」と幹志さん。

 現在ヒギンスは、ロースタリー併設のロンドン2号店のオープンを計画中だという。2号店では1986年以前を再現したいのだそう。英国王室御用達の強みを活かして、イギリスと日本でどこまで発展するか、楽しみだ。

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PROFILE

佐藤丈春(さとう・たけはる)

スタイリスト/コンサルタント。英国王立芸術院卒業。雑誌『モノクル』に創刊から約7年、ファッションディレクターとしてかかわり、2014年春、ロンドンで独立、Také Sato Ltd.を立ち上げた。日本、アジア、アメリカ、ヨーロッパ、中東、オーストラリアにクライアントを持つ。www.takeharusato.com

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