モードな街角

没後30年、フランスの喜劇俳優「コリューシュ」に再注目

  • 文 田村有紀
  • 2016年10月26日

フランスの国民的コメディアン、コリューシュを称える「コリューシュ」展は、パリ市庁舎で開催中。入場無料。会場内は劇場を思わせる遊び心を効かせた展示で、老若男女問わず楽しめる内容

写真:コリューシュことミシェル・コルッチは1944年パリに生まれ、郊外の貧しい母子家庭で育った。69年に劇場カフェでキャリアをスタート以降、テレビやラジオ、映画でも活躍。労働者の作業服であり、子供服を連想させるサロペットがトレードマーク (c)André Perlstein collection privée コリューシュことミシェル・コルッチは1944年パリに生まれ、郊外の貧しい母子家庭で育った。69年に劇場カフェでキャリアをスタート以降、テレビやラジオ、映画でも活躍。労働者の作業服であり、子供服を連想させるサロペットがトレードマーク (c)André Perlstein collection privée

写真:ボクシンググローブをはめて、極端に小さなバイオリンでシャンソン『さくらんぼの実る頃』を稚拙に弾くコントは、コリューシュの十八番だった(c) André Perlstein collection privée ボクシンググローブをはめて、極端に小さなバイオリンでシャンソン『さくらんぼの実る頃』を稚拙に弾くコントは、コリューシュの十八番だった(c) André Perlstein collection privée

写真:1980年12月14日付のフランスの週刊誌『ル・ジュルナル・ディマンシュ』で、大統領選へ出馬したコリューシュへの予想投票率が16%に到達したことを知らせる巻頭記事。翌年3月に出馬を断念するまでの間、これをきっかけにさらなる圧力や検閲を受けるようになった 1980年12月14日付のフランスの週刊誌『ル・ジュルナル・ディマンシュ』で、大統領選へ出馬したコリューシュへの予想投票率が16%に到達したことを知らせる巻頭記事。翌年3月に出馬を断念するまでの間、これをきっかけにさらなる圧力や検閲を受けるようになった

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 フランスを代表する喜劇俳優、コリューシュの展覧会が、パリ市庁舎で幕を開けた。

 日本ではあまり知られていないが、本国では国民的スターである。30年前に不慮のバイク事故で早世したものの、不朽の人気を誇り、昨年『フィガロ』誌が行った投票「フランス人が大好きな歴史人物」でもトップ5に名を連ねている。

 コリューシュといえば、差別や偏見といったタブーをネタにした辛辣(しんらつ)なコントで知られ、たびたび検閲の対象にもなったほど。81年には大統領選に出馬して世間を騒がせた。結局さまざまな圧力を受けて辞退を強いられだが、コリューシュへの予想投票率は予想外に16%まで伸びていた。

 挑発的なコメディアンでありながら、貧しい出自を忘れず、弱者へ寄り添う姿勢を示し続けたことも有名だ。85年には、無料で貧困者へ温かい食事を施すチャリティー活動「心のレストラン」を創始。この活動は現在も継続され、今や全国2千カ所を超えるセンターで、年間1億3千食を超える食事が施されている。

 没後30周年という節目ではあるが、いまパリで彼を大々的に称えることは興味深い。元妻のヴェロニークの提案によって結実したこの展覧会は、幼少時代のドキュメントをはじめ、テレビや映画から豊富な映像や写真、愛用の衣装や楽器の数々などを披露している。本人の運転により世界最速記録を出したバイクの実物もある。未公開の品々が多く集められ、コリューシュが情熱を傾けた世界が生き生きと伝わる展示となっている。

 パリのアンヌ・イダルゴ市長は、コリューシュの「知性と率直さが、日に日に恋しくなる」と序文を寄せている。展覧会に訪れた60代の女性は「懐かしい」と一言。「もしこの時代にコリューシュが生きていたら、言いたいことがたくさんあるでしょうね」

 けれど、かつてコリューシュが発したような歯に衣着せぬ毒舌は、一連のテロ事件以来、今となってははばかられる雰囲気だ。厳戒態勢がいつまでも続くなか、何を発言するにしても「表現の自由だから」と無邪気に正当化することは難しくなった。そんな状況のやるせなさを、現在この街に生きる人々はどこかで感じているのではないだろうか。

 この展覧会では“コリューシュ節”を笑うことで、来場者の間に不思議と連帯感が生まれているような印象を受けた。その「笑い」の前提にある文化や常識を共有せずとも、逆境を超えて受け継がれるフランス人のユーモアに触れる好機であることは間違いない。来年1月7日まで開催。

  ◇

「コリューシュ展」
Exposition «Coluche»
会期:2016年10月6日~2017年1月7日
場所:パリ市庁舎 Salle Saint-Jean, Hôtel de Ville, 5 rue de Lobau, Paris 4
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PROFILE

田村有紀(たむら・ゆき)

1973年、京都府生まれ。ライター、翻訳者。『コンポジット』編集部を経て2001年よりフリーランス・ライター、翻訳者。ファッション、デザインなど文化や暮らしにまつわる人物や企業のインタビュー、ルポタージュを担当。寄稿書に『ファッションは語りはじめた』(2011年/フィルムアート社)、『ハイファッション デザイナーインタビュー』(2012年/文化出版局)、訳書に『Feel and Think: A New Era of Tokyo Fashion』(2011年/Prestel )。2004年よりフランス在住。

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