朝日新聞ファッションニュース

いいものを本気で作る 森英恵×阿部千登勢、対談

  • 2017年1月25日

森英惠(左)、阿部千登勢=東京都港区六本木、家老芳美撮影

写真:2015年、島根県立石見美術館で開かれた森英恵の作品展から
2015年、島根県立石見美術館で開かれた森英恵の作品展から

写真:1969年、「ハナエ・モリ」のサロンで洋服の採寸をする森英恵
1969年、「ハナエ・モリ」のサロンで洋服の採寸をする森英恵

写真:サカイの2017年春夏作品=大原広和氏撮影
サカイの2017年春夏作品=大原広和氏撮影

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 2017年、人々の装いや暮らしはどんな方向に向かうのか。共に世界的なファッションデザイナーで、子育てもしながら一線で活躍してきた森英恵と阿部千登勢に語り合ってもらった。

森さん「着るもので何かを表現、特別なこと」

阿部千登勢 森さんは女性が世界的に活躍することがまだ大変な1960年代に海外に出ていかれた。きっかけは何だったのでしょうか?

森英恵 戦後は好きな服はもちろん、着るものもなかったので、自分で作りましょうと学校に行き始めて、服を作っていたら人に着せたい気分になって、仕事を始めて夢中になった。そういう中で何かのエネルギーが私をあっちへこっちへと導いて、ついに外国に向けて突き動かしてくれたように思います。

阿部 何かに突き動かされるという感覚。わかります。私も日本以外のもっと多くの人に服を見て欲しいという気持ちだけで、パリ・コレクションに参加しました。

 自分にエネルギーがないと出来ませんものね。私の場合は最初に行ったのが米国で、戦争に負けた日本人としての意地を込めた部分もありました。でもそんな意識を超えて、人間同士の感じ方や感覚が自然に伝わったようにも思います。向こうからすれば日本は遠い国で、苦労はしましたが、面白かったですね。

阿部 私たちアジア人が欧米のファッション界で受け入れられやすかったのは、森さんを始め、三宅一生さんや川久保玲さん、山本耀司さんたちが先に出ていって、日本の服はいいと広めてくださったからです。

 私は、日本航空の客室乗務員の制服を頼まれたのもひとつのきっかけでした。外国で日本人をどう見せるかというね。

阿部 どう見せようと?

 独特の黒髪が生きる服で、日本女性の上品さを表したかった。ジャンボ機導入の時に作ったワンピースはミニ丈。だから、上の棚に手を伸ばしてもいいように、スカートの下のガードルやタイツまでデザインしたんです。

阿部 森さんのブランドのシンボル、チョウのマークには、女性が飛び立つという意味もあるのですか。

 ええ。私が育った島根県は田んぼや山に囲まれていて、春にチョウが出てくる光景がずっと頭にありました。チョウはきれいで軽やかで、形も多種あって、時に海を越えて飛んでいきますから。

阿部さん「楽しさ・自信を実感、服ならでは」

 私には息子が2人いて、孫が7人、ひ孫が3人いますが、阿部さんにもお子さんがいらっしゃるんですね。

阿部 はい。大学生の娘で、19歳です。

 あなたはコムデギャルソンにいらしたんですって? いいスタートでしたね。知的で、美しい物をよくつかんでいる、素晴らしいブランドだと思いますよ。

阿部 そこで約10年働いて、娘が生まれて仕事と両立できないと思って辞めたんです。でも、子どもは可愛いけれど、大好きな仕事を諦めて、寂しくて毎日泣いていたような感じだった。そしたら夫が子育てをしながらできることをやってみたらと言ってくれて、最初は5型だけニットを作ってブランドを始めました。家族の協力がないとダメですね。

 お子さんがいると生活があたたかいでしょう?

阿部 ほっとします。

 私の夫(故・森賢氏=ハナヱ・モリグループ会長)も、静かに見守りながらサポートしてくれました。キッチンでお料理して、子供たちも亭主も食べるというのが幸せな時間でした。

 阿部 私も毎日はできないですがやっています。さっきまで仕事で海外とやりとりしてて、今は家で料理したりスーパーで買い物したりということが幸せなんですね。

 生活にアクセントをつけながら、続けた方がいいわよ。子どもは教育の問題がありますよね。

阿部 うちの娘は何になりたいかといったら、自分で何か発信したいと言うのです。夫もデザイナーで、娘の教育はちゃんとみられなかったかもしれないけれど、親の背中を見てくれていたからなのか……と思います。

    ◇

 最近、男と女が同じような服を着ているのは問題だと感じるのよ。男女の違いが相対的に影響しあって生まれる独特なムードが人間社会に大事なことだと思うのね。

阿部 私が作る服は男女の要素をミックスしていますが、男女全く同じではいけないと思っています。

 人間の肌は敏感で、そこから感じ取るものは精神的に影響するんですよ。

阿部 着心地がいいことは大事ですね。洋服はアートではなく着るものですから。

 私たちが今一番恐れないといけないのは、着ることが重要でなくなることでは? 着ることの意味が以前よりも軽くなりましたよね。人間が着るもので何かを表現するのは特別なことなのに。

阿部 そんなことになったら、私たちの仕事がなくなってしまいますね。

 ファッションは未来を先取りして発想して形にしていくものですから、心が躍る仕事。人々の生活を追求して形で表現して、役立つ物を作っているわけですから。

阿部 着て、楽しかったり自信が持てたりするのは、服ならではのこと。服を着ていただくためにも、自分の会社をもっとクオリティーの高い集団にしていきたい。服の質だけでなく、会社としてちゃんと社会に対応ができているか、世の若い人たちに何かできているか……。

 これからは、そんないいものを作りたいという本気が、さらに大事になってくるんでしょうね。

 (構成=編集委員・高橋牧子)

    ◇

 森英恵(もり・はなえ)1926年、島根県生まれ。51年、洋裁店を新宿に開店。65年ニューヨークで作品を発表し、77年からパリ・オートクチュールに参加、2004年に引退。96年文化勲章受章

 阿部千登勢(あべ・ちとせ)65年、岐阜県生まれ。99年、ブランドsacai(サカイ)を開始。2004年パリで展示会、11年からはショー形式で新作を発表

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