上間常正 @モード

五輪エンブレム“盗作問題”とファッションデザイン

  • 文 上間常正
  • 2015年8月14日

写真:記者会見でエンブレムのデザインの過程を説明する佐野研二郎さん 記者会見でエンブレムのデザインの過程を説明する佐野研二郎さん

写真:2020年東京五輪のエンブレム 2020年東京五輪のエンブレム

写真:ベルギー「リエージュ劇場」のロゴ ベルギー「リエージュ劇場」のロゴ

写真:スペイン「ヘイ・スタジオ」が手がけたデザイン スペイン「ヘイ・スタジオ」が手がけたデザイン

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 東京五輪・パラリンピックのエンブレムが、ベルギーとスペインのデザイン作品と似ていると指摘されて問題となった。ベルギーのほうは著作権侵害だとして裁判所への提訴も辞さない構えなので、騒ぎはまだ続きそうだが、ファッションの世界では盗作やコピー商品の問題はよく起きていることなので、関連して考えてみたい。

 ベルギーのほうは、リエージュの劇場のロゴマークとの類似との指摘。黒い円の地に劇場とリエージュの頭文字TとLを白抜きでイメージさせたシンプルなデザインだが、それが東京五輪のTと円を組み合わせたエンブレムとそっくりだとのこと。デザイナーのオリビエ・ドビさん側は「盗作だ」として、日本オリンピック委員会(JOC)にロゴマークの使用差し止めを求めている。

 JOC側は、国際オリンピック委員会(IOC)や東京五輪・パラリンピック組織委員会の意向も踏まえ、「オリジナリティーについては問題ない」と反論。エンブレムをデザインした佐野研二郎さんは、今月5日の記者会見で「盗用との指摘はまったくの事実無根」と作品の独自性を主張した。一方、スペインの場合はスマートフォンの画面用「壁紙」だが、こちらのほうが印象はより近いと思えるのに、「インスピレーションを与えたとしたら誇りに思う」と大人の構えだ。

 記者会見で佐野さんは、デザインの要素としては同じものがあってもデザインの考え方が違う点を強調している。確かにこの二つのデザインの印象はまったく違う。意図的に並べて見て指摘されなければ似ているとも思わないだろうし、ましてやリエージュ劇場のロゴマークを見て東京五輪の関連施設と勘違いすることなどまずあり得ないだろう。その意味では、ドビさん側が提訴の当事者として適格かどうか疑わしいともいえる。

 とはいえ、もしベルギーでの裁判となれば、そう簡単には決着がつかないだろう。盗作ではないとすれば、その理由をきちんと説明し続けることが必要だ。

 そこでファッションなのだが、こちらの場合はやや事情が違う。エンブレムやロゴのデザインと比べると、ファッションデザインでは要素(服の形やアイテム)の数と種類がかなり限られている。要素の類似を言えばたいていのデザインは盗作となってしまうため、今回のような指摘はほとんど起きない。問題となるのは、表現の意図やデザインの印象が似ている場合だ。

 しかし極端なコピー商品を別とすれば、表現や印象の類似性というのはなかなか判断しにくい。たとえば、これはアレクサンダー・マックイーンとかコムデギャルソンのパクリだと思うこともよくあるのだが、実際にそれが正式な抗議や訴訟になることはあまりない。真似た方と真似られた方には明らかな差があって、間違えられることはほとんどないからだ。

 シャネルのデザインは昔からよく盗用されてきたが、創始者のココ・シャネルは「真似されないようでは本当の優れたデザインじゃない」とうそぶいていたという。むしろ多くのデザイナーがシャネルの革新的なスタイルを真似たことが、ファッションデザインが全体として進歩してきた一つのきっかけになったともいえる。よくいわれるように、学ぶことはまず真似るから始まるのだから。

 ある有名なファッションデザイナーはデザインの盗用を指摘されて、「それがどうした。私はそれをまったく新しく生まれ変わらせたのだ」と平然と答えた。東京五輪エンブレムの佐野さんも、基本的には同じように胸を張っていればいいと思う。

 ただし個人的な思いであえて言えば、赤い大きな円と金色の五輪マークをあしらった前回の東京五輪のエンブレム(亀倉雄策デザイン)は、よりシンプルで圧倒的なインパクトがあった。そんな迫力の前には盗用などとの指摘は起きようもなかったのだ。

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PROFILE

上間常正(うえま・つねまさ)

1972年、東京大学文学部社会学科卒後、朝日新聞社入社。88年からは学芸部(現・文化部)でファッションを主に担当し、海外のコレクションなどを取材。07年から文化学園大学・大学院特任教授としてメディア論、表象文化論などを講義。ジャーナリストとしての活動も続けている。

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